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わあ、読み終わりました…!もう、胸がいっぱいです😢💕 りうらくんの「先生じゃなきゃダメなんだ」っていう気持ちの積み重ね方がすごく丁寧で、勉強嫌いだった子が先生に褒められたくて頑張る姿に切なくなりました。特に「他の生徒にも同じように褒めてるんでしょ」って嫉妬するところ、胸がぎゅっとなりました…。 先生が「やめへん!」って駄々こねるシーン、あそこ本当に好きです。りうらくんの気持ちが溢れてしまうのも分かるなあ。続き、すごく気になります…!
こんにちはさーもんです🐟今回は新作です✨️ずっと前から書きたかった設定なので、うきうきしながらかいてました
好評だったら続き書くかも…
R18はないです!かわいい二人をお楽しみください
【⚠️ATTENTION PLEASE⚠️】
irxs
赤青
高校生赤×家庭教師青
水さん出てきます
通報❌
純粋さん・地雷さんは閲覧を控えることをお勧めします
誤字脱字は脳内変換してください
「はーーー………なんであんたはこんな馬鹿なの?」
「知らない」
「なに4点って!赤点なんてもんじゃないわよこれ!」
「だって勉強したくないもん」
「……そんなこと言うなら、お母さんにも考えがある」
「なに?」
「それは言わない」
「…あっそ、何だか知らないけど俺は勉強しないからね」
「それはどうかな〜」
俺の名前は大神りうら。ごくごく普通の高校1年生だ。初めに、俺は勉強が大嫌いだ。小さい頃から授業を真面目に聞いた事はなく、テストは常に赤点。唯一好きな教科は体育。自分でも思うくらい、典型的なバカである。勉強を嫌いな理由は一つだけ。単に、たのしくないからだ。毎回、こんな知識使わねえよって思いながら問題を解くのが嫌で嫌で仕方ないのだ。
だから、よく親に怒られる。この前も怒られた。テストの点数が全部1ケタで、それを見せたら怒号が飛んできた。でも別に、それはいつもの事だしいいと思ってた。すると母さんは「私にも考えがある」と言った。あのセリフを聞いて以降、特に母さんが勉強を促してくることはないし、スマホを没収されたりすることもない。考えというのが一体何の事なのかは分からないが、何もしてこないならそれが1番いい。勉強めんどくさいし。
そして、今日もいつものように学校から帰ってきて、ソファで寝転びながらスマホをいじっていると、玄関から仕事から帰った母さんの声が聞こえた。
「りうらー!こっち来なさい!」
「…?」
言われた通り玄関へ向かうと、そこには母さんと、スーツ姿の見知らぬ男がいた。
「……誰」
「誰って失礼ね、猫宮さん、家庭教師よ!あんたの!」
「…………は?」
「あんたがあまりに馬鹿だから、家庭教師をつけることにしたの。どうせあんた塾とか行けないでしょ。だからこれからは、家で死ぬほど勉強してもらうから。」
「はぁぁぁぁぁっ!?!?!?」
顎が外れるほどの、衝撃だった。
「何勝手なことしてんの!?俺やりたいなんて言ってないんだけど!!」
「そりゃそうよ、私が勝手にやったもん」
「はぁっ……??」
家庭教師なんて、俺の人生とは無縁だと思っていた。そもそも勉強が出来ないし嫌いなのに、赤の他人と1対1でとか無理なんだけどマジで。
ちらりと母さんの隣の家庭教師さんを見ると、頭を深く下げて、
「よろしくお願いします、りうらくん」
と言った。
「……は、…」
「じゃあ、今日からだから、さっさとあんたの部屋まで案内してあげて、」
「えぇ………」
流石の俺も、ここで反抗する気にはなれなかった。眼鏡してて真面目そうな人だし、いかにも勉強って感じの見た目だし、第一印象は、地味。でも髪は青いし、背も高いし、清潔感もある。そんな人に向かって、「帰れ!」とか「余計なお世話なんだよ!」とか、言えるわけがなかった。
ため息をつきながら階段を上って、俺の部屋まで案内する。
「ありがとう、お邪魔します」
「…」
「改めて、りうらくんの家庭教師を担当する猫宮いふです。よろしくね。」
「…よろ、しく、お願いします、大神です」
「勉強は苦手?」
「まぁ、結構」
「そっか、まあゆっくり教えてくから大丈夫やで」
……なんだ、優しい先生じゃん。心配して損した。いやでも、いつか俺の馬鹿さに呆れて怒ったりとかするんじゃないか。俺はわかるぞ。俺の数学の担任も、最初は優しかったのに俺が出来なさすぎて今では半分呆れられてるし。
「この前テストあったんやっけ?」
「…はい」
