東京〈9月10日 PM2:30〉
― 次のニュースです。先日、大阪の浪速区で、宝石強盗がありました。警察は、すでに捜査を始めているもようです ―
ビルについた大型テレビでのニュースを横目に、快斗達は東京を歩いていた。
「ねーねーシャルルちゃん。シャルルちゃんはなにが好きなの?」
絶え間なく流れる情報を見ながら、シャルルは答える。
「私は、私に得があって、稼げて、美しいものが好きよ」
「えーっと、つまりどういう事?」
突然、シャルルはそこに言う。
「ってめぇ!!」
「あら、まるであの 相棒を見てる気分だわ。あなた達本当に頭いいのかしら?」
「か、快斗……そんな怒んなくていいから……。シャルルちゃんも……」
「私、友達ごっこなんてするつもりないもの」
「誰がお前なんかと仲良くなるもんか」
「あら、上等じゃない。受けて立つわよ」
「二人共、落ち着いて……」
「うるさいわよ」
「えっと、じゃあ、シャルルちゃんは結局なにが好きなの?」
青子がそう言うと、シャルルと快斗は少し落ち着いて、話し始めた。
「『ダイヤ印』の『ディアモンド』が好きよ」
「あ、知ってる。有名だよね、そのブランド。確か、今度そのC……E……O? の人が、大阪に来るってニュースでやってたよ! ……ところで、CEOって何?」
青子が、そう聞くと。
ドンッ
快斗が、向こうから走ってきた男とぶつかった。
「CEOは、最高経営責任者の略だ」
すみません、と謝りながら言う快斗。
「へー、そうなんだ! でも、たしかその人って十六じゃなかったっけ……?」
「年下じゃねーか、すげーな」
「だよねぇ! 確か名前は、ティ……」
青子がそう言うのを聞かずに、快斗は前に走っていく。
「あのー、これ、あなたのですよね?」
女性に話しかける快斗。
その手には、六角形の石のついたチョーカーがのっている。
「あら?」
まさかと思い、女性の手を見るシャルル。
その女性の指には、銀の蛇の指輪がはまっている。
と、その途端、雰囲気を変えるシャルル。
「ねぇ、そのチョーカー、私の知り合いのに似ているのだけど、見せてもらってもいいかしら?」
女性に話しかけるシャルル。
「え、まぁ、いいけど……」
「……これ、盗んだのかしら?」
唐突な発言に、快斗も女性も驚く。
「何を言っているの!! これは、私が――」
「じゃあ、この石がなにかはわかるかしら?」
「何って、エメラルドじゃないの?」
「そうね。じゃあ、この石にどんな価値があるか、わかるかしら?」
「わ、わかるに決まってるじゃない!!」
「……そう、わかるのね。なんでかしら」
「それは、このチョーカーが私のだからに決まってるでしょう!!」
「じゃあ、なんで首につけていないの?」
「それは……」
言葉に詰まる女性。焦りまくる青子。
端から見て、今のシャルルは、根も葉もないことをいうおかしなやつだ。
まぁ、仕方ないだろう。
そしてついに、女性は叫ぶように言った。
「……ッ!! モード:MEMORY!! あんた達は、私のことを――」
すかさず、シャルルは女性の手首を掴む。
すると、 銀の指輪に触れていた手は、すぐに指輪から離れた。
シャルルは女性の指から指輪を抜き取り、手のひらのチョーカーを取る。
「ウィーニー、ウィーディー、ウィーキー(来た、見た、勝った)」
そして、自分の両手首につけていた金のブレスレットを外し、女性の両手を後ろでまとめて腕にクロスしてかけた。
そして、告げるように高らかに言った。
「そのブレスレットは、私がパスワードを打ち込まない限り、二度と開かないわ」
「えーっと、それ、犯罪じゃ……」
普通にありえない行動をするシャルルを、心配する青子。
「ちょっと、ここでは話せないわ」
そう言って、人の少ない路地に連れて行く。
そして、女性の持っていたバッグのチャックを開く。
「これを見ればわかるわ」
女性のバッグから覗くのは――
「き、綺麗……」
沢山の宝石だった。
「さっき、ニュースでやっていたでしょ。あの宝石強盗の犯人よ」
「で、でも、シャルルちゃん、あのとき私と話しててニュース聞いてなかったよね?」
「あなたみたいな相手なら、多少考えながらでも話せるわ」
「にしても、すげーな、お前。なんで、わかったんだ?」
快斗の質問に、シャルルはため息をつきながら答える。
「盗まれた宝石の量と、バッグの膨らみが同じぐらいだったからよ。それと、犯人の情報とこの女の体格が同じだったから」
なんともないかのように答えるシャルル。
多分、快斗よりも見抜くのに優れてるんじゃないだろうか。
「まぁ、見逃しても良かったのだけど、見逃せない理由があったから」
「そのチョーカーか?」
「……えぇ。そうね」
シャルルが指笛を吹くと、 一羽のハトが飛んでくる。
「は、ハト……」
「えぇ、伝書バトよ。このチョーカーを、持ち主に届けてもらうの。このチョーカーを、ナノに届けて」
シャルルがそう言うと、ハトは飛んでいく。
まるで、人の言葉がわかるようだ。
「ナノって誰だ?」
「私の知り合いよ。気にしないで。……それと、その女は警察にでも突き出しておいて」
そう言って、シャルルは一人で歩き始める。
「え、シャルルちゃん、帰っちゃうの?」
「ようを思い出したのよ。じゃ、あとはよろしくね」
そう言って、シャルルは立ち去っていった。
裏路地に差し込む光が、眩しかった。
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