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逆神六駆にとって、現金は最良の蜜であると同時に、最凶の毒でもある。
彼にとって、精神が耐えうる額は100万円まで。
それ以上になると、激しい動機と眩暈を起こして立っていられなくなる。
「ああ……!! あああっ!!」
「わひゃっ!? ろ、六駆くん、しっかりしてぇ! ……でも、倒れる方向にわたしを選んでくれたのは嬉しいなぁ! えへへへへへ」
莉子さんもしっかりして。
「みみっ。久坂監察官が六駆師匠を倒したです!! これが年の功なのです!! みっ!」
「うんにゃー。芽衣ちゃん、これはねー。お金の力だねー。お金の暴力だよー」
この800万について、しかるべき説明を久坂監察官にお願いしたい。
でなければ、逆神六駆の再起動が始まりません。
まず先陣を切るのは、久坂の弟子である南雲。
「久坂さんがね、今回、チーム莉子がすごく頑張ってくれたのに報酬がマイナスになるって聞いて、それは可哀想だっておっしゃられてだな。急遽、ポケットマネーからさらに倍額を出してくださったんだよ。ほら、古龍の素材とかも全部マイナス分の補填で消えちゃったし。気の毒だからって」
「ぽ、ポケット、マネー?」
「ひょっひょっひょ! 言うたじゃろうが、六駆の小僧。年寄りの貯金を舐めるなと! 協会本部から年金もらいながら給料と賞与も貰いよるワシの懐を甘く見るでない!! その程度の額、冬のボーナスで余裕の回収じゃわい!」
逆神六駆、再起動。
まず、彼には言いたい事があった。
「南雲さん」
「あ、目が正気のヤツに戻ったな。うん、どうした逆神くん」
「どうやったら監察官になれますか? 南雲さんを殺せば良いんですか?」
「正気になった方が狂気を孕んでるってどういうことなの? 私を殺したら、君が殺人罪で逮捕されるだけだよ?」
六駆は思っていた。
「探索員として登り詰めて、僕が協会本部のトップになれば、もしかして何もしなくてもお金が湯水のように湧いてくるんじゃ!?」と。
それが六駆の大嫌いな「勤労」を重ねてようやくなれる地位だと言う事には、当然のことながら彼は気付いていない。
「まあ、そういうことじゃけぇの。この800万はお前さんらにちぃと過ぎた小遣いじゃ。じいさんが上機嫌じゃったからラッキーくらいに受けとっちょけ!」
「く、久坂さん!! 僕、あなたの孫になりたい!!」
「ひょっひょっ! 小僧は嫌いじゃないがのぉ。身内にしたいかと言えば、また別じゃのぉ! まずは修一の養子から始めるとええぞ!」
「久坂さぁん!! 何言うてますの!? 独身の私がなんでこんな凶悪な子供を養子にして、地獄のシングルファーザーにならなければならんのですか!?」
強い順の上から3人がしょうもない話をしている間に、意外と仕事のできるクララは今回得た金額を集計して、分配していた。
チーム莉子の鉄の掟に「報酬は常にきっちり等分する」と言うものがある。
今さら六駆に確認するまでもないため、クララはスマホの電卓を素早く叩く。
芽衣はそんなクララを見て、「みっ。クララ先輩、デキる女なのに、スカレグラーナに居た時と比べて既に存在感が薄れてるです」とお姉さんを哀れんだ。
目の前にある現金も山根に頼んで口座に振り込んでもらう手筈を整えたクララ。
山根も暇になったので、すぐに作業に取り掛かる。
「六駆くん、六駆くん。これが今回のあたしたちの得た報酬だにゃー。1人につき2365800円!! これなら六駆くんも満足じゃないかにゃー?」
「ぽぉぉぉぉぉうっ!! こ、これだけあれば、もう学校に行かずに済みますか!?」
「いや、済まないよ? 確かに大金だけど、サラリーマンの平均年収より少ないからね? 学校にはちゃんと行きなさい」
南雲の言う通りである。
六駆からすれば目も眩む大金だが、これで隠居ができるかと言えばそう簡単な話ではない。
逆神家は六駆の得る探索員の成果が収入の全てであり、普通に慎ましく生活していても、1年と少し経てばなくなる金額。
