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目が覚めたら真っ白な壁と優しい花の香りがした。俺より少し声が高く、可愛らしい声が上からする。吐息が耳に当たってくすぐったい。知らないのに、知っている声。一応、起こさないようにそっと離れる。俺と一緒にいたのは、左馬刻とよく似ているやつだった。
一郎)──ってこともあったよな
高度育成高校の制服に着替えながら、一郎はそう言った。
合歓)えっ、何の話?
一郎)いや、なんでもない
こてんと頭を傾けた合歓も、一郎と同様に制服を着替えていた。
一郎)今日の朝ごはんはフレンチトーストだぞ
合歓)やった〜
当たり前のように話しているが、実はこの2人、部屋は別々である。ワケあって特別にこの学校に通っており、部屋は今は退学してしまった女生徒がいたのを使用している。合歓はこの女生徒と同じクラスの男生徒のを使っていたが、事故物件かと疑うくらいに嫌な感じがしたので、今はここにいる。あの部屋はほとんど物置状態で、月に1度掃除をする程度であった。
平田)おはよう一郎さん
一郎)おはよう
朝から爽やかな笑顔で挨拶してきたのは平田だった。
平田)碧棺くんはどうしたんだい?
いつも一緒にいるからなのか、少し珍しそうにしている。
一郎)合歓ちゃんなら、忘れ物取りに行ったんだ
平田)そうだったんだね
俺と平田は自然的に2人で歩き始める。女子寮からは離れてきたからなのか、男子が増えていた。
平田)それにしても一郎さんと碧棺くんって仲いいよね。昔の地味なのかい?
一郎)先輩の弟だったんだ。それで仲良くなった感じなんだ
それから教室に入るまで2人で話し合った。
一郎)綾小路、一緒に食べるか?
綾小路)…わかった、行こう
食堂に向かおうとする綾小路を引き止める。
一郎)食堂じゃなくて、弁当。お前の分も作ってきたからな
綾小路)え…?
いつもぼんやりとした瞳が、少しだけ大きく見開いたのを見て俺は満足そうに笑って、二つの弁当箱を見せた。
合歓)珍しいね。鈴音ちゃんが私に昼食を奢ってくれるなんて!
堀北)そういう気分だったの。最初は綾小路くんにしようと思ったけれど、嫌そうに断られたわ
ため息をつく堀北に苦笑いを浮かべる。
合歓)2人で仲いいよね!鈴音ちゃんといる綾小路くんって、いつもより声や表情が柔らかい感じがするもん!
碧棺の口から出た言葉が理解できずぴしりと固まる。
合歓)えっ、どうしたの?早く食堂に行かないと席取られちゃうよ
一郎)話ってなんだ?
綾小路)えっ?
一郎)いや、なんか俺に話したそうにしたから弁当用意しちまった
綾小路)……
一郎の考えていることがわからなかったが、敵意がないことを色違いの瞳を見ればわかる。
綾小路)確かにしたいことがあるが、お前は俺の質問答えられるのか?
一郎)綾小路に何を隠しても無駄だったろうし、何でも答えられると言ったら嘘になっちまうが、お前の聞きたいことなら得られるぜ
綾小路)…そうか
軽く返事をし本題に入る。
綾小路)山田一郎、お前は別の世界から来たんだろう。そして、何かしらの影響で性別が入れ替わった
合歓)…さすがだね。やっぱり頭はいいんだ
堀北)褒めてくれたのはありがたいけれど、全ては綾小路くんのおかげよ
オーバーサイドのジャージを着た碧棺にそう返事をする。
堀北)あなたがその格好になったということは、一郎も同じようになっているはずよ。
合歓)え…?
堀北)屋上に行きましょう
合歓)えっと…うん。わかった!
堀北)…綾小路くんの推測が当たっているのならね
綾小路)お前が山田一郎か
綺麗に畳まれた制服を横目に、一郎は苦笑いを浮かべる。どこまで知っていたんだか。
一郎)綾小路はすげえな
右腕を外伸ばし、ぽんと頭を撫でる。
綾小路)……
一郎)あっ、悪い!つい癖で……
返事をしない綾小路はしばらく上の空になる。
綾小路)…いや、何でもない
顔を逸らせてそう言う。
一郎)よくわからないけど、イヤじゃないならいい
堀北)あら、随分いい雰囲気になっているわね
一郎)堀北…それに、合歓ちゃんまで
合歓)一郎くんも元に戻ったんだ!
お互いの姿を見て改めてこの状況を理解する。
綾小路)しばらく学校中がザワ騒ぎ出すだろうな
一郎)…それは嫌だな
合歓)うーん…我慢するしかないのかな?
堀北)しばらくそうなるわね
現実を突きつける堀北に、一郎と合歓は目を合わせてため息をついた。
堀北)あら、自分の頭を触ってどうしたの
綾小路)…わからないけど、なんだろ
本人では気づかないような珍しい表情に、目を丸くする。
堀北)…綾小路くんにも、何か進展がありそうね
ー終ー