「じゃあ今日はテストの復習でもするか、解答用紙ある?」
「あ、はい、えっと…これ、」
ゴミ箱を漁って皺だらけのテスト用紙を取り出す。
「はっ、ぐちゃぐちゃ笑」
「…すいません」
「ええよ全然、んーと…」
「あっ、」
さらっとテスト出したけど、そういえば俺点数めっちゃ低いんだった。全部一桁なんだった。別に母さんに見られるのはいいけど、頭いい人にこんなクソみたいな点数見られんの無理かも。そんなことを思ってももう遅い、と諦めてそっぽを向いていると、横から「おーすごい」と褒め言葉が聞こえてくる。え、褒めてくれんの?と驚き先生の方に向き直る。
「…どうですか?」
「うん!馬鹿やな!」
「………えっ?」
「こんな点数久々に見た」
「はぁ?そんなはっきり言う?」
「ごめん、言わずにはいられなかった」
さっきまでの優しい先生はどこいったんだよ。めっちゃ正直に言うじゃん。まあ、事実だし、否定できないけど。
「今からでも断ったっていいよ、こんな馬鹿に教えんのなんて時間の無駄でしょ」
「いや、断らない」
「なんで」
「だって、馬鹿に教える方が俺も成長できるし」
「…嬉しくないんだけど」
「 それに、なんかりうらくんは、人より努力できそうやなって思った」
嘘など微塵も感じられない目で、そうはっきりと言われた。
「……思い違いかもよ」
「そんなことない」
「…優しいね、先生」
「俺はりうらくんを信じとるからな」
「…あっそ」
その時の濁りのない笑顔が、俺はずっと忘れられなかった。
調子が、狂っている。
この前から週1で先生が来てくれることになって、明日が2回目に会う日だ。前に、先生から、
『じゃあこの問題、次俺が来るまでにやっといてね』
と、課題を出された。今までの俺だったら、課題なんて絶対にやりたくなかったし実際やらなかっただろう。なのに今、俺はずっと使っていなかった勉強机に向かってペンを動かしている。
(俺が…勉強…してる?)
自分でも信じられない。じゃあ何故、俺は課題をやっているのか。それは俺も分からなかった。先生に怒られたくないから?それはなんか違う気がする。この前馬鹿って言われたから、見返したくて?いやそれも違う。こんなことに考えを巡らせてしまうのも、全部あの人のせいだ。
「あーーーもう!!!!なんなんだよ!!!」
こんなの、俺らしくないのに。
次の日、また先生が来た。
「お邪魔します、こんばんはりうらくん」
「…こんばんは」
「元気やった?」
「別に、ふつう」
「そっか、よかった」
あんたのせいで元気じゃないよ、と心の中で愚痴る。
「りうらくん、こないだの課題やった?」
「…やった、これ」
「おお、見せて、答え合わせする」
先生が赤ペンを出して、丸をつけていく。
「おーーーすごい!!全問あっとる!」
「まじ?びっくり」
「すごいすごい!!!俺もびっくり!」
この前教えてもらった内容で解けるような、先生がその場で即興で作った課題。正直、この前の授業はすごく分かりやすかった。おかげでこの課題も、スラスラ解けてしまったのだ。
「…信じてるとは言ったけど、正直俺、課題やってこないんじゃないかと思ってたから、嬉しい、」
「……」
「やっぱりりうらくんはやる男やな〜〜」
俺の課題を嬉しそうに持ち上げる先生を見て、何故か笑みが零れてしまう。頬杖をついて先生をじっと見つめると、先生が首を傾げる。
「どした?」
「……俺、すごい?」
「えっ?」
「すごい?」
「…うん、めっちゃすごい、」
「…そ、」
なんだ、この気持ち。褒められるのが、嬉しい。もっと、褒められたい。先生が喜ぶ姿を、見たい。
「これから毎週やるよ、課題」
「おっ、ほんまに!」
「ふ、信じるんだ」
「え、嘘なん?」
「…うーん、どうかな」
「ええ、なんやそれ笑」
先生は、思ったより表情の種類が多い。仏頂面だと思ってたけど、よく笑うし、よく困る。
(…たのしい、)
「…そんなことより、早く授業してよ」
「それはそうやな、じゃあ今日は…」
__________________
「で、ここをxとしてるから…」
「…」
「…聞いてる?」
「んー、うん」
「聞いてへんやろっ」
「…ねえ、先生は何の教科が1番得意なの?」
「なに急に」
「なんとなく」
「俺は、英語かな」
「えいご……喋れるの?」
「ちょっとだけな」
「へ〜、すごいね」
「別に、そんな大層なもんじゃない」
「今度は英語教えてよ」
「うん、じゃあ来週は英語ね」
「…うん」
「ってそんなんはいいんよ、この問題の解き方もっかい説明するで?」
