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夏油傑が嫉妬する
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彼女が私の横を通り過ぎようとすると、普段の彼女からは香らない匂いがした。柑橘系のような匂いは本人から嫌いだという事を聞いていたから彼女が自分で付けたとは考えにくい。第三者が彼女と接触した可能性が高いだろう。かといって私は彼女の恋人ではないし彼女が何をしていたとしても私には責めることは出来ないのだから。
「あ、夏油くん。お疲れ」
「お疲れ様、**」
私は上手く言えただろうか。仮にも好意を抱いている彼女に対して心の中はどす黒い感情で押し潰されそうだというのに。彼女の前では”優等生の夏油傑”でいたいのに。そんな事を考えてる時点で私はもう彼女の隣に相応しい男ではないのだけど。
「怪我はないかい?」
「うん、そんなに大した呪霊じゃなかったし。夏油くんこそ怪我はない?」
「私は大丈夫。心配してくれてありがとう」
かといって彼女が纏うその匂いが平気かと言われれば無理だ。私の知らない間に誰かと付き合っているなんて事を考えただけで腸が煮えくり返りそうになる。だけど、だけどと答えの出ない問答がぐるぐると駆け巡る。
「………**、その…」
「ん?」
彼女はこてんと首を傾げる。すごく可愛い。可愛いけれど今はそんな事を言ってる場合じゃない。だけど何をどう聞けばいいんだ。私は悟のように軽口を叩ける接し方をしていないしむしろ彼女が可愛すぎて何も言葉にならない。いやそうじゃなくて。
「あ、ごめん。やっぱりついてるよね、この香り」
「いや別に……………、ついてる……?」
「実はさっき、馬鹿みたいに香水振ってる人がいてさ………結構近くにいたから食らっちゃったんだよ」
きょとん、と目をぱちくりする。つまりは他人の香水の匂いが移ってしまって。誰かが牽制のために付けたのではなく、単純な事。
顔から煙が出そうなくらい恥ずかしい。恋人でもないのに、勝手に嫉妬して勝手に落ち込んで、項垂れてすごく恥ずかしい。
「夏油くん、大丈夫?」
「うん………大丈夫…少し、自分の心の狭さに嫌気が差しただけだから…」
今度彼女に似合いそうな爽やかな香りの香水を贈ろう、と考え始めた。