妹がドタバタと急いで母を手伝いに行く。
僕はゆっくりと立ち上がりキッチンへ向かう。僕は母妹僕のグラスを食器棚から出し
「氷いるー?」
と食器を置いたり、箸を置いたりしている母と妹に聞く。
「いらなーい」
「私も大丈夫」
「飲み物は?」
「私はーココティー!」
「私もー」
「あいよぉー」
そういうやり取りを交わし、母と妹のグラスには氷なしでココティーを
僕は氷を入れソラオーラを注ぐ。
ベテランの居酒屋の店員さんでもない僕には
さすがに飲み物の入ったグラスを3つ持てないのでキッチンのカウンター越しに妹に1つ手渡す。
「あんがとー」
そして母と僕のグラスを持ち、テーブルに向かう。母の食器の横にグラスを置く。
「ありがとね」
僕も自分の席につく。白米の盛られたお茶碗。
キャベツの千切りとエビフライが3本に恐らく白身の魚のフライが乗ったお皿。
わかめとお豆腐のお味噌汁。手を合わせる。
「いただきます」
3人ほぼ同じタイミングだったが言い方やペースが違いバラバラになる。
湯気の立つお味噌汁を息を吹きかけ気休め程度に冷まして啜る。
猫舌で熱いのは苦手だがお味噌汁はあったかいほうが美味しい。という謎の拘りを持っている。
サクサクのエビフライを食べ白米を食べる。
テレビを見たり母や妹と話したりして食べ進めていると
あっという間に白米が盛られたお茶碗は空に
エビフライなどの乗ったお皿にはフライの衣や千切りキャベツの欠片、ドレッシングが残り
お味噌汁のお椀もお味噌汁の粒とほんの少しの残り汁が残り夕ご飯を完食した。
手を合わせて
「ご馳走様でした」
と小声で言う。母と妹は千切りキャベツがあと3口くらい残っており
僕はご馳走様をしてから少しして立ち上がる。
食器一式とお箸を持ちキッチンへ向かう。シンクに置き水に浸ける。すると母と妹の
「ご馳走様でした」
が聞こえる。2人が食器を持ち、キッチンへ来ようとしていたので
「あぁ、もらうもらう」
とキッチンのカウンター越しに手を伸ばす。母と妹は
「お、あんがとー」
「じゃあ、お願いね。あ、水に浸けとくだけでいいからね?」
というので
「あいよ」
と言い2人の食器一式を受け取り水に浸ける。
キッチンから出ると母と妹はソファーでテレビを見ていた。
妹はたまにスマホをいじっていた。
僕はついさっき座っていた夕食を食べた席に座りテレビを眺める。
「あぁこれは板チョコ型UFOですね」
とUFOUMA特集の番組でUFO専門家が言っていた。
「なに板チョコ型UFOって」
と笑いながらスマホをいじる妹。
テレビでは再現で製作された「板チョコ型UFO」のCGが映し出されていた。
「これだろ」
右足だけをイスの上に乗せ、その右足の膝に右肘を乗せ、そこに頭を乗せた状態で妹に言う。
妹はスマホから顔を上げそのCGを見る。笑い出す。
「な に こ れ。宇宙人てバカなの?」
ケタケタ笑う。
「これはー…。バルーンかな?」
と母が割と真剣な顔で言う。
「あぁ〜お腹痛い」
妹がお腹を摩る。
「バルーン?」
母の言葉に疑問をぶつける。
「ほら、デパートの屋上とかセールとかフェアやってるときに店が目立つようにつけるやつ」
「あぁ、あるね」
「撮られた日付とか出てないから
わかんないけどバレンタインのチョコの宣伝じゃないかな?」
まるで名探偵のような推理だ。僕は体を起こし腕を組み何度も頷く。
「あぁ、なるほどねぇ〜」
「お母さんてこーゆーの好きな割になんでもUFO!とかは言わないんだね」
妹が驚いたような表情で言う。
「ロマンはあるけど違うものは違うって認めないとね」
「さすがは2児の母」
僕がそう言うと少し誇らしげな顔をし
「さて洗い物洗い物」
と言いソファーから立ち上がり、キッチンへ向かう。
ソファーは空いたが僕は変わらず今の席からテレビを見る。
背後から水の出す音、食器がぶつかる音、食器を洗う音が聞こえ始めた。
「調査したところ宣伝用に上げられた「アドバルーン」の可能性が高いとのこと」
とテレビのナレーションが伝えた。妹が勢い良く振り返り
「お母さん!バルーンだって!」
と割と大きな声で言う。僕も振り返り母を見る。
「ほらね」
とまたも誇らしげな表情をする。
「スゲェー」
と言いながら僕は立ち上がる。
「お風呂入れてくるー」
と言いお風呂場へ向かう。
「あ、お願いねぇ〜」
と言う母の声がキッチンから聞こえる。お風呂場に行き慣れた手つきでボタンを押す。
「お湯張りを開始します」
AI音声のような人間の女性の声が流れる。
蓋をしているお風呂の中から水が出て溜まっていく音がお風呂場に鳴り響く。
僕はお風呂場から出てリビングに戻る。
「夢香先入る?」
と妹に聞く。妹はソファーの背もたれに首を預け、逆さの顔をこちらに向け
「あぁー、お母さん先入ればー?」
顔が逆さで喉が張っているためガラガラの声で妹が母に言う。
「あ、私はあとでいいから夢先入っちゃいな」
「あいよぉ〜」
「あ、ちなみに、まだだからね?」
「え、まだなの?」
「今お風呂沸かしに行ったのご存知?」
