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プロローグ
オレの命について、目の前の三人が真剣に会議している。……しかも「殺す」方向で。
1
二時間前、スラム街の通りで揉めてるような声がした。
あゝヤダヤダ。どうせ女の子が盗みを働いて男達に追われている…ってところかなぁ。
まぁここではよくあることだ。帰ろうかな…
でも小柄な女の子に対して大柄な男が二人、さすがに可哀想かな…
それにしても奴ら、ここじゃ見ないような格好をしている。男の方は上等そうなスーツを着て、女の子の方もきちんと手入れされた桃色の髪は遠くからでもサラサラなのがわかった。ここの人間じゃないのか?
もしかしてお金持ち?じゃここで助けたら…
「あなたは私の命の恩人だよ」
って感謝されて、ふかふかのベッドに暖かい飯! スラム生活ともオサラバ――
よし、いける!
——そう思った瞬間、男たちはナイフを投げた。
「危な!」
しまった、声が出た。完全に見つかった。
心臓がドクンと跳ねる。逃げようと足に力を込めた瞬間——
男たちは倒れていた。
「これでおしまいなの?おじさんたち弱いよ。まぁ、いっか…帰ろ。せっかくだから財布もらって行くよ」
今のアイツがやつたのか……何者なんだ……
オレは気になって、女の子の後をつけてみることにした。
「ただいまっ!」
「おかえりなさい…ってユア、あなたつけられたわね」
「敵か?」
「いえ、わからない」
何を話してる?聞こえない…オレは外から中を覗いていると
「お前、誰ね?何してる?」
さっきの女の子が目の前に立っていた。
それにしてもさっきは遠くで分からなかったが、桃色の髪をした女の子はツインテで目が大きくちょい八重歯気味。結構、可愛い。
年齢はオレより下だろう。
「おい、聞いてるのか、どうして私をつけた?言わないと敵とみなして殺すから」
「は、何言ってるんだよ。敵?殺す?物騒すぎるだろ」
「じゃ、さっさと名前言うね」
そう言ってそいつはさっきより強く顔を枝で突っつき始めた。
「言うから、言うから。それやめろ。オレの名前はソラだ。スラム街に住んでいて親も知らないから苗字か知らない」
——冗談じゃね、なんでこんな奴に名前を言わなきゃなんねんだ。でもこいつ…マジで目が怖い。
「なんかごめん」
…驚いた。まさか謝られるとは…なんかむず痒くなって
「別にお前に同情される義理はねーよ。お前は?」
「ん?」
「名前だよ、名前。なんて言うんだ」
「あー。私は十六夜 ユア」
「何でお前は普通に名乗ってるんだよ」
部屋の奥から現れた男が、ユアの頭をぽんっと軽くチョップした。声のトーンも動きも、どこか力が抜けていて、完全に呆れ顔だ。
ユアは特に気にする様子もなく、肩をすくめて返す。
「だって……」
そのやりとりを聞きながら、パソコンに向かっていた女ふとつぶやいた。
「どうせ、あれでしょ。親がいないって不憫に思ったんでしょ。
……まあ、戦えそうには見えないしね。とりあえず、軽く縛っとく?」
画面から目を離さずに言うその声には“またか”って言う諦めがにじんでいた。
「まぁ、そうだな。じゃ悪いけどもうちょい、大人しくしとけよ」
男は女に賛成し、オレを縄で縛り上げた。オレは抵抗する間もなく捕まった。
——そして今に至る
「で、こいつ結局どうするね。殺すの?」
ユアの声がやけにあっさりしててゾッとする。謝ったり、殺そうとしたりほんと、感情が読めない奴だ。
「はぁーユア、お前さっきそいつに名乗ってじゃないか。お前は名前を教えた相手を簡単に殺すのかよ」
男がダルそうに頭をかきながら、めんどくさそうに言葉を吐き出した。オレも今のはその意見に賛成!!
「でもこいつ私をつけてきたね」
ユアがオレを指差して言う。
「それもつけられたユアが悪いでしょ。でも本当にどうする?こんなところシンに見つかったら、やば…」
「オレに何が見つかったら、ヤバいって?
