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衛二さんはこういう時、無駄に言葉を冷たくする。多分衛二さんは俺と二人で回りたいと言いたいんだと思う。ほんとに多分だけど。俺は翻訳するかのように言葉を足す。
「あっ、えっと…男二人で楽しみたいみたいで、すみません」
「あっ…そうですか、なんかすみません!」
女性2人は恥ずかしそうにその場を離れていった。さっきと変わらず鋭い目のままの衛二さんに俺は言う。
「衛二さん、ずっと思ってたんですけど…もっとこう…笑顔で対応してあげたら?」
「笑顔で?無理だよ。僕笑顔苦手だから。」
「いやいや、いつもの笑顔だよ、ほら、ニコ〜って!スマイルスマイル!」
「でも僕、ほんとに笑いたいって思った時にしか笑えないよ?」
「え〜?いつも笑顔なのに?」
「多分、奏人くんといるから笑顔なんだよ。僕。」
「またそうやって…もう、衛二さん俺の事好きすぎ〜」
「そうだね。僕、奏人くんのこと大好きだね」
満面の笑顔でそう言う衛二さんに俺はまた呆れる。
「まぁいっか、ほら、次行こ!」
その後、俺たちは度々声をかけてくる人達を断りながら、ポテトやクレープなど色んな屋台を回った。しばらくして花火の時間が近づき、花火の見えそうなところへ移動していた。人通りも多い中、誰かに話しかけられる。
「あの〜」
「はい?」
「あ!やっぱり!奏人じゃん!」
「ほんとだ〜」
その顔をみた瞬間、俺は嫌気がさす。高校の時の友達だ。いや、正直、友達なんかじゃない。俺はこいつらにいじめられていたから。友達だと言いながらパシリにされたり雑用を押し付けられたりしていた。高校を卒業してやっと縁を切れたのに。めんどくさいと思った俺はいじめっ子達にぶっきらぼうに返す。
「久しぶり。で、別に話すこともないですし、さようなら」
「ちょいちょい、つれないこと言うなよ〜!俺たち、友達だろ〜?」
「俺はお前らと友達なんかじゃない」
「なんでそんな事言うんだよ奏人〜、ほら、高校ん時みたいにまた遊ぼうぜ?」
あぁ。めんどくさい。なんでこいつらは俺に絡んでくるんだ。もう高校卒業したんだから放っといてくれてもいいのに。そう考えていると、衛二さんが俺の前に出る。
「なんですか。あなたたち」
「え?なになに?そっちこそ誰ですか〜?」
「奏人くんの友達ですけど。」
衛二さんがそう言うと、いじめっ子共は馬鹿にするように笑う。
「え〜?友達?新しい友だちってこと?」
そう言って俺の方を見てくるので、俺はぶっきらぼうに返す。
「そうだよ。お前らのことは友達だと思ってないけど」
「え〜ひど〜い。てか、もう1人の友達は?葛西(かさい)だっけ?」
そう聞かれて疑問に思う。誰だ。葛西って。俺は高校の時、友達と呼べる人なんて居なかった。友達もどきだって、こいつらだけだ。葛西なんて人、知らない。
「誰だよそれ。知らねぇよ」
「え?忘れちゃったの?仲良かったのに〜」
「だから知らないって」
「喧嘩でもしたの?まぁ、どうでもいいけど。」
そういった後、もう一度偉二さんの方を見る。
「てか、お兄さん随分イケメンですね〜?」
「あ、もしかしてあれ?レンタル彼女ならぬ、レンタル友達とか!?」
「絶対そうじゃん!まじおもろいって!」
そう言ってゲラゲラ笑っている。俺のせいで衛二さんまで巻き込まれてしまった。もうこの場を離れよう。こんなヤツら、無視すればいい。
「…衛二さん、もう行こ」
その場を離れようと歩き出すと、いじめっ子に腕を掴まれる。
「ちょっと待ってよ〜、俺たちあんま持ち合わせなくて、なんか奢ってくんね?ほら、俺たち友達でしょ?」
いじめっ子達はケラケラ笑っている。もう嫌だ。お願いだからやめてくれ。そう思いながら何も出来ずに下を向いていると、低い声で衛二さんが言う。
「…離せよ」
いじめっ子は俺の手を離し、衛二さんの方を向く。
「え?何?レンタル友達さん、こういう時、庇うサービスまでついてるんですか〜?」
「…僕は本当に奏人くんの友達です。これ以上奏人くんをいじめるなら、僕も容赦しないですよ?」
「え?何?喧嘩?やめてよ〜、俺、喧嘩なんてしたことないんだけど〜」
衛二さんはふざけながらそういういじめっ子の胸ぐらを掴んだ。それを見て周りの人がちょっとした騒ぎになっている。このままだと警察沙汰にもなりかねない。そう思って俺は慌てて衛二さんを止める。
「衛二さん!落ち着いて!」
「ごめんね奏人くん、僕、この人達のこと許せないんだ。」
いつもと全然違う、冷たい声だ。凄く怒っている。こんなに怒っている衛二さんは初めて見た。
「なになに?殴るの?」
衛二さんはいじめっ子の目をじーっと見つめ、呟いた。
『黙れ』
いじめっ子は何も返さなかった。続けて衛二さんが言う。
『もう奏人くんに構わないでくれる?』
「…はい。分かりました。」
「それから、奏人くんに謝って。」
いじめっ子は俺に頭を下げる。
「ごめんなさい」
素直に謝るいじめっ子に、もう1人のいじめっ子が突っかかる。
「え、何謝ってんの?どうした?」
「君」
「なんだよ」
睨みながら衛二さんの方を見るが、瞬時に目が緩む。
『君も謝って?』
「…ごめんなさい」
俺は急に2人に謝られて混乱しつつも、返事する。
「あぁ…うん…じゃあ、俺もう行くね」
俺はそう言い残してその場を離れた。早くこの場から離れたかったから。後から衛二さんがついてくる。
「…奏人くん、大丈夫だった?」
「うん。衛二さんのおかげで助かったよ。ありがとう」
「奏人くんの力になれてよかった。」
しばらく沈黙が走った後、俺は立ち止まる。そんな俺の後ろで衛二さんも立ち止まる。
「なんかもう疲れた…」
「…そうだよね。ごめんね」
「なんで衛二さんが謝るの」
「…僕が夏祭りに誘ったから」
「それは関係ないよ。たまたまあいつらに会っちゃっただけだし。それに、今日すげぇ楽しかったし」
高校の時にいじめられてた俺はもちろん夏祭りなんて楽しめなかった。俺はただの財布だったから。だから、久しぶりに笑いながら屋台食って、友達と半分ことかして、すごく楽しかったのだ。
「僕も楽しかったよ。奏人くんと祭りに来れて」
本当はこの後花火を見るけど、俺は疲れて帰りたくなった。衛二さんには申し訳ないけど、今日はもう帰ろう。
「…衛二さん、ごめん。俺もう帰るね」
「待って!」
帰ろうと歩き出した俺の腕を衛二さんは掴む。
「..僕、奏人くんと花火が見たいんだ。人がいないいい所があるから良かったら一緒に行かない?」