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この作品はフィクションです。
実在する人物とは一切関係ございません。
この作品を公の場での閲覧、ご自身の端末以外での閲覧はご遠慮くださいますようお願い申し上げます。
また、今回はパロディとなっているためご理解いただける方のみ閲覧をお願いいたします。
世は徳川幕府が盤石とは言えなくなってきた。京都には新選組という会津藩お抱えの自警集団ができ、幕府のために尊王攘夷を掲げる輩を捕縛する日々。
とある理由から家からも藩からも追い出された俺は、腕に自信があれば雇ってもらえると聞いてあれよあれよという間に身を置くこととなった。
薩摩の示現流をおさめていたからか、幹部に代わり新人隊士に稽古をつけることが増えていったある日。
「吉田、ちょっといいか。」
「はい、すぐに伺います。止めー!一旦休憩しておいてください。戻るまで各々素振りをするように。」
そう指示をして道場を後にし、副長である土方さんの後を追って着いた先は幹部が話し合いをよくされている部屋だった。そこには既に俺の直属の上司である三番隊隊長の斎藤さん、そして俺より少し後に入隊してきた佐野がいた。
「さて、早速だが吉田。お前に佐野の護衛についてもらいたい。というのもこいつは先日、辻斬りとやり合ってツラが割れてる。その相手がどうやら長州の過激派らしくてな。こちらとしても相手の尻尾を掴みたいが…」
「佐野が殺されないように行動を共にして、相手を引き摺り出せということですね。」
「話が早くて助かるよ。正直こいつは剣が荒くて運だけで生きてきたようなもんだからな。いつやられてもおかしくねぇ。」
「ちょ、ひどくないっすか?!俺だって多少は」
「15戦15勝。」
「は?」
「俺がお前に勝った回数だ。…事は承知しました。何か分かりましたらすぐにご報告いたします。では稽古の途中なのでこれで失礼いたします。」
そう言って何か言いたそうな佐野を置いて部屋から出て道場へ戻る。
厄介なことになった。しかし副長と斎藤さんからの指示とあらば従う他ない。
予定通り稽古を終わらせ皆思い思いに水を浴びたり談笑している中、俺は手拭いで首の汗を拭っている時だった。
「吉田さん危ないっ!!」
そう聞こえた時には既に頭から水を被ってしまっていた。どうやら水浴びをしていた塩﨑と曽野が調子に乗って桶で水をかけ合った結果、俺はとばっちりを受けたらしい。
最悪だ。こいつら罰で明日の稽古で素振りを倍にしてやろうか。
そんなことを考えながら頭を拭いていると目に入ったのは手拭いについた黒。
やってしまった。早く人目につかないと場所へ行かなければ。
2人にはきつい視線を送るに止め、足早に人気の少なそうな道場裏へ向かう。
そこには一部始終を見ていたであろう会計方の山中が多めの端切れと櫛、びいどろの小瓶を片手に少し息を切らして呆れた顔で立っていた。
「とんだ災難だったね。墨が落ちちゃってるけど、全部落として塗る?それとも堕ちたところだけ?」
「落ちたところだけでいい。いつも悪いな。」
山中が慣れた手つきで濡れた髪の毛を拭いてくれる手には黒くなった端切れ。優しく梳かされた俺の髪の毛は柔らかい栗色になっていた。
そう、俺は生まれつき髪の毛が明るい栗色なのだ。
そのため武士の家の長子なのに幼い頃から母の不貞をした子だと言われ家族から忌み嫌われ、母からは自分から出てくるはずがない鬼の子だと言われて散々な目に遭ってきた。
しかし唯一優しかった祖母が自身の白髪隠しの墨を使って俺の髪の毛を染めてくれていた。相変わらず家では散々な扱いを受けていたが、外では誤魔化しながらも剣の腕を磨き勉学にも励むことができた。
祖母が亡くなると墨を入手することが難しくなってより肩身が狭くなり、外にも出られずにいたある日、両親から何となしに告げられたのは、俺を死んだことにするから家から出ていくようにということだった。
