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“友達”という言葉に拘っていたように思う。
さながらそれはバランスを失ったジェンガのように、不安定な状態だったけれど。
出会って10年経った。クリスマスを一緒に10回過ごした、お正月も一緒に10回迎えた、誕生日は2人合わせて20回も一緒に祝った。人生の節目には必ずお前がいて、それが永遠に続くことを願っていた。
だからこそ、”愛すること”を辞めようと思ったんだ。別れるのは辛いから。
お前が俺を想っていることを知っている。
お前も俺がドンヒョクを愛していることを知っている。
目だけ見れば何を考えているか分かるから。
いつからかなんて覚えていないほど長く、この想いは胸に居座っていた。
このまま友達らしくない友達で。”友達”ということばが合っているのかも分からない。俺たちを表すぴったりな言葉が見つからないけど、”友達のままで”。
お前が未来を語る時、必ず自分が含まれていることに怖くなった。この気持ちを抱えたまま、何も進展しないままそばにいられる自信がなくて。
キラキラした瞳で、「近くに住もう、たまに散歩でもして一緒に飲もう、」なんて理想を語る。その理想を叶えたいから、お互い愛するのはやめにしよう。今は辛いかもしれないけれどいつかこの決断に感謝する日が来るから。
「怖がり。」
目を真っ赤にしたヒョガが低い声でそう言った。反論されることは目に見えてて。口喧嘩で勝てたことはないけど、この件に関しては譲るつもりは無かった。
「なんでヒョンはいつも1人で決めるの?これは、俺とヒョンの話でしょ、」
「いっつもそうやって、1人で結論だして満足する。だいたい、俺まだヒョンのこと好きなんて一言も言ってないし、!」
溢れるほどに張った涙の幕が、遂に弾けて彼の頬につたった。ヒョガのこんな表情は初めて見た。何度も喧嘩して、何度も仲直りして、人生の半分以上を一緒に過ごしたのに、まだ自分の知らないヒョガがいた事に驚きを隠せなかった。
「俺は、ヒョンのこと好きだよ。愛してる。だから、一緒にいたいのに、」
「ヒョガ、俺だって一緒にいたい。同じステージで同じ景色を見てたいから、友達でいようって言ってるんだ。」
お互い我慢できなくなっていたように思う。俺を見つめるヒョガの瞳に熱を感じることが多くなった。ヒョガを見る度に、愛おしいなんていう純粋な感情だけでなく、嫉妬や独占欲なんていう醜い感情を抱くようになった。
「だいたい、ヒョンがこうやって口に出さなきゃ我慢できたんじゃないの?俺が、何のために今まで我慢してたと…」
「俺が、耐えられなくなったから。この気持ちが更に醜くなる前に捨てたかった、」
「そんな簡単に捨てれる気持ちなの?」
何もかも見透かしたような瞳で見つめられて、思わず言葉に詰まった。ヒョガは少しの動揺も見逃さず、勝ち誇ったように俺に1歩近づく。
「ヒョンは、俺のことそんなに好きじゃないってことだよね。別れがあると思ってるってことだ、それは今日かもね。」
「そんなに言うんなら、俺はヒョンを諦めることにするよ。けど、俺も心の整理が必要だから、暫くは話しかけないで。もちろん、仕事の時はいつも通りにして、シズニに心配かけたくない。」
ヒョガの瞳は俺を挑発的に見つめていた。「1日会えないだけで寂しがるヒョンが耐えられるの?」そんな言葉が聞こえてくるみたいだ。
「耐えら、」
こんなところで折れるわけにはいかないと、「耐えられる」と答えようとしたところで、体に衝撃が走った。
「俺は耐えられない…」
ドンヒョクは俺の肩に顔を埋めてそう呟いた。ふわふわの髪が俺の首元を擽る。ぎゅっと掴まれた腰は痛いほどで。離れようとすれば、更に強い力で抱きしめられるから、諦めるように彼の腰に腕を回せば、すこし締めつけは弱まった。
「俺から離れていかないで、お願い、」
久しぶりに聞く弱々しい声だった。いつもお調子者で、それでいて周りを見て、自分の役割を果たす。彼が自分の本音を話す時の少し掠れた、小さな声。本音を言うことを怖がるドンヒョクが、唯一自分に甘える時の声。
「ごめん、」
気づけばそう口にしていた。自分は何も分かっていなかったんだと思う。ドンヒョクは思っているより俺に依存しているし、俺は自分の想像より怖がりだ。
始まってもいない別れに勝手に怖がって、自分からいちばん大切なものを手離そうとしていた。
「ヒョガ、」
「ダメ、離さないから。ヒョンが俺から離れるなんて絶対許さない、」
「分かったから、離れないって。最初から離れるつもりなんて無いから、友達でいようって言ったのに。」
「ほんとう?」
不安そうに顔を上げたヒョガの唇にそっとキスを落とした。元々丸い目をさらにまんまるにして、瞬きもせずに見つめるから、もう一度キスすれば顔を真っ赤にする。
もう開き直るしかない、自分にドンヒョクを諦めるのは無理な事だし。もし、この関係が失敗したとして、俺たちに残る関係は、友達、メンバー、兄弟、家族まだまだ沢山ある。今まで積み重ねてきた日常は簡単には忘れられない。
それに、失敗してもなんどでもやり直せばいい。1度しかチャンスがないなんて、誰が決めたんだ。縋って、足掻いて、何度だって彼の手を掴めばいいんだ。
そう思えば気持ちが楽になった。俺の胸にいる彼は俺のもので、俺だけを愛している。自分の中に渦巻く独占欲とか言うやつが満たされて萎んでいく。
どこかくすぐったくて満たされるこの気持ちが心地よくて、ずっとこのままでいたいとすら思った。
つまるところ、俺はドンヒョクには勝てなかったってことだ。目玉焼きをつくりながら、鼻歌を歌う彼の後ろ姿を見つめて俺は笑を零した。
「ひょぉん、起きたの? ? なんで笑ってるの」
「いや、なんか、うん。」
「何このヒョン」とでも言うふうに不思議そうに笑って、ヒョガはまた目玉焼き作りに集中し始めた。
あの小さな背中が愛おしくって、抱きつけば耳を真っ赤にするから、可愛くっていられない。
この関係が終わらないよう、永遠に続くよう祈りながら暖かな背中の後ろで目を瞑った