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昨日、自分が寝落ちしていた手前、たまこさんを起こすわけにもいかず――起きるまでに、師匠からお裾分けしてもらった泥マグロのブロックを使って朝ごはんを作った。
軽く焼いたマグロに、炊きたてご飯と味噌汁、そして即席の漬け物を添えた、和風のブレイクファースト。
……お察しの通り、元いた世界とは素材も調理方法も微妙に違うけど、こっちの漬け物は楽。魔皮紙に巻いて放置するだけでいいから助かる。
「ふぁ〜……おはよう〜」
「あ、おはようございます、たまこさん」
匂いに釣られたのか、テントからたまこさんがぬっと登場。
「あら〜? みんな待たせちゃったかしら〜?」
「いえ、ちょうどです。どうぞ」
ちなみに、食事は家の中じゃなくて、外で。家にあった丸いちゃぶ台を出してみんなで囲んでる。……え? 家で食べればよくない? うーん、確かに。ま、いっか!
すでに席についていた師匠とトミーさんは、律儀に全員そろうまで手をつけずに待ってくれていた。
この二人、和食が似合いすぎる。何というか……映える。
「あら〜? トミーさんも食べるの〜?」
「あぁ? 大将が俺のために作ってくれたもんだ。食うのが当たり前だろ」
「ふ〜ん?」
「さっさと座れ、クソガキ。大将を待たせるな」
「アオイちゃんだっけ〜? どういう関係なの〜?」
「あ、はは……実は僕もよくわかってないけど、まぁ、そんなに気にしてないだけかな?」
……気にしだすと止まらなくなるからな……
「そう〜」
たまこさんも席についたので、俺も腰を下ろす。
みんなお箸で大丈夫かな? ――と一瞬思ったけど、たまこさんは獣人だし、師匠は言わずもがな。
残るはトミーさん……だけど、あんだけ武器ぶんぶん振り回せるんだ。箸ぐらい余裕でしょ。
下手したら、この人そのうち箸で剣を受け止めるんじゃ……?
「いただきます」
俺がそう言うと、三人とも自然にお辞儀をして、箸を手に取った。
「それで本題なんですけど、相手3人の《紋章の力》って、何なんですかね?」
俺は味噌汁をすすりながら、話し合いモードに切り替える。
こういうとき、焼き魚はベストだ。
箸で身をとってご飯に乗せるだけだから、話しながら食べるのにちょうどいい。
「そうね〜、誰から聞きたい?」
「とりあえず、あのメタリックな獣人から」
「いきなりそこ行くのね〜。彼の名前はレナノス。紋章の力は『影』に関係してるわ〜」
「ほぉう……影ですか」
「印象に残ってるのは《影移動》ね〜影の世界に入り込んで、影から影へ移動できるの〜」
「影の世界、ですか……」
なんだろう、いかにも中二病って感じ……いや、今さらか。
「影がある限り、彼から逃げ切るのは難しいわよ〜」
「へぇ……じゃあ今も、すぐ近くに来てたりして」
「……」
「……」
あ、やば。これフラグ立ったやつか?
