💚side
今、翔太と二人で、春の小川が見える郊外の土手に来ている。
二人揃ってオフの今日にキャッチボールに誘ったら、翔太は珍しく二つ返事でOKしてくれた。
車を走らせ、人目につかないこの場所へ。
人通りもほとんどなく、煩わしいことは何もない。
土手にはたんぽぽが咲き始め、よく見るとそこここにつくしも生えている。
いちいち見つけては歓声を上げて喜ぶ翔太を子供みたいで可愛いなと俺は思って見ていた。
翔太が好きだ。
かけがえのない存在。
もし翔太を失ったら、俺はもう生きていかれないだろう。
それほど熱を持って翔太を愛していることを、うまく伝えられずにいることがもどかしい。
そんなふうに珍しく感傷的になって考え込んでいたら、翔太の投げたボールを取り損ねてしまった。
土手をころころとボールが転がり落ちていく。
慌てて追いかける俺に、何してんだよと翔太の機嫌のいい声が被さった。
💙ちゃんと取ってこーい
ぎりぎり川岸で止まったボールを拾おうとして、手元のクローバーに目が止まった。
さすがに四つ葉ではなかったが、ハート型の葉っぱが可愛らしいなと見ていると、寂しくなったのか翔太もやって来た。
💙もお、何してんの?
💚んーん。幸せだなあと思って
翔太が隣りにしゃがむ。
💙あ。クローバー
💚可愛いでしょ
💙うん
甘えたいのか、翔太が後ろに回っておぶさるように抱きついてきた。そしてそのまま動かない。
💚どうかした?
💙阿部はさ、子供、欲しい?
💚欲しくないと言えば嘘になるけど
翔太が耳元で小さく息を呑んだのがわかった。
いけない。どうしても不安にさせる伝え方になってしまう。こういうところだぞ、俺。
でも、ここのところの翔太の悩みを一つ知れて俺は少し嬉しかった。
なんだ。
そんなことも悩んでいたのか。
💚翔太がガキくさいから、それで十分お父さん業はさせてもらってる
💙なんだよ、それ
頬を膨らませて怒る翔太が愛おしい。
外じゃなかったらもう襲ってる。
💚子供なんていらないってことだよ、翔太がいれば
💙後悔しない?
💚翔太といられない方が何倍も後悔する
翔太は前に回り込んで、今度は正面から抱きついてきた。俺は優しく受け入れて、抱っこした。
💙好き。俺から離れないで
💚今日は随分甘えん坊だね
💙あべ……
切ない顔で見つめられて、キスを交わす。
やばい。その顔は反則だよ。可愛すぎる。
我慢できずに舌を差し入れると、翔太も積極的に応えてきた。
💙んっ……ここっ…外
💚翔太が始めたんでしょ
💙そうだけどぉ……っ
💚場所変える?
翔太は恥ずかしそうにこくん、と頷いた。
俺たちは性格も愛し方も全然違うけど、概ね順調だと言えるんじゃないかな、と今でも俺は思っている。
1ヶ月会えなかった期間も、俺はこれ以上すれ違いを長引かせないために必死で勉強した。
俺にしてみれば一生のうちのたった一ヶ月だ。
翔太には可哀想なことをしたけど、これで翔太の時間の感覚が俺よりも短いことがわかったから次はもっと上手く対処できる。
翔太は俺にとってもう欠かすことのできない人生の一部で、逆もきっとそう。
願わくば、翔太が次に泣く時には、めめなんかに知らされず俺が一番にそばにいたい。
そこまで考えたところで、いや、泣かすなよ、と頭の中で翔太の声が聞こえたような気がした。
ハンドルを操作しながら一人でそんな妄想に耽っていると、翔太が顔を覗き込んできた。
💙なに考えてるの?
💚翔太のこと
💙嬉しい
空いている手を繋いで、俺の家へ二人で帰る。
いつか二人だけで住む大きな家を買いたい。
そのための貯金を俺がこっそり始めていることを翔太にはまだ言わないでおこう。
後で驚かせるために。
俺は一人微笑んだ。
おわり。
コメント
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お疲れ様です! 今回のお話も最高に良かったです😭✨ あべなべ愛おしいすぎました
おつかれさまでした‼️しょっぴーの悲しみがすごく伝わる話でした。このまま別れちゃうのかと泣けました。が、最後手をとりあり笑いあえる関係に戻って安心しました‼️ みんな心から笑っていて欲しいですね