テラーノベル
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『人を殺した』
新年早々、一通のメールが届いた。
時刻はぴったり0時。
送り主は高校からの親友である大森元貴。
大学も一緒で、殆ど毎日一緒にいる。
彼はお調子者で、好奇心旺盛という言葉の具現化のような存在。
不謹慎な嘘をつくようなやつではないから、当然信じられるはずも無かった。
「年明けに縁起でもないこと言うなよ。罰当たりだぞ」
親友の言動を軽く咎めるような文を送る。
が、心のどこかに小さな騒めきを感じた。
まるでこれから何かが起きるかのような、そんな悪寒。
肌がツンと張る。
『仕方なかったんだ。僕はこうするしか無かった』
「はぁ…?」
益々意味がわからなくなった。
スマホを持つ手が震える。
まだ冬だからか、凄く寒い。
暖房の温度を2つあげる。
「不謹慎な嘘やめろよ。よくないぞお前」
『大学生になっていろんな人と会った。沢山の人と価値観を共有したけど、僕に賛同してくれる人はいなかったよ。煙たがられたさ』
「おい元貴もういいって」
『やっぱり僕は変なのか、ってかなり落ち込んだね』
「…元貴…?」
俺の静止を全くないものとして話を進める元貴に、ふつふつと違和感が募る。
もしかしたら、元貴は俺に何かを伝えようとしているのかもしれない。
本当に、人を殺した。
そう信じざるおえないほど、今日の元貴は不自然すぎる。
「その様子だと只事じゃなさそうだな。分かった、聞くよ」
俺の言葉を振り切ってまで話そうとしてくれている元貴の気持ちを無下にはできない。
もっとも、元貴が俺に何を伝えようとしているのかは分からないが。
『ずっと悩んでたんだ。僕は高校からずっとお前が好きだったから』
「は?」
不意をつく一言に思わず声が漏れてしまった。
嘘に嘘を重ねる元貴に目眩までしてくる。
本当に何を考えているのか分からない。
「どんだけ揶揄えば気が済むんだよ」
少し不機嫌になりながら送った文を見て、はたと気づく。
相手はあの元貴だ。
慌てふためく俺を想像して、腹を抱えて笑っているのでは?
いや、絶対にそうだ。容易に想像がつく。
そう確信するなり、段々と腹が立ってきた。
『お前の女好きの噂は俺の学部まで回ってきてたよ。とんでもないヤリチンだったらしいね』
『まさにクズじゃん。いつか後ろから刺されるんじゃない?』
「おいお前いい加減に、…ッ?」
ついには冗談を超えて罵倒を始めた元貴に怒りがピークに達した時。
ポタポタと鼻から漏れた赤い液体が床に落ちた。
「あ…?」
鼻血なんて久しぶりに出た。
おそらくだが、寒さに震えが止まらない体を落ち着かせるために暖房の温度を上げすぎたのが原因だろう。
エアコンの温度を確認すると、32度と表示されていた。
鼻血はどんどんと床に敷かれた真っ白なカーペットを汚していく。
『まぁ分かってたけどさ、お前が女の人を好きなことくらい。だから、ケジメつけようと思って昨日会いに行ったんだよ』
…?
おかしい。昨日、元貴は俺の家に来たのか?
覚えてない。記憶が飛んでいる…?
それに、な、なんか、変だ。
頭が揺れる。
血が止まらない。
『満を持して会いに行ったら、お前は酔ってるし部屋に女はいるしで最悪だったよ。
しかもさ、多分覚えてないだろうけど、お前僕に言ったんだよ。
「男を好きなるとか異常」だって。半笑いでね。
これだけでも充分殺したくなるくらいウザかったけど、そのまま結婚報告までしやがったじゃん。相当堪えたわ』
『でも、殴り殺すつもりはなかったんだよ』
「は…?」
『部屋の奥からお前を庇うみたいに飛び込んできた小柄な女。あれ、もしかして彼女だったりする?
お前が結婚の話した時動揺してたし、奥さんじゃないんでしょ?浮気もいい加減にしたほうがいいよ』
『やっぱりデキ婚って噂も本当なんだね』
『はは、2人で仲良く晩酌中に邪魔して悪かったよ』
『あ、あと一つ。最後に言っとくわ。
もう捕まるし どうせなら気持ち伝えてお前のことも殺そうと思ってたんだけど、先越されたよ』
『お前の部屋にあった酒瓶、あれなんか入れられてたよ。僕が殴り殺した女の顔色が変に青白かったから もしかしたらと思ったけど、多分毒盛られたな』
『まぁ浮気に気づいた奥さんの仕業だろうよ。お前諸共殺そうとしたんだろうな』
スマホが手から滑り落ちる。
まだ元貴は何かメッセージを送ってきていたが、視界が黒くぼやけて見ることはできなかった。
てっきり部屋に充満するこの生臭い匂いは、俺が酔って吐いたゲロのものだと思っていた。
体が異常に寒くて震えるのは、暖房の効きが悪いのかと思っていた。
違った。
鼻血が止まらないのも。
「天罰だよ。苦しんで死ね」
元貴の声が、耳元で聞こえた気がした。
コメント
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恋だとも何だとも取れる、繊細だね。この作品。 どっちがクズなのか……。それともどっちもクズの部類に入っちゃうのかな、、