コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「はぁ……はあ、っ…息持たな…、 」
複雑に入り組んだ路地裏を駆けていく後ろ姿を必死に追いかける。アルコールが入っていることもあり、直ぐに息が上がり次第にスピードが落ちていく。
「まって、まる…!!」
小さい影が僅かな灯りの下をくぐるように通る。1つの瞬きで見逃すような速さだったが、しっかりと姿を捉えていた瞳は首元に巻かれた赤い輪を見逃しはしなかった。これを逃したら次はない、そう自身に言い聞かせ奮い立たせて重い足で地面を蹴る。
どれくらい走っただろうか。初めて見る景色ばかりで迷路の中に迷い込んだような感覚だった。半ば意地で追いかけているがそろそろ限界だ、そう思った時目の前を走る影が角を曲がる。予想外の動きに追いつこうと反射的に動いた足がもつれ、地面に強く身体を打ち付けてしまえば鈍かった頭が痛みで急激に冴える。
「い…ったあ……やば、見失っちゃう。」
急いで立ち上がろうとしたその時、後ろで物音がした。音の正体に振り返ると街灯の元でこちらの様子を伺う1匹の猫がいた。追いかけていた猫だ、と反射的に脳が判断する。
「まる、よかった。生きてたんだ…ね…」
再開に心を踊らせるのも束の間、纏う姿の異様さに言葉を失う。まるで地面に浮かぶ影のような黒い逆立った毛並みに、円弧を描くように首元に走る黒味がかった赤の凝血塊。光を反射して存在を示す鋭い牙に固唾を飲む。
脳が警鐘を鳴らす。ここに居ては駄目だと。ヒリヒリと痛みを主張する足にぐっ、と力を込めて身体を起き上がらせる。黒い影が姿勢を低くする。固い地面を蹴り、走り出すその音がこれから始まる果てしない追いかけっこの開始を告げた。