「では、僕達は出掛けますので”いいこ”で待っててくださいね?」
その一言を最期に彼等は数時間前に仕事へと行ってしまって、
僕は独り寝室でただ彼等の帰りを待っていた。
決して彼等へ信頼を寄せている訳ではなく、
紛れもなく足に架せられた鎖のせいだった
なんとか帰る方法を探そうと、鎖を引き摺り
家の中を模索したが、一向に手掛かりは無く、
諦めかけたその瞬間。
一つだけ行っていない部屋を見つけた
危険かどうかさえも分からないが、
もうここしかないと足を踏み入れた。
「あ”、、、ぁ”、ぐぁ、や”め”、」
部屋へと入った瞬間
何処迄も続くような虚空と暗黒に包まれる
それと共に幼少期の苦い思い出が詠み起こされ、僕は何も出来ずその場に蹲り悶えた
『あんたが居るから私の人生台無しよ!!!』
どうしようもない人間の葛。それでも大好きだった母親に
声を出すと、言う事を聞かないと、音を出すと
いつも、いつも薄暗いクローゼットの中に閉じ込められ
真艫にご飯すら食べさせてもらえなかったのだ
「ぁ”、ぐ、ごめ”ん”、なさッッ、、、すみま、ゅ、るッ、じて、」
根深くへばり付く過去のトラウマに魘され、
頭を抱えながら床に水溜りを作る
全て治った筈のあの時の凄惨な傷はそう見せ掛けただけで
精神に、肉体に、魂に、未だに刻み込まれていたのか、
嗚呼、誰でも良い、良いんだ、誰か、僕を、
「大丈夫ですよ。ゴーゴリさん、
僕達はそんな非道い事しませんから」
後方から声が聞こえた
フョードル君 が此方を見下し、此方へと手を伸ばす
数時間前までの其れは正に恐怖の対象だった筈なのに
今はただ其れが心地良く、僕の心を揺さぶる
しかし、手を伸ばしたその瞬間。
他人に受けて来た傷の数々が脳裏を過ぎり
身動きが取れず再び頭を抱え悶絶する
「誰にも触れられたくない、怖い、怖いんだ、」
視界がぼやけて、波打って落ちてゆく。
煌輝と耀く雫はカーペットの黒を写していたが、
急に視界が反転し
空いた上半身と下半身の隙間を誰かが埋める。
肌から感じる体温は氷の様に冷たい彼でも無く
子供の様に暖かく、彼に包まれてか幾分か心に安寧が戻った
瞳から止め処無く零れ落ちる宝石が自身の肩を濡らし、体温を奪ったとしても彼は抱き締め続けた
「ごめんな、こんな事して、、、でも此れしか無いんだ、」
あちらも泣いているようで不安定に言の葉が途切れる
薄ら目を開けて、眼の前の何とも不器用な彼等に母親が赤子をあやすように微笑み掛ける
「全部、受け容れるよ。」
だって僕を愛してくれるのは、紛れも無い
彼等しか居ないのだから、
コメント
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うわぁぁ…!!!ストーリーまじ大好きです🫶🏻🫶🏻全く考えつかない事してくれて見てる側とっっても楽しいです…!!!ありがとうございます🙏🏻