テラーノベル
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空人は、最近ずっと笑っていた。
「おはよー!」
いつもと変わらない声。
いつもと変わらない笑顔。
メンバーも最初は、何も疑わなかった。
けれど、少しずつ違和感が増えていった。
楽屋で一人になる時間が増えた。
以前なら真っ先にみんなの輪に入っていたのに、最近は端の椅子に座ってスマホを眺めている。
「空人、今日なんか静かじゃない?」
そう声をかけられると、
「え?そう?全然元気だよ!」
と笑う。
その笑顔が、あまりにも自然だったから。
誰も、それ以上聞けなかった。
実は空人は、外で心ない人たちから嫌がらせを受けていた。
最初は悪口だけだった。
でも、それが日に日にひどくなっていった。
何をしても否定される。
自分の存在まで否定されているような言葉を浴びせられる。
家に帰って一人になると、昼間は我慢していた涙が止まらなくなった。
「……もう、疲れた」
誰にも言えなかった。
メンバーに心配をかけたくなかった。
だから、笑った。
何もないふりをした。
ある日の仕事終わり。
メンバーが先に帰ろうとしている中、空人だけが楽屋に残っていた。
「空人、帰らないの?」
「うん。ちょっとだけ片付けてから行く!」
そう言って笑う。
けれど、ドアが閉まった瞬間。
空人の表情から笑顔が消えた。
その様子を、忘れ物を取りに戻ってきたメンバーの一人が偶然見ていた。
「……空人?」
ビクッと肩を震わせる空人。
「え?」
「……今、泣いてた?」
「泣いてないよ」
反射的に答えた。
でも声が震えていた。
「嘘つくの、下手になったね」
その言葉に、空人は黙り込んだ。
そして、隠していたものに気づかれてしまう。
「……これ、どうしたの?」
空人は何も答えなかった。
しばらく沈黙が続いたあと、小さな声が漏れた。
「……ごめん」
「なんで謝るの?」
「……みんなに迷惑かけたくなくて」
「迷惑じゃないよ」
「でも……俺が弱いから……」
「弱いんじゃないよ」
その言葉を聞いた瞬間、空人の目から涙が落ちた。
「……怖かった」
今までずっと我慢していたものが、一気に溢れ出した。
「毎日、何言われるか怖くて……。でも、みんなには言えなくて……」
そこへ他のメンバーも戻ってきた。
「どうした?」
空人を見た瞬間、何かを察する。
誰も責めなかった。
誰も「なんで言わなかったの」と怒らなかった。
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りちこ
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ただ、一人が空人の隣に座った。
「空人」
「……うん」
「一人で抱えなくていいよ」
その言葉に、空人は顔を覆った。
「……助けて」
初めて、自分からそう言った。
「もちろん」
すぐに返事が返ってきた。
その日、メンバーは空人を一人にしなかった。
そして、必要な大人や専門家にも相談することを一緒に決めた。
すぐに全部が解決するわけじゃない。
それでも空人は初めて思った。
――言ってよかった。
自分には、味方がいたんだ。
帰り道。
隣を歩くメンバーが、何気なく言った。
「明日も一緒に行こうな」
空人は少しだけ笑った。
「……うん」
今度の笑顔は、作ったものじゃなかった。
コメント
1件
いやもう、この話は本当に胸に来たよ…。「明日も一緒に行こうな」って何気ない一言が、どれだけ空人を救ったんだろうね。「言ってよかった」と思えた瞬間が一番のハイライトだった。作った笑顔じゃない笑顔が見られて、こっちもほっとした。空人は「弱い」んじゃなくて、怖がるのが怖くて我慢してたんだなって伝わってきた。また次の話、楽しみにしてる!