「うん」
俺のために、必死に説明してくれている先生の横顔を見つめる。綺麗だ、と思った。メガネのせいであまり見えない瞳も、横から見たら宝石みたいで。掴み取ってしまいたいくらい、きれい。
「……なに」
気づけば、俺は先生のメガネを外そうとしていた。目の前にはしかめっ面の先生がいた。
「……なんもない、」
「集中!して!今の聞いてた!?」
「聞いてた、と思う」
「ならこの問題は?どうなる?」
「………」
「…嘘ついたな」
「ごめん、次からちゃんと聞く」
「はーー……3回目はないからな?」
こんな感情、初めてだ。誰かのことが気になって、もっと知りたいと思うことは。今までの俺なら、相手に興味すら湧かないし、話だって聞こうともしない。面白くないからだ。なのに、この人にだけは、知らない感情が生まれる。この人には、反抗したくない。この人は、おもしろい。この人は、たのしい。
何故か分からないけれど。
こんな馬鹿な俺にも、悩みが出来てしまった。
「りうちゃーん、ってえ゛ぇ゛っ!?!?」
「…なに?」
「べ、べべべ…勉強、してんの……??」
「……うん」
あれから数週間、先生に何回か勉強を教えてもらってからというもの、この俺が、このアホな俺が、勉強をするようになった。今まで親に言われても、先生に怒られても、絶対にやらなかった勉強を、今学校でやっている。友達のほとけは、そんな俺を見て大声で驚いた。
「な…ど、どんな心変わりですか…」
「ん、別に勉強が楽しいとかじゃないけどー…んー、…」
俺は、今でも勉強は嫌いだ。だって今までしてなかったんだもん。数式とかわかんないし、文法とかも考えたことないし。じゃあ、何故勉強するようになったのか。
答えはひとつしかない。
先生に、褒めてもらいたかった。
『すごいやん』
『頑張ったな』
そう笑顔で言ってくれる、先生が見たい。先生を、失望させたくない。それが今俺が勉強をする理由だ。
「……家庭教師、が、すごい人でさ、」
「えっ、家庭教師いんの??」
「うん、その人のために、やってる感じ」
「…厳しい系ってこと?」
「そういうんじゃなくて、その人のために俺がやりたいと思ったの」
「……?わかんないけどよかったじゃん」
「…うん、」
今日も、先生に会える日だ。頭の中はそのことで埋め尽くされていた。
___________________
「よし、ちょっと休憩するか」
伸びをしながら先生が言う。俺も椅子にもたれかかり、先生に話しかける。
「ねーせんせ、今日学校で勉強してたらさ、友達に珍しいっていわれた」
「は、なんやそれ笑 どんだけ普段勉強しないん」
「だって、先生に教えてもらうまでは勉強なんて意味無いとおもってたもん」
「俺のおかげ?」
「うん、」
「嬉しい、よかった」
やっぱり、この人が笑うと、変な気持ちになる。
「……先生ってどこに住んでるの」
「?こっから車で10分くらいのとこ」
「ふーん…遊び行ってもいい?」
「はぁ?だめにきまってるやろ〜」
「…冗談だし」
「拗ねんな拗ねんな」
「拗ねてないよ」
「もし来てくれるなら、いくらでも勉強教えるで」
「…勉強はやだ」
「えー笑 じゃあ何のために来んの笑」
「……せんせいにあいたいから」
「…え、」
先生は一度目を見開くと、咳払いをしながらメガネのブリッジを指で持ち上げた。
「よし、休憩終わり、続きな!」
「…うん」
多分、はぐらかされた。ムカつく。ちょっとぐらい照れたりとか、怒ったりとか、して欲しかったのに。
そこで、俺はふと気づいた。先生のことを、思いの外考えすぎていることに。何かある度に先生の行動や、仕草を見つめてしまったり。先生を笑わせたり、困らせたりするのが楽しかったり。いつの間にか、頭が先生のことで埋まっているのだ。勉強だっていつもやらなかった癖に、先生に教えて貰うときだけは楽しいし。
こんな俺、しらない。
「…で、あっ、りうらくん今日の課題は?やった?」
「うん、これ」
「おお、見せて」
「…はい」
「…あー惜しい!ここだけ違う」
「え、」
「ほら、ここyが抜けてる」
「あっ、ほんとだ」
「でも、それ以外できてる!すごい!」
また、褒められた。俺はそれだけで、今日学校で頑張った甲斐があったと思えた。
褒めてほしいんだ。もっと。
そうすれば、俺はいくらでも勉強する。
先生のためなら、勉強でさえも俺は頑張れる。
もっと、
もっと、
俺は、
「りうらくん?」
「はっ、なに?」
「さっきの続き、やってもええ?」
「あぁ、うん…」
……俺は?
