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優しい檻の中

4 - 優しさの檻

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2025年07月28日

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湊視点「……っ、ん……」


目を開けると、そこは見覚えのある部屋――悠真先輩の部屋だった。


けど、何かが“違う”。


部屋全体が妙に静かで、空気が重い。

何より……スマホが、ない。


「……あれ……?」


昨夜、寝る前に充電器に差したはずのスマホが、どこにも見つからなかった。


布団をめくっても、床を見ても、テーブルにもない。


(……先輩の部屋に置き忘れただけだよな?)


そのとき、キッチンから聞こえてきた声がした。


「おはよう。起きた?」


「あ……おはようございます……」


悠真はエプロン姿で、朝食を用意していた。

和食で、湯気の立つ味噌汁の香りが鼻をくすぐる。


「スマホ、どこにありますか?」


「……ああ、ごめん。昨日寝落ちしてたから、俺が机に移動させた。今はリビングの引き出しにあるよ」


「ありがとうございます」


取りに行こうとした瞬間――


「でも、ちょっとの間、預かっておくね」


「……え?」


「ほら、湊くん疲れてるでしょ。今はSNSとか、LINEとか……いろいろ見ないほうがいいと思う」


その声は、優しかった。

でも、目は笑っていなかった。


「……返してください、スマホ。バイトの連絡もあるし……」


「うん、わかってる。でも、今日は一日ここでゆっくりしよう?」


「いや、あの……本当に、返してくれないと困るんですけど」


「湊」


名前を呼ぶ声が、低く、深くなった。


「そんなに急いでどこに行くの?」


「どこって……俺、家に帰らないと……」


「帰ってどうするの? あんなに君を避ける人たちの中に?」


ズキン、と胸が痛む。

悠真の言葉が刺さる。


「君は、誰にも必要とされてない。――でも、俺だけは違う」


「……っ」


「俺だけが、ずっと君を大事に思ってきた」


その言葉と同時に、手首を掴まれた。


ぎゅっと強く。

逃げられないように。


「だから……もう少し、ここにいよう?」


(……これ、本当に“優しさ”か?)


疑念が浮かぶ前に、悠真は微笑んだ。


「朝ごはん、冷めるよ」



湯船の湯は、ぬるめだった。

久々にゆっくり浸かった気がする。


風呂から出て、バスタオルを巻いて脱衣所を出たその瞬間――


「――あ、ごめん、着替え持ってきた」


悠真が立っていた。

手にはTシャツとジャージのズボン。


「えっ、いや、自分でやりますんで……っ」


「いいよ、俺、気にしないから」


そう言って、彼はタオルを巻いた俺の身体に手を伸ばした。


「……湊って、肌、白いね。細いし……すごく、綺麗」


「やっ、ちょ、やめ……っ」


肩に触れる指。

背中を撫でるように服を着せる仕草。


(――なんで、こんなことまで……)


「力、抜いて。俺、そういうの……慣れてるから」


「……“そういうの”って、何……?」


「うん?」


少しだけ目が細められた。


「……湊に触れること。好きなんだよ」


耳元で囁かれた声に、ビクリと身体が反応した。


逃げたくても、足が動かない。

心臓の音ばかりが、うるさく響いた。


悠真視点

ちゃんと、段階を踏んでる。

急に閉じ込めたら、壊れてしまう。

でも、少しずつ逃げ道を塞いでいけば――


気づかないうちに、自分から檻に入ってくれる。


俺はそういう風に、“計算”してる。


次は、最初の“交わり”。

強く拒まれるかもしれないけど、大丈夫。


湊の身体も、心も、ちゃんと俺に向いてる。

もう、逃がさない。

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