多分、元貴は若井が好きで。
元貴が若井に向ける熱っぽい視線から、そのことには薄々気づいてた。
それでも元貴が行動するような素振りはなかったため、僕も特に動くことはなく、このままの関係が続けば良いと思ってた。
若井のそばにいて笑ってるだけで幸せで。
それが崩れたのはいつだったかな。
やけに上機嫌な元貴
明らかにいつもと様子が違う若井
若井の首元に飾られた鮮やかな元貴色のチョーカー
きっと違和感はそれ以上に。
それでも決定的な何かには欠けていて。
モヤモヤした日々が続いていた。
そのモヤモヤが一気に吹き飛んだ。
嫌な意味で
若井のスマホに映った写真
一瞬しか見えなかったけど、多分若井の写真。しかも事後。
その写真一枚で今までの不確かな憶測が全て現実だと証明されてしまった。
多分若井に否定して欲しかったんだと思う。
でも若井は俯くばかりで。
そんな若井を見て身体が勝手に動き、自分でも予想外の行動に出ていた。
若井の腕を引き、口元に優しく触れる。
君は目を見開いてもの凄く驚いたような顔をしていた。
抵抗する若井の腕を掴み、壁に縫い付けて口付けを深くして。
あぁ、最低だな僕。
わかってても、止まれなくて。
「ふ、ぁう…//もぉ、きっ…」
「っ…」
元貴
確かに若井はそう言った。
その一言で一気に頭が冷静になり、若井の唇からゆっくりと口を離す。
「っはぁ、りょ、ちゃ」
若井は涙目になりながら、苦しそうに肩で息をしている。
「…ごめんね若井、泣かせちゃって」
若井に向かって手を伸ばすと、僕のことが怖いのか大袈裟に肩を震わせて唇を結んでいる。
なるべく怖がらせないように、瞳に溜まってしまっている涙を優しく拭う。
小さく震えていた若井も、僕を信用してくれたのか、先ほどより震えがおさまっていた。
若井は僕を見ながら小さく弱々しい声で呟いた。
「だいじょうぶ…」
自分より力の強い男に無理矢理壁に押さえつけられてキスをされて、大丈夫なわけなんてないのに。
声を震わせながらも、ぎこちなく笑って見せる若井の表情に胸が締め付けられる。
若井が落ち着くのを待ち、涙が止まった頃合いを見て口を開く。
「若井はさ、元貴が好きなんだよね」
「え…?」
そういうと、若井は困惑したような顔をしていた。
…無意識なの?あれだけ見てるのに。
若井の反応に少し驚くも、言葉を続ける。
「…ずっと元貴のこと見てるもんね」
「は、いや、その…」
「わかるよそれくらい。ずっと若井のこと見てたんだから」
前言った時は笑って流されちゃったけど、今回は流石にその意味がわかったみたいで。
赤く染まっていた若井の頬はさらに赤みを増していた。
僕のことでそんな顔してくれるんだ。
可愛いな、そんなとこも。
「先戻ってて、若井。僕も少ししたら行くから」
顔を赤くして先ほどから困惑している若井に先に戻るよう催促をする。
これ以上一緒にいると、きっとエスカレートして止まれない。
また君を泣かせてしまう前に。
「う、うん…」
若井は何が何だかまだ処理しきれていないようだったが、僕がそう言うと背を向けて走っていってしまった。
小さくなっていく背中を見送り、廊下に1人残される。
「言えなかったなぁ…」
もし、僕が元貴より先に想いを伝えられていたら、何か変わってたのだろうか。
今さらそんなことを考えても仕方がないことなんてわかってる。
それでも頭に浮かんでくるのは、あの時こうしてれば、もっとあぁしていればという後悔ばかり。
キスしたまま時間が止まっちゃえば良かったのに。
若井を泣かせておいてこんなことを思う権利がないなんて百も承知だが、願わずにはいられなくて。
あの時間だけは、若井は僕を見てくれていた。それが嬉しくてしょうがない。
そこまで考えて思考が止まる。
「いや、そうでもなかったかぁ…」
知りたくなかった現実に改めて気付き、思わず天井を見つめる。
キスまでしたのに、若井の心は元貴にあった。
あの場面で違う男の名前を出されると流石の僕でも傷つくよ若井。
僕以上に、若井の方が傷ついたとは思うけど。
若井を泣かせて傷付けてしまった罪悪感に紛れて、彼の心に少しでも痕を残せたことに気持ちが昂っている自分もいるようで。
僕ってこんなに性格悪かったのか。
こんなんじゃ、若井の隣にいるには相応しくなんてないよなぁと軽く自己嫌悪に陥る。
最後まで元貴には、敵わなかったな。
「…好きだよ、若井」
もう見えなくなってしまった背中に、小さく呟いた。
「はぁ、は、」
人気がない廊下を小走りで駆け抜ける。
涼ちゃんにキスされた唇がまだ熱を持っていて。
唇に触れると先ほどの場面が脳裏に蘇り、顔に熱が集中する。
…涼ちゃんは俺のことが好き?