と言うか、ダメ親父が使いこんだらさらに早くなくなるだろう。
それを六駆に伝えるか否か。
結構な勢いで否よりだった南雲の代わりに、久坂がにやりと笑う。
南雲は何となく嫌な予感がした。
「六駆の小僧! お主、もっと手っ取り早く大金稼ぐ方法があるんじゃけどのぉ。この話、乗るか?」
「乗ります!!」
「せめて条件を聞いてからにしてくれないかな!?」
久坂が語る、大金を得る方法。
南雲が危惧していた通り、実に面倒な事になるものだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【監察官室対抗戦】と言うものが12月の初めに開催される。
これは、各監察官室が代表の探索員パーティーを選出し、その技量を競わせると言う催しで、翌年の予算や監察官の出世にも響く協会本部の一大イベント。
そのようなものがあると、久坂はチーム莉子に伝えた。
「出ます!!」
「出させて堪るか!! 久坂さん! あなた、何を吹き込んでるんですか!!」
久坂は「やれやれ」と首を振る。
続けて、論理的に南雲を責め立てる。
「修一。お主の部屋、この5年で1度もまともな成績取った事がないじゃろ? そんなことじゃけぇ、よその監察官室から装備の依頼とか受けてやりくりせにゃならんじゃ。その結果、どんどん後進が育たん環境になっちょる。のぉ、山根」
「うっす! 自分、戦闘向きじゃないんで! さーせん!!」
実際に、南雲監察官室は対抗戦で長らく結果を残せず、具体的には8ある監察官室の中でここ5年の内、最高位は6位。
「そ、そう言いますがね、久坂さんのところは出てすらないじゃないですか!!」
「そりゃそうじゃよ。だって、今うちにはソロ探索員が1人おるだけじゃもん」
久坂監察官室は探索員からあまり人気がない。
理由は、監察官が既に隠居寸前であり、当人のやる気もほとんどないため、一部の変わり者を除いて向上心のある探索員ほど敬遠する傾向にあった。
「ほいじゃからの、今回の対抗戦は、うちと修一の監察官室の合同で出場しちゃろうっちゅう話じゃ! 六駆の小僧の事も、いつまでも隠し通せるものでもなかろう? ここらで、久坂監察官と南雲監察官が育てたエリート! みたいな感じでのぉ? ちぃとだけお披露目しちょった方がええんじゃないか?」
久坂は最後に「後でバレた時に、現状じゃと修一。お主、下手せんでも首が飛ぶぞい。特に上級監察官は面倒じゃけぇのぉー」と付け加えた。
これは久坂が弟子に手を差し伸べた形であり、その意は南雲も理解していた。
「それで、いくらもらえるんですか!?」
「はて? なんぼじゃったかいのぉ? 山根。分かるか?」
「1位から順番に賞金が出ますよ。とりあえず銅メダルまでに入れば、3位で1千万。2位で2千万。優勝すれば3千万っすね」
「出ます!!」
六駆おじさん、「はい」か「イエス」以外の言葉を忘れた模様。
チーム莉子の3人娘も力試しは望むところと、乗り気である。
「みみっ。芽衣はちょっと、アレがちょっとアレなので、みみっ。みみっ?」
全員が乗り気なので、もはや出ない理由がなかった。
「はぁ。やれやれ。これはまた、何か対策を考えないといけないな。とりあえず、対抗戦まであと1ヶ月半あるから。チーム莉子はしばらく休養と言う事にしておこう。遠征、お疲れ様。ゆっくり体を休めたまえ」
有栖ダンジョン攻略とスカレグラーナ平定の過程で更に腕を上げたチーム莉子。
次なる舞台は【監察官室対抗戦】に決まった。
そこにお金があるのならば、いくらでも強くなれる。
逆神六駆は静かにその時を待つのだった。
——第3章、完。
コメント
1件
久坂監察官、マジでポケットマネーで800万出すの笑いました。しかもボーナス回収余裕って…やっぱ年の功と階級の差ってすごい。六駆くんが「監察官になる方法=南雲さんを♡♡♡」って発想に飛ぶところ、彼の金銭感覚の歪み方がしっかりキャラ立ってて好きです。監察官室対抗戦、お披露目の場としても面白そうだし、何より賞金3千万に六駆が一直線なのが安心感ありますね。次の章も楽しみに待ってます!