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鬼灯 哀雷⚔️🥀
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天使は、泣かない。
「今日午後2時頃、〇〇市の路上で、通行人の男性が刃物で刺される事件がありました。男性はその後、搬送先の病院で死亡が確認されています。」
1K。狭い部屋。暗い。暗い。そんな暗い部屋に響き渡る聞き覚えのあるアナウンサーの声。今日はひどく頭に響く。テレビの光が壁に溶ける。
「また、現場には複数の関係者がいたとされ___」
音量を下げる。声が遠のく。でも、消えない。
声は、消えない。
「……気分はどうですか」
「…特に変わりません」
白い壁。天井の染みがやけに目立つ。見知らぬ場所で、見知らぬ男が深刻な表情をしている。
「では、当時の状況について確認をさせてください」
男は手元の紙に目線を落とす。
「あなたは、被害者男性とはどのような関係ですか」
少し考える。短い沈黙の中で言葉を探す。
「…知り合いです」
男はペンを止める。
「交際関係にあった、ということでよろしいですか」
「はい」
うなずく。それが1番分かりやすいから。
男のペンが走る音が耳に滲む。
「犯人とは、いつから一緒に?」
「一緒というか、道でばったりって感じで。いや、待ち伏せしてたのかな」
「口論は?」
「ああ、してました」
すっかり忘れてた。あの子の声は大きかった。悪魔みたいだった。すごく泣いていた、
悪い子。
「どんな内容でしたか?」
「えーっとなんだったかなあ、妊娠させといてとか、浮気とか色々物騒なこと言ってました」
男の顔が歪む。
「なるほど。ありがとうございます。そのあとの状況を教えてください」
「刺しました」
あっさりと言う。それ以外言葉は思いつかないから。
「……犯人が、被害者男性を?」
「はい。堅苦しいんで隆二くんでいいですよ。犯人の名前は知らないけど」
「……そのあとあなたは、どんな行動をしましたか?」
「見てました」
静かに答える。男の目が大きく開かれ、信じられないというような表情でこちらを見つめる。ペンの音が止まる。時計の針は無情に進む。長い、静寂だった。
「止めようとは、隆二さんを助けようとは、思いませんでしたか」
少し考える。どんな言葉が男にとって分かりやすいのか。
「…泣いていたので」
「……はい?」
「2人とも」
あの子も。隆二くんも。私は笑って答える。
「だから、待ちました」
男は、ペンを動かすより、仕事をするより、私の話に興味があるようだった。
「……待った?」
「はい。2人とも落ち着くまで」
男は、何も言わない。ただ、こちらに痛いほどの視線を刺すだけ。
「被害者は、まだ意識がありました」
低い声が重い空気に充満する。
「助けを求めていたという証言もあります」
うなずく。知っているから。
「でも、泣いている時は触っちゃだめなんです。汚れるから」
「…どういうことですか」
「泣かない子が天使なんです」
自信満々な表情で私は言う。正しいことを言えた気がした。
「…それは、誰から教わったことですか」
「母です!」
私はすぐに答えた。これは言葉を選ぶ必要もないから。
「天使は泣かないって!」
重い空気を切り裂くような軽快な声が、静かな部屋に響き渡った。男は、何も言わなかった。ただ、哀れな目で、こちらを見ていた。
「…あなたは、それが正しいと思っているんですね」
難しい質問だと思った。でも、答えは決まっている。
「もちろんです!」
男は、ペンを置いた。もう、何も書かなかった。
コメント
1件
さっき読み終わりました……「泣いている時は触っちゃだめなんです。汚れるから」って台詞がすごく刺さりました。天使の定義を歪めて継承した母親の教えが、ここまで冷たい確信になる過程を想像すると背筋が寒くなります。最後の「何も書かなかった」ペンが雄弁に語る感じ、好きです。続き、気になります。