テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
furm
⚠ 名前伏せなしのところあります。
side rm
「余命は、長くて一年です。」
医師の言葉を聞いた日、俺は泣かなかった。
泣いたら終わってしまう気がしたから。
病室の窓の外では、桜が咲き始めていた。
二十二歳の春だった。
その一週間後、俺は彼に別れを告げた。
「他に好きな人ができた。」
嘘だった。
「だから、もう会えない。」
彼――fuは、何も言わなかった。
ただ、少し笑って、
「そっか。」
とだけ答えた。
最後まで優しい人だった。
駅のホームで電車が動き出す。
窓越しに見えた彼は、一度も俺を責めなかった。
その優しさが、何より苦しかった。
それから俺は治療に専念した。
体調が悪い。
食べ物の味がわからなくなった。
眠れない夜が続いた。
それでも、彼には連絡しなかった。
もし奇跡が起きなければ、彼には新しい人生を歩いてほしかった。
俺を忘れて、誰かと笑っていてほしかった。
それが俺にできる、最後の愛だと思っていた。
冬の終わり。
新しい治療法を試すことになった。
成功率は高くない。
「期待しすぎないでください。」
医師はそう言った。
俺は静かにうなずいた。
どうせ終わるなら、最後まで生きよう。
彼に会えなくても。
彼の名前を呼べなくても。
目を覚ましたとき、白い天井が見えた。
「手術は成功しました。」
その言葉を聞いても、すぐには信じられなかった。
何度も検査を重ね、半年後。
医師は笑顔で言った。
「もう普通の生活に戻れます。」
俺はその場で声をあげて泣いた。
生きられる。
もう一度、春を迎えられる。
でも、一番会いたい人は、もうどこにもいないかもしれない。
退院して最初の休日。
俺は思い出の公園へ向かった。
桜は満開だった。
あの日、一緒にアイスを食べたベンチ。
何気ない写真を撮った遊歩道。
全部そのままだった。
変わったのは、俺だけ。
「……遅かったよな。」
そうつぶやいて立ち上がろうとした、そのときだった。
「本当に。」
聞き覚えのある声がした。
振り向くと、fuが立っていた。
少し大人になった顔で。
でも、笑い方はあの日のままだった。
「ふうはや、……?」
言葉が出ない。
「やっと見つけた。」
彼は少し困ったように笑う。
「別れたあと、おかしいと思った。」
「……。」
「rmのお母さんに何度も頼んだんだ。」
もちろん、お母さんは病気のことを話さなかった。
でも俺が治療を終えるまで、毎月一度だけ彼に伝えていた。
『まだ待っていてください。』
それだけを。
「知ってたの?」
俺は震える声で聞いた。
「病気のことは、治療が終わるまで知らなかった。」
fuはゆっくり首を振る。
「でも、好きな人ができたっていうのは嘘だって、最初からわかってた。」
涙が止まらなかった。
「なんで……。」
「rmが嘘をつくとき、左手の親指をぎゅっと握るから。」
そんな小さな癖まで、覚えていてくれた。
俺は泣き崩れた。
「ごめん……。」
「一人で決めて、ごめん……。」
「怖かった……。」
「死ぬのが怖かった。」
「fuを残すのが、もっと怖かった。」
fuは何も言わず、俺を抱きしめた。
その腕は、あの頃と同じ温かさだった。
「もう一人で頑張らなくていい。」
その一言で、張り詰めていたものがすべてほどけた。
俺は子どものように泣いた。
三年後。
春。
病院の定期検査を終え、俺は診察室を出る。
「異常なし。また一年後ですね。」
その言葉を聞くたび、生きていることが奇跡なのだと思う。
病院の玄関を出ると、fuが手を振っていた。
「お疲れさま。」
「待った?」
「ううん。」
そう言って差し出された缶コーヒーは、付き合い始めた頃と同じ、少し甘い味だった。
桜並木を歩きながら、俺は彼の手を握る。
今度は離さないように。
失うことを恐れて手放した恋は、奇跡のように戻ってきた。
あの日の別れは、幸せになるためのものではなかった。
ただ、愛する人を守りたかっただけの、不器用すぎる選択だった。
それでも、その想いは消えなかった。
春は何度でも巡ってくる。
散った桜は戻らないけれど、人の心は、もう一度咲くことがある。
彼とつないだ手の温もりを感じながら、俺は心の中で静かに願った。
この先どんな春が来ても、もう二度と「さよなら」を愛情の代わりにはしない、と。
コメント
2件
小説書き終わって通知があり急いで飛んできたのですが小説読んで…今涙目です 🥲 内容が凄い好き過ぎて体吹っ飛ぶ所でした(?) アブナカッタッッ
読んだ…泣いたわ。 「嘘をつくとき左手の親指を握る」って、その小さな癖を覚えてるfuが尊すぎる。 rmの「好きな人ができた」も、全部守るための嘘で、一人で抱え込んで戦ってたんだなって思うと胸が痛んだ。 でも、春が巡ってきて、缶コーヒーの甘さが変わらないのが、本当に救いだった。 「さよならを愛情の代わりにしない」って決意、めちゃくちゃ響いた。 素敵な話をありがとうございます。
#furm
ゃ ゅ 。
100
ゃ ゅ 。
101
#ウイルス