ライブが終わったばかりの控え室。
まだ照明の余韻が残っている。
汗で湿った衣装。
ペットボトルの水を一気に飲み干すメンバーたち。
スタッフさんの声が飛び交い、
片付けの音が響いている。
その隅でりうらはソファに沈み、スマホを握りしめていた。
「もしもし?」
急な電話に驚きながらも通話ボタンを押す。
返ってきた声は、震えていた。
「ごめんりうくん…苦しい…っ」
一瞬で血の気が引いた。
彼女の声。
途切れ途切れで、掠れて、酸素を求める音。
浅くて、速すぎる。
言葉よりも呼吸音の方が大きい。
過呼吸。
脳裏に嫌な言葉が浮かぶ。
「え、ちょっ、え落ち着いて!!ねぇ!!」
必死に声をかける、だけど
「ごめん、りうくん…こわい、っ」
その声が耳に入った瞬間。
ズキン、と胸の奥に、鋭い痛みが走った。
息が……入らない。
吸おうとしても肺が広がらない。
吐こうとしても吐ききれない。
心臓が暴れている。
頭の奥が真っ白になって、手が震え始めた。
「へ、っ…はぁっ…ひゅ」
波。
彼女の乱れた呼吸が、まるで波になって押し寄せるみたいに。
それに呑まれて、りうら自身の呼吸も乱れていく。
「りうら?どしたん!!」
声に振り向くと、ないくんが駆け寄ってきた。
そのすぐ後ろから、集まる他メン。
ないくんが大きな声でリズムを刻む。
息を吸うたびに、胸が焼けるように痛い。
吐き出す前にまた次の波が押し寄せ、息が詰まる。
頭が酸欠でぐらぐら揺れて、視界が滲んだ。
「っはぁ、はぁ…」
涙が勝手に溢れる。
「怖いなー大丈夫やでー!!」
まろが優しく声をかけてくれる、
「りうちゃん水飲める?」いむが水を差し出してくれる
手が震えて、キャップも掴めない。
あにきが代わりに開けてくれて、口元へそっと当ててくれる。
冷たい水が喉を通る。
その一瞬だけ、波が和らいだ気がした。
だけどすぐにまた、押し寄せて
胸の奥から、荒波のように。
「ごめん、俺も苦しい…っ」
震える声で、スマホに向かって吐き出す。
電話の向こうで、彼女も荒い呼吸を繰り返していた。
まるで二人で同じ海に呑まれているみたいに。
「手、握るね!離さないから!」いむが強く握ってくれてる。
みんなの声が飛び交っている。
支える手の温度が伝わってくる。
必死で、それに縋る。
「っは…っ」
少しずつ。ほんの少しずつ。
波の間に、短い静けさが生まれてきた。
その隙間を掴んで、呼吸を合わせる。
「大丈夫?おれいるからね、」
震えながらも、彼女に声をかける。
電話の向こうで彼女の呼吸も、ゆっくりと落ち着いていった。
まだ乱れてはいるけれど、確かに整い始めている。
「りうくん、ありがとう…落ち着いたかも、」
その声を聞いた瞬間。
「よかった…」
どこか限度が無くなってしまったように涙があふれた。
スマホを握る手が震えて、嗚咽が漏れる。
「彼女、絶対安心してるって!」ないくんが明るく言う。
仲間の声。温もり。
全部が胸に広がる。
嗚咽まじりに、りうらは泣き続けた。
彼女の呼吸が安定したこと。
仲間に支えられたこと。
全部が安心に変わって、涙になった。
控え室は、さっきまでの熱気とは違う、温かい空気に満ちていた。
波のように襲った過呼吸は、確かに恐ろしかった。
でもその波を一緒に越えてくれる人たちがいる。
「ありがとう、ほんとにありがとう。」
りうらの声は震えていたけれど、確かに届いた。
仲間に、そして電話の向こうの彼女に。
その夜、控え室に残ったのは安心と、絆と、涙の温もりだった。
コメント
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ほんまに五番さん以外の口調全然分からへんくなって絶対おかしいー!!!😭😭😭 ごめんね、もっと頑張る😭😭😭