数字死ネタ
超短い
「ねえ」
穏やかな雰囲気で各々好きな事をしていた昼下がり、トド松は藪から棒に口を開いた。
トド松の視線の先には仲良さげにくっ付いている一松と十四松。
おそ松はチラリとトド松を見遣り、何か言いたげにしているチョロ松に釘を刺すような視線を寄越した。
トド松はそんな事にも気付かず、一松をギロリと睨みつけた。
蛇に睨まれた蛙のように縮こまる一松の瞳は中々こちらを見ない。
トド松の眉がピクリと動いたのが合図だった。
「一松兄さん!十四松兄さん!なんで無視するの?!ここ最近ずっとそうじゃん!!おそ松兄さん達の事も無視するしさぁ?!」
トド松は突然立ち上がり、地団駄を踏んだ。
「なんで急にこんな事するの?!僕達何もしてないでしょ?!一松兄さんも十四松兄さんも酷い!!」
大きな瞳に涙の膜が張り、1粒ぽろりとこぼれ落ちる。
一松はそれを見てあわあわと手を右往左往させる。
十四松は終始悲しそうな笑顔でトド松を見詰めるだけ。
トド松はついに限界が来て声を張り上げた。
「僕達を居ないもの扱いするなら兄さん達なんて家族じゃない!!大っ嫌い!!」
トド松は瞳に溜まった涙をボタボタと零しながら家を飛び出して行った。
兄達が此方を見るも、目は合わない。
泣きたいのは、大きな声で叫びたいのはこっちだ。
拳を強く握り、手の平に爪を食い込ませる一松を十四松が優しく抱き締める。
「仕方ないよ、一松兄さん。」
「…うん、」
おそ松はバツが悪そうに目線を逸らし、静かに家から出て行った。
そんなおそ松を追うようにしてカラ松、チョロ松も気まずさを誤魔化すように咋に上機嫌な振りをして2人の目前から消えた。
依然一松は俯き、十四松は感情が無いような顔をしている。
静まり返った部屋で暫し2人は静止していた。
突然十四松が口を開いた。
「ねぇ、そろそろ頃合いじゃない?」
一松は何が、とは聞かなかった。
「…分かってる。今此処に居るのも俺のエゴだし、お前を無理やり縛り付けてるのも俺だし。」
十四松はそれは違う、と否定したかったが、一松の顔をただ黙々と見詰めるしか無かった。
「トド松の事、探しに行かないと。」
一松が軽やかに立ち上がる。
十四松もそれに続き、家を後にした。
河川敷、スタバァ、商店街、チビ太の屋台。
色々な所を歩き、色々な所で大きな声で叫んだ。
「次で、次の場所に居なかったら、もう、もう辞めよう。ね、十四松。」
子供に言い聞かせるような言葉にしてはとてもたどたどしく、悲しげな声色だった。
一松と固く繋いだ手を、ギュッと握り直した。
それが返事だった。
10分程歩いた頃、少し遠くに見えた桃色。
2人は思わず駆け寄り、声を掛けた。
「「トド松」」
桃色が揺れ、泣き腫らした顔で2人を見上げる。
「な、に…?ほっと、いてよ、!」
可愛らしい瞳がキッと敵意をぶつける。
「…ごめん。なんて言えば良いか分からないけど…」
言い淀む一松を横目に、十四松は口を開いた。
「多分トド松は記憶を失ってるのかもしれないけど、僕と一松兄さんは5日前に事故で死んでるんだ。」
時間が止まり、トド松の赤く腫れ上がった目元が見開かれる。
「……は?なに、それ。」
「…俺達、3人で事故に遭って、俺と十四松だけ死んだって事…。トド松は病院に搬送されて一命を取り留めた。でもトド松はその記憶をすっぽり忘れちゃってるって事。」
トド松は理解出来ないといった顔をしている。
しかし突然耐え難い程の頭痛がトド松を襲った。
「あっう、うぅあ”あ”っ、痛いっ、!痛い!」
のたうち回るトド松を必死に抱き締める2人。
1分程した頃、突然くたりと身体の力を抜いてトド松が倒れ込んだ。
一松が必死にトド松の名を呼ぶ。
すると突然目を開き涙が流れ、流れたまま口を開いた。
「思い出した…全部…3人で歩いててトラックが突っ込んで来て、それで一松兄さんと十四松兄さんが庇ってくれて…」
トド松が嗚咽を漏らしながら2人を見詰める。
「ごめんなさい、ごめんなさい。こんな僕のせいで2人共…ほんとに、ごめんなさい。許さなくていいから…」
大きな声で泣き始めるトド松の頭を優しく撫で、十四松はにっこりと笑った。
「僕達大好きなトド松守れただけで大満足!未練ないかって言われたら嘘になるけど、最後にトド松と話せただけで幸せだよ、」
一松も頷き、ポケットの中のハンカチでトド松の涙を拭った。
「だから、俺達もういくけど、お前はちゃんと周り見て歩けよ。後、猫缶色んな所に隠してるからそれも猫にあげて。大好きだよトド松。他の松にも言っといて。」
十四松も頷き、手を振った。
「え、まってよ、もう行くの?なんで?ずっと居たじゃん。ずっともっと居れば良いじゃん。お願い、行かないで!置いてかないでよ!」
最後まで言い終わらずに、トド松は視界が暗くなっていくのを感じた。
「僕も大好き…」
トド松の目が完全に閉じられる。
「よし、未練無くなったな。」
涙でぐちゃぐちゃの顔で2人は笑った。
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