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完成した移動要塞に乗り込む反乱軍の皆さん。
中に入ると、快適な環境が彼らに牙を剥く。
足を伸ばして横になれるリラックスルーム。
煌気によって絶えず清潔な水の出るシャワールーム。
マッサージ機能付きの座り心地抜群の椅子。
イメージが湧かない諸君は、ちょっと良いフェリーの船内みたいなものと思って頂けるだろうか。
「すごいな、逆神くん! これはどういうスキルの種類になるんだい?」
「んー。種類ですか。うちのじいちゃんが異世界で覚えて来たスキルをアレンジしたらしいので、袋ラーメンに手を加えて汁なし担々麺作る感じですかね?」
「なるほど! それは分かりやすい喩えだね!」
「あ、分かってもらえます? 加賀美さんとはなんだかウマが合いそうだなぁ、僕!」
ヤメてくれ。六駆くん。
待望のまともな常識人とウマが合うのだけはヤメてくれ。
アレンジ汁なし担々麵と移動要塞を同列に語るな。
「とりあえず、運転してもらう人が必要なんですけどね。……チラッ」
六駆にチラ見された南雲は、心の底から震えあがったと言う。
彼の視線が既に何か悪魔じみたスキルではないのかと考えたほどらしい。
「いや、待ってくれ! 逆神くんが運転するんじゃないのか!? 君の作った移動要塞じゃないか!!」
「だって、僕、戸籍上は未成年ですから。無免許運転はちょっと」
「これ、君の中では車なのか!? 車に砲門はついてないぞ!? 要塞には車輪もないじゃない!! だから車じゃないよ! 安心しなさい!!」
「でも、ハンドルついてたらもう車じゃないですか?」
南雲は操縦を断固として拒否した。
仕舞いには「私は指揮を執らなければならん!!」と、屁理屈をこねる。
その様子を見ていた莉子は「あ、なんか六駆くんがごねる時と似てる」と、おっさんの生態についてまたひとつ賢くなった。
「じゃあ、加賀美くん! 頼まれてくれるか!?」
「すみません。南雲さん。自分、ペーパードライバーなもので。擦って傷をつけたりしては逆神くんに申し訳ないですから」
「良いじゃないか! 移動要塞だよ!? 傷がつく前提で作られているよ!!」
「しかし、作った本人の前ですよ。自分にはできません!」
加賀美の常識が異世界でも適応される。
人はこうあるべきと言うまさに鑑であるが、南雲を更に悩ませる。
「ミスター南雲! ミーはマイカー通勤しているよ! トラストミー!!」
「君は私をバカにしとるのか? これほどトラストしたくない人も珍しいよ」
「梶谷さん。僕も、あなたにだけは運転して欲しくないな」
梶谷の良くない自己主張は、彼のパーティーメンバーによって口を塞ぐと言う物理的対策を施された。
「このニワトリ、すぐ締めますんで! すみません!!」と5人同時に謝った。
「あのー。あたしも一応免許取ってるんだけどー。この前若葉マーク外れたばっかりなんだけどね。にゃははー」
南雲は論理的に考えた。
クララであれば、チーム莉子のメンバーなので何が起きても逆神六駆の不興を買うこともない。実にストレスフリーな人選であると。
「椎名くんで良いじゃないか! うん、素晴らしい!!」
「じゃあ、クララ先輩にお願いしちゃいましょうか!」
「わぁ! クララ先輩、頑張って下さいねっ! わたし、隣で見てて良いですか?」
「いいともさー! そっちの方があたしも緊張しないで済むにゃー!」
やっとこさ運転手が決まった移動要塞。
ただ、もう2つほど確認しなければならない事があった。
「煌気を燃料にすると言う話だったが、それは誰がどうやって行うのだ? もちろん、私も協力するつもりだが」
「あ。大丈夫です。僕が1人でまかないますんで。いくら南雲さんでも、こいつ動かすとなると10分くらいで倒れちゃいますよ!」
「一応聞くが、逆神くんならばどのくらい動かせる?」
「10時間は余裕ですかね。24時間になるとちょっと辛いです」
実力があるだけに、レベルの差をハッキリと認識できてしまう南雲監察官。
彼は自分の役割を「戦力」ではなく「過ぎた戦力のブレーキ」だと認識し始めていた。
南雲さん、それが正解である。
最後に彼はもうひとつだけ質問した。
「名前はあるのか? この移動要塞の。まあ、移動要塞と呼んでも問題ないけども」
「名前なら考えてありますよ! その名も、アタック・オン・リコ!!」
「六駆くーん? ちょっとこっち来てくれるかなぁー? てぇい! やぁっ!!」
「どうしたの莉子さん? ああっ!? どうして肩パンするの!? あああっ!?」
いつものように、六駆おじさんが莉子とひとしきりイチャイチャするのを、微笑ましく見つめるのがこの場にいる者の務め。
儀式が終わると、六駆がアタック・オン・リコの運転方法をクララに説明した。
「そんじゃ、出発しますかにゃー! 目指せ、帝都!! 莉子ちゃん号、はっしーん!!」
アタック・オン・リコの進撃が始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
日須美ダンジョン内で度々反乱軍の動向を本国へと送信し、彼らの動きに鬱陶しい嫌がらせをして来た、ルベルバック軍情報集積メカ・ランドゥル。
今は目視できる場所に浮遊していないものの、ここはもう敵地。
こちらの動きは筒抜けであると考えるべきだろう。
「うわぁー。また関所があるにゃー。あと、また兵隊さんが撃ってきてるけど、どうするー? 六駆くん、指示だしてよー」
「普通に突っ切って良いんじゃないですか? こんな関所程度、ホットミルクに張った膜みたいなもんですよ。あ、南雲さんに決めてもらわなくちゃ! じゃないと、責任の所在が僕ってことになっちゃう!!」
六駆おじさん、責任逃れにだけは余念がなかった。
「一応、警告だけしてくれるか? 危ないので、手を出さないようにと」
「了解でーす。じゃあ、僕が。拡声器つけといて良かった!」
「おっほん」と咳払いして、六駆が関所を守る兵士たちに呼びかける。
『あー。こちらはルベルバックの姿を取り戻す反乱軍の、アタック・オン・リコです。無抵抗の人には何もしないので、道をあけてください。さもなければ、莉子の怒りが火を噴きますよー。砲門は3つもついておりまーす』
「逆神くん? それは警告かな? 脅迫じゃないのか? おい! やーまぁーねぇー!!」
『南雲さん、無駄な抵抗はヤメて流れに身を任せましょうよ』
六駆の脅迫めいた警告の効果は抜群で、無人の関所をアタック・オン・リコは踏みつぶして進んでいく。
ちなみに、今回の関所で3つ目の被災地である。
『おっと、南雲さん。自分も別にツッコミのために通信してる訳じゃないんでした。送ってもらった地図を解析したんですけど、15キロくらい先にでっかい砦がありますよ。逆神くんに頼んで要塞のてっぺんに付けてもらったサーベイランスから、強力な煌気がブリブリ検知されてます』
南雲は「了解した」と返事をする。
これに関しては想定内なので、いつもの冷静な監察官でいられる南雲修一。
ルベルバックは軍事国家。
当然、侵攻に備えた砦だっていくつもあるだろう。
キャンポムに事情を説明すると、彼は渋い顔をして答えた。
「それはゴルラッツ砦です。厄介なルートになってしまいました。ルベルバックでも五指に入る、頑強な砦です」
その情報を聞いて、顔をほころばせる男がいた。
言うまでもなく、悪魔の皮を被った悪魔である。
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