「それに関しては心配いらんじゃろう。先ほどの勇者に渡したこれじゃがな」
「……ああ。お守りの小瓶?」
なんか観光地で売ってそうな、ちっちゃいボトル。
「これをほれ、嗅いでみい」
「ん?……くんくん……うわ、生臭っ」
魚が腐ったようなニオイ……これはちょっと……
「さすが料理人じゃの。普通は鼻を背けるものじゃが」
ふっ、甘く見るなよ。
過去に何度、魔物魚を出したまま忘れて発酵させたと思ってる。
その都度「焼けばいける!」ってことで、なんだかんだちゃんといただいてきた俺だ。
「で、これがどう効くんです?」
「影の世界は真っ暗で視界が効かん。昔、古き友は“音”で周囲を把握していたが……」
「むん?」
「なるほど〜」
「……どういうことですか、たまこさん?」
「そうね〜……どこから話そうかしら〜」
「生い立ちとかはいいから簡潔に」
「ふふ、きっと彼が影の世界で使ってるのは“嗅覚”よ〜」
「ってことは……!」
「ホッホッホ、儂はレナ坊とも縁があっての。昔から、生臭いものは避ける傾向にあった」
「そんな単純なことで?」
「人間も獣人も数が多いが、それでも個人の捜索には限界がある。昨日の場所から周辺を探ったとしても、この臭いがすれば後回しにするじゃろう」
「……さすが師匠……」
まさか朝飯を準備するだけじゃなく、対策まで仕込んでたとは……
この人の後継で本当にいいんだろうか、俺。
「影でできることって、他には? 影を使って剣を出したり、人の影を具現化して使ったりとか?」
「アオイちゃんは想像力豊富ね〜」
「ホッホッホ、それが後継に選んだ理由じゃ」
「えっ……」
「大丈夫よ〜。今までそんな能力は見たことないし」
「そ、そうなんですか」
……ちょっと考えすぎだったかも。
「次は……あの全身真っ白な装備の人かな?」
──○盗キッドみたいな奴。
「あー、おい大将。アイツの能力は《物質移動》だ」
「えっ? 転送魔皮紙みたいな感じ?」
「いや、アイツは紋章の力でやってんだ。質量とか無視して、どんなモノでも移動させられる」
「うえぇ!? じゃあ今この空の上から巨大な岩がドッサリ降ってくるとか……?」
「……」
「……」
「あ、またフラグっぽい空気……?」
「それに関しては心配ねぇよ。アイツ、戦う時に変な美学があるからな。少なくとも今みたいな状況じゃ俺たちを狙ったりはしねぇ」
「そ、そっか……」
「ひとつ、いい〜?」
「なんですか? たまこさん」
「アオイちゃん、相手の力や私たちのことを知って……それでどうするの〜? 殺すの?」
その言葉に、ピシッと空気が張り詰める。
箸を持つ手が一斉に止まり、場に緊張感が走った。
全員が何かを考えている表情を浮かべている。
「あ、あー……えーっと……」
「それを聞かないと〜これ以上はね〜」
「あーおい?これ以上はなんだってんだ、クソガキ」
「やめろ、トミー」
「なんだよ、クソジジイが俺を止めんのか? ああ?」
「違う、お主の大将がまだ答えを出しておらん。それを聞いてからでも遅くはないじゃろう?」
……うわ、これ俺、めちゃくちゃ責任重大じゃん。
今から言うこと次第で、殺し合い始まっちゃうかもしれないんだけど……
とりあえずトミーさんが暴れそうになったら全力で止めるとして。
俺は、俺の正直な気持ちを伝えるのがいちばんだ。
それで納得してくれなかったら……その時はまた別の道を考える。
「えーっと……僕の最終的な考えは――《六英雄》全員が、仲間になってくれたらいいなって思ってるよ」
「……」
「……」
「…………」
3人とも、無言になった。
……沈黙を破ったのは、たまこさんだった。
ふわりと笑って、言葉を返す。
「良い答えね〜」
「え? あ、はい、えっと? ありがとうございます?」
「ホッホッホ、貪欲じゃのぅ」
「大将がそう言うなら、従うまでだ」
「う、うん……とりあえず、ここで身内戦にならなくて良かったよ……」
「なら、話は早いわね〜。レナノスは、私に任せて」
「え?」
「その感じだと〜相手も殺しちゃダメなんでしょ〜?」
「そ、そうですけど」
「あの人は私が殺さないし〜、私もあの人を殺さないから〜」
「でも、相手が違ったら……もしかしたら3人同時に、たまこさんに来るかも?」
「私は必ず“レナノスとの一騎打ち”の状況を作り出すわ〜。確実に。100%、間違いなくね〜」
めっちゃ言い切った……でも、それだけの自信があるなら何かしらの策があるんだろう。
「あーっと、じゃあ……それで」
「助かるわ〜」
まぁ、任せられるところは任せた方がいい。
その方が、俺も……考えること減るし。
「残りの2人なんだけど――」
「大将、マークは俺に任せてもらっていいか?」
「うん、お願いするよ。でも……なにか理由があるの?」
今度はトミーさんが手を挙げた。
――もう「任せろ」って感じなら任せるつもりだけど、一応聞いておこう。
「ま、消去法だ……俺はウジーザスには手も足も出ねぇ」
「え?」
「アイツの力は、俺と相性が悪い」
「ウジーザスさんの能力って大体予想はついてるけど……一応、聞くよ? なんなの?」
トミーは、短く、しかし重々しく答えた。
「――奴の力は《未来視》。文字通り、“未来を見て動く”化け物だ」