「あぁ、そうか」
と言って妹はソファーでスマホをいじる。そういえばスマホ置きっぱなしだと思い
「夢香ースマホ取って」
とソファーに近づきながら話しかける。
「んー」
と言いこちらも見ずに僕のスマホを持った左手がこちらに伸びる。
「さんくす」
と言い受け取る。
僕はダイニングテーブルの自分の席に座り
また右足だけを上げ、右足だけ体育座りのような体勢になる。
スマホの電源を入れると通知があった。床につけていた左足が浮いた。
ロックを解除し、LIMEのアプリを開く。
「えぇ〜でも勇気出してもらったなら今度は私かぁ〜…。勇気いるなぁ〜」
「あれ?いつの間にか執事ができた」
そのメッセージの後に猫が驚いたスタンプが送られていた。
僕は下唇を軽く噛みながらニヤつきを隠し返信する。
返信を終え、スマホの電源を切りテーブルに置く。
テレビでは相も変わらずUFOUMA特集が流れている。
最近では明らかに合成、CGと思われるものは流れない。
モヤッっとした光か昼間に映る黒い円盤のようなものばかり。
たまに先程のような「板チョコ型UFO」なんてものが出てきても
大概は検証の結果UFOでないと判明する。
しかしUFO専門家なる人は盲目的に「UFO」だと断言する。
だから信用されないし、相手にされないのだと思ってしまう。
母のようにあらゆる可能性を潰していって、残ったものを未確認飛行物体と言うのであれば
今よりももっと業界が盛り上がるのでは?と思ってしまう。
そんなことを思っていると廊下の方から
「お風呂が沸きました」
と女性の声が聞こえてくる。
「夢ーお風呂沸いたよー」
母がキッチンから呼びかける。
「うん。聞こえてたー」
スマホをいじりながら答える妹。
「入んないの?」
と僕が聞くと
「もうちょいしてからー」
と言う。
「じゃあ入ってくれば?」
と僕は母のほうを見て母に言う。
「怜夢は?」
「ん〜オレもあとででいいや」
そう答えると
「あらそうじゃあ」
と言って廊下に行く母。UFOUMA特集好きなのに最後まで見ないんだと思ったが
瞬間的にあ、録画してんのかと思った。
UFOUMA特集が9時前に終わり、妹はリモコンでテレビ番組の一覧を見る。
「あ、9時から名探偵ロナンやるんだ」
とポツリと呟く妹。
「これこないだの映画のやつ?」
と妹に聞くが
「わかんない」
と言われてしまう。
「あ、そういえば友達がロナンの話してたけど今日やるから話してたのか」
と僕に聞こえるか聞こえないかくらいの声の大きさで独り言を呟く。
「その友達ロナン好きなの?」
「ん〜わかんない。仲良いグループ違うから」
「あぁ」
それは友達なの?と聞こうとしたが「友達の定義」は人それぞれだしやめた。
ピョンッっと飛び跳ねるようにソファーから
勢いよく立ち上がった妹はその勢いのままお風呂まで小走りで行く。
お風呂の特性なのか、扉の開く音がここまで聞こえ、お風呂に入ったなとわかってしまう。
9時になるまでなにをしようとテーブルに置いたスマホを持ち
妹がいなくなったソファーに向かう。
ソファーに腰を下ろしながらローテーブルにスマホを置き、その手でリモコンを持つ。
僕もテレビ番組の一覧を見る。
UFOUMA特集が8時48分というなんとも微妙な時間で終わったため
まだやっている番組があり、特に興味がある番組はなかったが多少時間潰しになるかと思い
チャンネルを変えた。しかし興味が無かったのでついスマホを触ってしまう。
電源を入れると通知があった。鹿島。なぜかあくびが出た。
ロックを解除しLIMEのアプリを開き鹿島とのトーク画面を開く。またあくびが出た。
2回目のあくびで目に涙が溜まり前が見辛くなったので右手のパーカーの袖で拭う。
「ごめんごめん。動画撮って編集して寝てたw」
寝てた?今までと思い返信をする。
「え、詳しく」
とだけメッセージを送りアプリを変える。
ポツッター、ニャンスタグラムを開き、テキトーに眺めるが全然興味がなく時間が潰れない。
9時までたかが10分程度なのに
まだ9時にならずどうしようか悩んだ挙句、意味のわかると怖い話を読むことにした。
夢中になり読んでいるとテレビから
「今夜は最新作公開記念!最新作に繋がる重要な過去2作品を2週連続放送!今回はー」
と女性声優さんの声が聞こえてきた。
気になり顔を上げテレビを見る。
名探偵ロナンがスケートボードで飛んだり、サッカーボールを蹴ったりしていた。
周りに好きという人がいなかったからちゃんと見たことなかったけど
人気なだけあって予告だけでもうおもしろかった。
ちゃんと見ようとスマホの電源を切る。これを機に1から見るのもありかなと思う。
しかしロナンは長編だと聞いたことがある。悩む。悩んでいると
「それではスタートです!」
と先程の女性声優さんの声と途中から説明に加わった男性声優さんが2人で
同時に始まりを告げた。
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