紫月、それから、りくにユア、貴様らそこで何をしている?」
部屋に入ってきた途端、声を荒げる男に、今までパソコンをいじりながら、冷静に話してた女は突然、肩を
“ビクッ”と
させてキーボードを打ってた手を止め、恐る恐る後ろを見る。
「げっ…シ…ボス。おかえりなさい…あはは」
「げっとはなんだ。げっとは。紫月、貴様何を隠してる」
「いや、その……」
女は苦笑いをする。それに怒り隠せない男。
この男がボス?ムカつく程、整った顔だが、チビだった……
……まだガキじゃねぇか……
それより、こいつらが話し込んでる今のうちに逃げようとしたその瞬間——
バンッ!
鼓膜を裂くような音とともに、目の前の床が弾けた。
「ひっ!!」
「勝手にユアをつけてきた癖にはい、さようならって帰れるとは思ってないよなぁ」
一歩、前だったら確実に死んでいた。
……何も考えられなくなる……足が震える。息が詰まりそうになる。
ユアって言う奴といい、こいつといい、なんでそんなに簡単に命を奪おうとするんだ。ここは本当に、普通の世界なのか?
恐る恐る顔を上げてみると、さっきユアをチョップしてた奴だ。 というかこいつ、どこから銃を出したんだ。
そういえば、ここに来た時もなんですぐ気づかれんだ。オレは物音ひとつ立ててないし、そもそも中を除く前に気づかれた。なんでだ… 考えていると
「りく、貴様ここで発砲するなと何度言わせる」
「あ、わり」
「修理代は貴様の給料からだぞ」
「げっそれは困る。勘弁してしてくれ」
本当になんなんだ。こいつらは…
「まぁまぁ。シン、あなたも疲れたでしょ。とりあえず、お茶にしませんか?事情はその時に」
「あゝ、そうだな頼む」
「はい、かしこまりました。みなさんも座ってほら、あなたも」
2
「なるほど…つまりソラ、あなたはユアのことつけてここまでやってきたってことですか。シン、どうしましょう。彼は俺達のことを知りすぎました。このまま返すわけはいかないでしょ」
やっぱり、そう簡単には帰らせてもらえないのか。なんとなくわかっていたけど少し期待したオレを殴ってやりたい気分だ。
「貴様、歳は」
金髪のチビはオレの方をみて、言った。
え、もしかしてオレに尋ねてるのか。慌てて
「十八」
と答えると
「貴様はスラムの方住人だったな。親はいないって言ってたが貴様、一人で生活してるのか?」
「いや、育てのじいちゃんと二人。それがどうしたんだよ」
ったくなんなんだよ。オレがそいつを睨んでると
「貴様、確か…ソラと言ったな…ここで働く気がないか。給料いいぞ」
そう言いながら、紙を見せた。そこにはとんでもない額が記されていた。
“ふかふかのベッド”どころか、今の生活は雨風もしのげないボロ屋。じいちゃんも最近咳が止まらなくなってきた。
オレはその話に乗ることにした。
ここはオルカリブレと言うらしい
ボスは——鵜月 真 二十四歳
金髪でめちゃ整った顔。
女子にモテそうだが、態度はでかい癖に背は低い。
「シン、あなた本気で言ってるんですか?」
——大神 弓弦 二十六歳
黒髪でメガネをかけた背の高い奴。
最年長だが、口調は丁寧。経理担当らしい。ボスとは真逆の性格なんでこんな人が下にいるんだろう。
「シンは相変わらず子供に弱いから」
——水流 紫月 二十二歳
紫色の髪でショートヘアの背の低い女の子。
最初にオレを見つけた奴、どうやって見つけたんだろう。
「まぁいいんじゃねーか。一般のガキを殺すのは目覚めが悪い」
——神凪 陸 二十二歳
青髪で目つきが悪く。片耳に十字架のイヤリングをしている。
さっき逃げようとした時、撃ったじゃないか。どの口が言ってるんだよ。
「さすがボス、優しい」
——十六夜 ユア 十四歳
桃色の髪でツインテールの女の子。
十四なの?親はどうしてるんだろう?