俺は一体、先生に何を求めているんだ。
あれから1ヶ月が経ち、先生に教えてもらって以来初めてのテストがあった。前やったテストは散々だったが、今回のテストは人生で一番勉強を頑張った。それは他の誰でもない、先生のおかげだ。特に英語は、先生が得意らしいから一番頑張った。
そのおかげで、当日は、今までと別人になったのかと自分でも思うほど、スラスラ解けた。前までは問題文すら読んでなかったのに、問題を見てこれはどう解くのかとか、ここはこの前教えてもらったところだ、とか、思えるようになったのだ。
テストが終わり、前の席の水色の頭がこちらを振り向く。
「りうちゃーん、テストどうだった?」
「え、なんか、すごい、うん、解けた」
「やっぱり?最近めっちゃ勉強してたもんね」
「まぁ…」
「家庭教師の人のおかげなの?」
「うん、それは、そうかも」
「へ〜…僕も家庭教師たのもうかな」
「いいんじゃない?」
俺は早く、先生に会いたかった。会って、沢山褒めて欲しい。テスト出来たよーって言ったら、きっと、よく出来たなーとか。めっちゃ点上がってるやん!とか。言ってくれるんだろうな。
はーあ、はやく、あいたいだけなのに。
「…せんせい、」
先生が来るのは明日だ。こんなにも、一日待つのが苦痛だったことはない。
次の日になって、俺はルンルンで学校に行き、ルンルンで学校から帰ってきた。だって、会えるのだ。それが嬉しくて、ソファの上のクッションをぎゅっと抱いた。とは言うものの、まだ先生が来るまで時間はある。その間勉強してようかと自分の部屋に行こうとすると、ちょうど母さんが帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり」
「自分の部屋行くの? 」
「うん、先生来るまで勉強するから」
「?今日猫宮先生こないけど」
「………は?」
「あれ、言ってなかった?猫宮先生の他の生徒さんの都合で今日は来れないんですって」
「………」
「先生も忙しいからねー、大変よねー」
「………」
「ていうか、先生の連絡先持ってないの?てっきり持ってると思ってた」
「………」
奈落の底に突き落とされたような感覚だった。
それは、今日先生に会えないと知ったからではない。いや、それもあるけれど、
『他の生徒さんの都合で』
その言葉が、何よりの絶望だった。家庭教師なのだから、そりゃあ何人もの生徒を見てるんだろうなとは思っていた。分かっていたけど、俺は期待していた。もしかしたら、こんな風に先生が手を焼いてくれるのは俺しかいないんじゃないかって。こんな風に接してくれるのは、先生にとって俺だけなんじゃないかって。その期待を全て、ぶち壊された。先生に他の生徒がいるという事実を知っただけで、俺はそいつらを消してやりたくなった。
折角先生に、今日沢山褒めてもらえると、おもってたのに。
「…そんなこと知ってるよ、」
「あら、そう、」
「勉強する」
そう言って部屋に籠ったまま、俺はベッドの上で放心していた。
俺は、”先生”に褒められるのが好きだ。
なら俺は、誰かに褒められるのが好きなのだろうか。
勉強で誰かに褒められることなんて無かったから、それが嬉しいのだろうか。
そうじゃないなら何故、俺はここまで先生に拘るのだろうか。
褒められるだけなら別に先生じゃなくてもいいはずなのに。
「……俺…」
気づけば、俺はベットから降りて勉強机に向かっていた。少しでも、先生の気を引けるようになりたかった。他のやつに負けないくらいに。
その翌日、俺はいつも通り学校に行った。いつもだったらサボってた授業も、最近はちゃんと受けるようになった。周りの人はなんでいんの?みたいな目で見てきたが、そんなのはどうでもいい。俺は真面目に勉強をすると決めたのだから、別に恥ずかしくも何ともない。
