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「 この世で一番の愛を貴方に 」
もとぱ
カレンダーの数字がひとつ変わるだけで、世界がこんなに違って見えるなんて。
朝、目を覚ました瞬間から元貴はどこかそわそわしていた。
今日は――誕生日。
「 ……おはよう 」
寝ぼけた声で布団の中から顔を出すと、キッチンからはじゅうじゅうと音が聞こえる。
エプロン姿の滉斗が、フライパンを振っていた。
「 お、起きたか。ちょうどいい、朝飯できる 」
「 …うん 」
まだ寝癖の残る声で返事をして椅子に座ると、テーブルに湯気を立てるオムレツとスープが置かれる。
「 ……何これ、すごい 」
「 今日は特別だからな 」
滉斗はさらりと言ってコーヒーを注いだ。
元貴は思わず視線を逸らした。
“特別”なんて言葉を、普段の彼から聞けると思わなかったから。
朝食を終えたあと、ふたりはいつものように並んでソファに座る。
普段ならテレビをつけたり、それぞれのスマホをいじったりするのに、この日は妙に静かだった。
沈黙に耐えかねて元貴が口を開こうとしたとき
「 …元貴 」
不意に名前を呼ばれて、肩がびくりと跳ねた。
「 な、なに 」
「 誕生日、おめでとう 」
言葉と同時に、隣から腕が伸びてくる。
強くもなく、けれど絶対に逃がさないように抱きしめられる。
「 ちょ、ひろと……」
「 今日は特別だから 」
耳元に落ちてくる声は、普段のぶっきらぼうな調子とはまるで違っていて。
熱っぽい響きに、胸がぎゅっと締めつけられる。
「 …ほんと、ずるい 」
元貴は小さく呟いて、彼の胸に顔を埋めた。
頬に触れる鼓動が速い。
こんなにわかりやすく“甘える”滉斗を見るのは、初めてだった。
昼下がり。
出かける予定もなかったので、ふたりは部屋でのんびりと過ごした。
けれど、滉斗は普段と違ってやけにそばにいた。
肩を抱き寄せたり、髪を撫でたり、手を繋いだまま離そうとしない。
「 ひろと、……どうしたの? 」
「 どうもしてねぇよ 」
「 いつもと全然違う 」
「 今日くらい、いいだろ 」
照れ隠しのように目を逸らす彼の横顔に、元貴は笑いそうになった。
だけど、笑うよりも胸が熱くて、涙が滲みそうになる。
――この人は、こんなに自分を大事に思ってくれていたんだ。
その事実が、なによりの贈り物だった。
夜になり、二人でささやかなケーキを食べ終えたあと。
リビングの灯りが柔らかく照らす中、滉斗が改まったように言った。
「 なぁ、元貴 」
「 ん?」
「 ……愛してる 」
一瞬、時間が止まったようだった。
普段なら絶対に口にしない言葉。
冗談でも、酔ってでも、言ったことがない。
だからこそ、胸の奥にまっすぐ届いて、どうしようもなく涙があふれた。
「 …ひろと、今の、もう一回 」
「 何度でも言ってやる。愛してる。……この世で一番 」
震える声で、元貴は「 ありがと」とだけ答えた。
それ以上の言葉は見つからなかった。
その夜、元貴は滉斗の腕に抱かれて眠った。
普段なら照れて背を向けてしまうのに、今日は素直に身を預けた。
「 ……誕生日、最高だった 」
「 だろ。俺が横にいるんだから 」
「 うん。ほんとに……幸せ 」
滉斗の胸の中で、元貴は静かに目を閉じた。
頬を伝う涙は、もう寂しさの涙ではない。
――この世で一番の愛を、確かに受け取ったのだから。
~ 完 ~
改めて大森さんお誕生日おめでとうございます ~ ⟡.·
初めて推しの誕生日を祝いました …
書くの楽しかったからなんでもいいですけどねっ