3
オルカリブレの一員になる
「はぁ。指名手配されている?何したんだよ」
訳を聞いて、数秒が過ぎた。
——シンがやっと口を開こうとした瞬間、弓弦が前に出た。
「それは俺から話しましょう。シンには兄はいました」
弓弦の静かな声が室内に響く。こいつは、いつもながら冷静で、混乱するオレの内面を沈めるように話し始めた。
あの日、震災の混沌の中でオレたちが見たもの、そして突然届いた謎の手紙。兄・誠が何も告げずに姿を消した。
恐怖と不安が積み重なり、どうにかなりそうだった時期となりに弓弦がいてどれだけ安心したことか。今も弓弦が代弁してくれることに心底ほっとしてる自分がいる。
弓弦がオレたちの家に来たのは、オレが六歳のときだった。兄の誠と同い年だったこともあり、二人はすぐに打ち解けた。
その時、一緒にもう一人、女の子も養子として迎えられていた。父さんが選んだ、家族だった。
ささやかだけど幸せだったのにあの一瞬でそれが壊れた。
「——震災の日、俺たちが見たのは、ただの混乱ではありませんでした」
(——なんだよ、いきなり怪談みたいな始まり方しやがって。)
ソラがなんか言いたそうに、こっち側を睨む。
弓弦の声も、少しだけ低くなる。
「突然、誠が……いなくなりました」
あの日、まるで世界が音を立てて崩れ落ちるようだった。震災の混乱の中、オレはただ一人取り残された感覚に襲われていた。ビルが倒れる音、叫び、そして消えかけた街灯の下で、ふとふと頭に浮かんだのは、兄・誠の無言の背中だった。
「兄さん、なんで…?」
オレの問いかけは、答えのない闇に吸い込まれていく。突然、ポストに投函された一通の手紙。その文字が、今も心に焼き付いている。
【あの日の混沌の中、我々は守られることなく彷徨っていた。だが、人類を進化へ導くため、異端の科学者・康成を止めてほしい】
誰が送ってきたのかもわからない。
何も言わずに去った兄に、差し出し不明の謎の手紙。
「何か理由があるはずだ」と考え、兄の行方と、その思想と真意を弓弦と探し始める。
康成の研究所には、きっと何かが隠されてる――
そう思ったオレたちは、潜入を決めた。
未来予知と綿密な準備で、一瞬だけ映像とデータを引き出すことに成功した。
「人為的異能力開発計画」と記されていた。
研究者の名前の中に、朝海康成、そして……オレの兄、鵜月誠の名前があった。
思わず息を呑んだ。なぜ、兄の名があそこにある? 何をしていた? 何を――知っていた……?
だが脱出直前、監視ロボットに気づかれ、研究員との戦闘で監視カメラにオレの顔がはっきり映り、研究所の警備AIにデータが残される。
幸いにも弓弦はなんとか逃げ切れたようだ。
数日後。
国家機関(もしくは康成が裏で操作している機関)から、「国家機密への不正侵入」「機密情報の奪取未遂」「武装しての暴行未遂」などの罪で指名手配される。
ニュースでは「未来予知能力を持つ異能力者・鵜月真、危険人物として逃亡中」と報道され、オレは“テロ予備軍”のように扱われるになった。
オレは逃亡者として闇に隠れている。しかし、この痛ましい記憶と共に、あの謎に立ち向かう覚悟は変わらない。兄への疑問、康成の計略、そして自分自身の未完成な思い。それら全てを、いつか必ず解き明かしてみせると誓い、裏社会で動く異能者や事情を持つ仲間を少しずつ集め、
“情報・戦力・影響力”を持つ組織―オルカリブレを作り上げる。
——現在——
「これがオルカリブレができた経緯です」
オレは頬杖突きながら弓弦の話を黙って聞いていた。
へーシンも大変なんだな。でもよくやるよ。兄ちゃんが姿を消したからって研究所に侵入するなんて…
もしかして、ブラコンなのか。