俺が気になるのは、担任の先生の目だ。ホームルームの時も授業の時も、何だか俺の事ばかり見ている気がするのだ。何だよ、言いたいことあるなら言えよ、と思っていた矢先、ついに俺は先生に呼び出された。別に悪いことはしていないが、多分怒られるんだろうなと思いながら職員室に向かった。すると、担任は真剣な面持ちで俺に言った。
「最近、なんかあった?」
「…はい?」
「なんか最近変わったこととか、ない?」
「…別に、…なんすか、俺悪いことしてませんよ」
「いやいや、そうじゃなくて」
先程までの表情とは打って変わって、担任は歯を見せて笑った。
「りうらくん最近すごい勉強頑張ってるから、本当に凄いなって思って!」
「……」
「学校でも勉強してるのよく見るし、この前のテストだって凄い点数上がってたよね!」
「……」
「やっぱりやればできるんじゃん、りうらくん」
全く嬉しくなかった。
だって、先生じゃないと、意味がないから。
「だから、なんか変わったことあったのかなって思ったの」
「……変わったことが無いわけではないですけど、」
「うん」
「俺は別に、あんたらの為に勉強してる訳じゃないんで」
「…え?」
「成績を上げたい訳でもないし、大学行きたいからしてる訳でもない。俺が真面目になってあんたらがわいわい喜んだところで、俺は微塵も嬉しくない。」
「……え、」
「頼むから、これ以上俺に構わないでください。 」
そう言って、俺は職員室を出た。
先生以外に褒められて、俺は嬉しいどころか、むしろ鬱陶しいとさえ思ってしまった。そんなもの、余計なお世話だ。俺の勝手にさせてくれ。俺は、先生以外の気を引くつもりなどないのに。俺と先生の間に入ってくる人、もの、何もかも、必要ない。
俺は、先生じゃなきゃ駄目なのだ。
先生以外には、興味がないのだ。
「…くそ、」
強く拳を握りしめた。
あれから一週間が経ち、先生が来てくれる日になった。先週会えなかった分、俺はいつもより会いたい気持ちが溜まりに溜まって爆発しそうだった。学校から帰ってからも、勉強はする気になれなくて、ただただ先生に会いたくてそわそわしていた。玄関とリビングを行ったり来たりしていると、チャイムが鳴った。いつもより早めに、ドアを開ける。
「…はい」
「お、りうらくん、久しぶり」
「…」
何だよ、この人。もっと、うれしそうにしろよ。俺はこんなに、会いたかったのに。
「…この前…」
「ん?あ、ほんまごめんな、連絡先交換してなかったの忘れとった」
「………じゃあ、交換していいの」
「え、うん、そりゃ」
「なら早く、しよ」
「今?わかった」
ここが玄関だろうと関係なく、俺はすぐにでも先生と連絡先を交換したかった。母さんでさえ持ってる先生の連絡先を、俺が持ってないなんて悔しくて堪らなかったからだ。
「よし、できた」
「…ありがとう」
友だちに、『猫宮いふ』が追加された。俺は思わず口角が上がりそうになった。
「先生って下の名前いふっていうの」
「うん、知らんかったん?」
「…」
「俺最初の頃言ったけどな」
「そうだったっけ」
そんな会話をしながら階段を上がり、いつものように俺の部屋に入る。たった1週間会わなかっただけなのに、何故か先生が部屋にいるのが懐かしく感じた。
「よーしじゃあやるかー」
「…せんせい、その前に、この前のテスト…」
「ん?あぁ、どうだったん?」
「…これ」
少し躊躇しながら、でもちゃんと見てほしいから堂々と、テスト用紙を机に広げた。
すると、先生が何も言わなくなった。
「…どう?」
「……これ、ほんまにりうらくんのテスト?」
「え…うん」
「…えぇ、」
やっぱり駄目だったか、と泣きそうになっていると、急に頭を強く撫でられる。
「よく頑張ったなぁ〜〜!!!」
「…へ」
「前より30点くらい上がってるやん!!すごすぎるでこんなん!!」
「でも…たった30点」
「たったやない、30点も上がってんのに自信なくしちゃあかんで!」
「…」
「たった1ヶ月でこんなに伸びたんやから、あとはもうこのまま突き進むだけやな」
先生の人一倍明るい笑顔が、いつもなら何よりも嬉しいのに、今はすこしだけ、くるしかった。