すぐに目立たないように髪の毛を短く切り落とし、祖母への感謝ともう戻ることはないという思いで祖母の墓裏へ埋めた。
それからは色々な事があった。
17歳で色白、しかも着ているものも腰の物も悪くない。何よりも人より幾分か顔が整っているらしい俺は、悪い大人の格好の餌食だったのだ。女に間違われて乱暴されそうになったことも両手では足りない。初めて人を斬ったのはその時で、ただ己を守るために人を斬り続けていた俺の心は限界だった。元来小心者のため少しの物音や、鼠や猫などの気配に怯えた日々は正常な思考をさせてくれなかった。
行く当てもなくただ歩き続けている最中、とある甘味処に入った途端聞こえてきた新選組の噂。ここ数日よく聞く名前に興味を持った俺は話す男に詳細を尋ねようとすると後ろから声をかけられた。
「お兄さんも新選組に興味がある?」
「え?」
「少し前から見てたけどさ、左利きでしょ?実戦ではかなり有利に働く気がするから…うん、いいね。」
「いやあの、つけられていたことは知っていましたが、俺に何か用ですか?」
「やっぱりいいね!ねぇ、会わせたい人がいるから僕に着いて来てほしいな。あ、僕は沖田と言います、よろしくね。」
人懐っこい笑顔を向ける沖田さんに着いていくとそこは新選組の屯所だった、という流れで何故か隊士の誰かと手合をさせられ一太刀で伸してしまったため入隊となった。
不本意のように言ったが、とても助かったのは事実だ。食うにも寝るにも困らないし必然的に剣も磨ける。志なんて大層なものはないが、沖田さんや何だかんだ最年少の俺の面倒を見てくれる幹部の方々に報いたいと思って6ヶ月が経った。
その間に何人かの隊士が隊の規律違反等で粛清されて介錯をする事が多くあった。まだ18歳だからと反対する幹部もいたが、こんな俺でも誰かを楽にする事ができるのなら、と受け入れた。陰に隠されるべきことでも誰かに必要とされることが嬉しかった。
俺の髪を手入れしてくれている山中は会計方で容姿が整っていて、非番の日に変な気を起こした浪人に絡まれているところを偶然助けたことで仲良くなった。
それからすぐ、夜が明ける前に何とかやりくりして手に入れていた墨を髪に塗っているところを見られたが、彼なら大丈夫な気がしてそのまま続けていると何も聞かずにそっと代わって丁寧に塗ってくれた。
どうやら母親が売れっ子の髪結をしているらしく、偏見等もなく髪に塗る墨を安く買わせてくれたりとよくしてもらっている。
「はい、できたよ。そうだ、さっき土方さんに呼ばれてたけど何かあった?」
「助かった。うちの佐野が長州の過激派に面割れしたらしくて、護衛しつつ引っ張ってこいとさ。」
「また危ないことを…。でも何で吉田さんなのさ。」
「さぁ?俺みたいなガキが一緒だと油断して出てくると思ったんじゃね?」
「あー、口悪いけど喋らなければ美少女だもんね。」
「どの口が言ってんだ、あ?」
「あ!いた、吉田!」
山中と軽口を叩き合っているとやってきたのは佐野だ。どうやら見かけからして出かけるらしいが羽織がないので遠出かもしれない。
「何?」
「副長からおつかい頼まれた!だから一緒に来てくれよ。」
「おつかいって年じゃねぇじゃん…場所は?」
「急ぎ松平様にお目通しいただきたいものがあるらしく、会津藩邸に行ってる山南さんに渡してほしいってさ。」
「てことはここから半刻くらいか。新選組だってわからない方が良さそうだな…すぐ支度してくる。」
そう言って俺は着替えをするべく大部屋へ向かったため知らなかった。
「柔太朗、吉田と何してたの?」
「濡れた髪の毛を結い直してただけだよ。…気になる?」
「あいつが他人に背中向けて髪の毛触らせてたってことか?」
「そうだよ。俺だけはそれが許されてるから、ね。」
少し不穏な会話が2人の間で交わされていたことを。
コメント
2件
ものすごく、続きが楽しみです😊