「かなと、かなと」
「う、…なっ、なに……?」
この状況をどう説明しよう。
奏斗とセラフは途中までふざけあって笑いあっていた。が、流れは途端に変わり、セラフが奏斗を狙っているような視線を送り始めた。
今、そんなセラフから壁に追いやられてどこにも行けないようにされてしまった奏斗の図が出来ている。
「さっきの話、ほんと?」
「えぇ…っっとぉ〜…??」
苦笑いをしながら目が合わないようにと視線を逸らす奏斗。けどそれは逆効果で、セラフの目つきはどんどん鋭くなっていく。
奏斗を見つめる目を細めて、逸らした視線の方へ勢い良く ぐっ と顔を近付けた。
「ひっ…!?」
「怖がんないでよ、ほんとかどうか聞いてるだけじゃん」
セラフの声のトーンは、普段の声より少し圧がかかっているような緊迫感を感じさせるような声だった。
逸したはずの視線の先には何故か自分の顔を覗き込むセラフの顔が見えて、わけもわからず目を閉じてしまった。
「ねぇ、奏斗。”好き”…って、ほんとなの?」
「う、あ…え、……」
意図せず奏斗の耳の近くに顔があった為、何かを喋るたびに奏斗の耳にはセラフの声が響く。
何かを喋られるたびに肩をすくめて、肩に耳を隠す様に身を縮める。
「答えてよ、わかんないじゃん」
「ち、近い…近いから…!!一旦離れて…」
「奏斗すぐ逃げるじゃん、俺は退く気ないからね?」
腕を使ってセラフの体を押す。が、ビクともしない。
そんな奏斗の行動をみても顔色一つ変えず、寧ろ距離を詰めるセラフ。腕は奏斗の顔の横で、肘から手のひらまで壁につけて追い詰め、足は片方の隙間から逃げられないように、と壁につま先を引っ付けている。
「か〜な〜と。」
「う、…も〜わかったから!!そうだよ!!好きだよ、セラのこと…!!!」
「やっと言った、ほんとだったんだ?」
セラフは至近距離だった顔を離し、優しく奏斗に微笑みかけた。先程の獲物を狙うような鋭い目つきはどこへやら、と言わんばかりの優しい顔だ。
奏斗はセラフの近くなった声や顔、匂いに反応して紅くなった顔を隠すのに必死だった。縮まった状態のまま床にぺたんと座り込んだ。心臓の音がドッドッド…とすこし激しくなっている。
「ばか…っ、セラのばか……」
「なぁんでそんなこというの?俺も奏斗のこと好きよ」
座り込んでしまった奏斗の頭を優しく撫でながら、いつもの優しい声のトーンに戻した。
ちらっと見える奏斗の赤くなった耳を見て、ふぅん 、とニヤケて、その耳に少しだけ掛かっている髪を指でさらりと避けてやった。その時、少し大袈裟に体を跳ねさせる奏斗の様子を見て楽しんだ。
「真っ赤じゃん奏斗」
「誰の、せいだと…思ってんの……」
弱々しく、きっと聞こえているのは自分だけだと思ってしまうほどに小さな奏斗の声に愛おしさを感じた。
「誰だろーね、ま 俺か」
「あはは、奏斗、俺の色に染まってんね」
耳の近くの髪を撫でながら、そんなことを呟くセラフ。
「っ〜〜…!!!やっぱ嫌い!!セラ嫌い!!」
とても恥ずかしくなってしまった奏斗は、思わず顔をあげて、髪を撫でていたセラフの肩を手のひらで思い切り押し退けようとした。
セラフは楽しそうにしながら、今ある幸せを噛み締めていた。
コメント
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愛おしいカップルですなぁ……✨