きっと普通の人間なら、涼ちゃんのことでいっぱいになってそのことしか考えられなくなるんだと思う。
なのになんで、俺の頭の中には元貴のことばっかり浮かぶんだ。
涼ちゃんにキスされて照れたのは事実だし、涼ちゃんからの好意が嬉しくないわけじゃないのも事実。
なのに、なんで、なんで
なんで俺は、元貴ばっかり…!
涼ちゃんに言われた言葉が頭の中で繰り返し再生される。
『元貴が好きなんだよね』
俺が元貴を好き…?
ずっと、目を背け続けてきた問いを改めて突きつけられる。
始まりは最悪だった。
元貴に無理矢理犯されて泣かされて。
元貴のことが怖くて仕方なくて、会いたくないって思うくらいには怯えてたと思う。
でも、優しいところもあって。
元貴に怯える気持ちもまだある。
でも、多分惹かれてる気持ちも嘘じゃない。
そこまで考えて、一つの答えに辿り着く。
向き合いたい、ちゃんと元貴と。
この説明しようがない気持ちに、気付かせてくれた涼ちゃんのためにも。
「…このままじゃだめだよね」
頬を軽く叩き、気持ちをきちんと切り替える。
元貴を探そうと思い走り出そうとしたその時。
ぐっと腕を強く引かれた。
「ぇ、」
突然のことで体勢を崩し、床に思いっきり倒れ込む。
おそるおそる目を開けると、そこは薄暗い部屋で。多分倉庫みたいなところ。
じっと目を凝らすと、人影が見えた。
背丈や服装的に、俺が探してた人物と合致する。
「も、もとき…?」
声をかけるも返事はない。
部屋の暗さも相まって恐怖を感じるも、その気持ちをなんとか押し殺して言葉を紡ぐ。
「元貴…俺さ、お前とちゃんと…」
そこまで言ったところで元貴に強引に服を掴まれ引き寄せられる。
元貴と目が合う。
その瞳に光はなくて。
「んぐっ、!?」
次の瞬間、口の中に手を押し入れられ、何か錠剤のようなものを飲まされ喉に異物が通る感覚がする。
「げほっ、」
思わずむせこんでしまう。
目の前の元貴に抗議しようとするも、次の瞬間、強烈な眩暈に襲われた。
頭が痛い
気持ちが悪い
あまりに痛む頭を抑えて思わず地面にうずくまる。
そんな俺を冷め切った瞳で見下ろしながら、元貴は抑揚のない声で呟いた。
「…あれだけ言ってわかんないなら、もうこうするしかないよね」
「は、ぅ」
どんどん視界が歪み、平衡感覚が失われていく。
「も、とき…」
薄れる意識の中、元貴の名前を呟くもその言葉は元貴には届かなかった。
やっとここまできましたね…書いてて切なかったですだいぶ…
涼ちゃぁん…
そして、フォロワー様がなんと250人を超えていましたぁ…!!!
フォローしてくださる皆様、たくさんいいねをしてくださる皆様、いつもコメントをくれる皆様、本当に本当にありがとうございます!!!
もうみんな大好きですぅぅぅぅぅ!!!
コメント
87件
やばいー、、展開が謎すぎますね… 先が全く読めない、、感情移入がやばいです!涼ちゃんは優しいし、若井は向き合おうとしてて偉い!と思ったらまさかのここで光なしの大森さん、、見てたんでしょうか、? 主さんの文章には何か感情が含まれているような気がして、読むのがとても楽しいです これから先もどうなるか楽しみです!!
また最高の物語ありがとうございますやっぱりキスしてた所元貴は見てたのかな…?次も楽しみにしてます
1 「うわぁ!更新来てる!」 2 「涼ちゃん切ないっ、」 3 「おっ、若井さんちゃんと向き合おうとしてるの偉い!」 4 「ん?雲行きが、、」 5 「おっとぉ、」 こんなに感情が揺れたのは初めてですね、 250人突破おめでとうございます🎉🎉