『他の生徒さんの都合で』
数日前の母さんの言葉が再び蘇る。
褒められたくてテストを見せたはずなのに、
余計辛くなるだけだった。
俺は、先生だけなのに、
先生は、俺だけじゃない。
なんて残酷で、愚かなのだろう。
「先生、先生は、他に教えてるひとがいるんでしょ」
「…?教えてる人…まぁ、おるよ」
「どんな子なの」
「え、どんなってなんやねん笑」
「女子?」
「まぁ…女子もおるけど」
「……そういう人にも、こうやって、褒めてるんでしょ」
「………?」
先生は心底何を言っているか分からないという顔をした。そりゃあそうだ。先生は、俺が嫉妬しているだなんて気づいていないのだから。
「先生、俺はね、先生のために、今までずっと勉強してきたんだよ。」
「…俺の?」
「そう、だからテスト勉強も頑張れたし、こうやって点数も上げられた。」
「……」
「でも、先生は、他の生徒もいるから、俺だけにこうやって…褒めてくれる訳じゃないって思ったら、すごく、かなしかった。」
「……」
「俺は先生に褒められたいから頑張れたのに。俺が、一番だと思ってたのに。」
先生は、俺のものなのに。
「うわっ、まっ、りうらくん?」
気づけば、俺は先生の両腕を掴んで床に押し倒していた。
「むかつく、俺がどんだけ先生のことを思ってるか知らない癖に。 」
「まって、ちょっ…と、」
先生の首筋に顔をうずめる。耳元に息を吹きかけると、先生の身体が跳ねる。
「こうやって、変な人に襲われたらどうすればいいの?教えてよ、先生なら」
「っ…なに、いって」
先生のメガネを外して、頬にキスをする。する度に、顔が段々と赤くなっていくのを見て、俺はいてもたってもいられなくなった。
「ははっ、こんなに無防備でどうするの、先生。」
「や、やだ、りうら、くん」
「その顔でやだって言われても、説得力ないよ。」
綺麗に身につけられたワイシャツを乱して、ひんやりとした色白い素肌に触れる。
先生から小さな声が漏れる。
「っ、ん」
「…こんなにチョロくて、いつか知らない人に犯されるよ 」
「や、めっ…」
「ね、先生…」
「…ーーっ、やめろっ!!!!!」
べちん、と、乾いた音が部屋に響き渡る。と同時に、ビンタされたことに気づいた。
「…あ、ご、めん…」
「………」
やってしまった。
俺は今、何をしたんだ。
先生を無理やり押さえつけて。
もしビンタされていなかったら、どうするつもりだったんだ。
先生を、傷つけた。
先生に、嫌われた。
「……ちょっと、頭冷やした方がええな」
「……」
「今日はやめとくか、またな」
そう言って、俺が外したメガネをかけて部屋を出ていった。
扉が閉まるまでが、いつもより長い気がした。
そこから俺は、勉強をしなかった。する気になれなかったのだ。ああいう事をしてしまったからには、先生からそれなりの言葉を貰う覚悟はできている。でも、やっぱり、嫌われたくないのだ。悪いのは自分なのに、こんな我儘な自分が嫌になる。あの日から数日、ずっと先生の連絡先にメッセージを送るか迷っている。「すみません」と送るべきなのか、直接言うべきなのか。そりゃ直接言った方がいいだろうが、恐らく先生は暫く俺の家には来ない。あんなことされて、俺だったらそいつの顔も見たくない。だから尚更、謝るのが先になってしまう。どうしよう、と悩んでいる内に、あの日から一週間が経っていた。本当だったら嬉しかったはずの日が、今日は一番憂鬱だった。
「……せんせい、」
学校から帰ってきて直ぐに自分の部屋へ行き、ベットに寝転んだ。ああ、あんなことしなければ良かった。後悔するくらいなら、初めからやらなければいいと、そんなこと分かっていたはずなのに。
好きだと、ただ伝えれば良かっただけなのに。
目尻に涙が溜まる。加害者の癖に、こんな自分を情けないと、涙が止まらなかった。
そして今はただ、先生に謝りたかった。
眠気が襲ってきて静かに目を閉じると、突然家のチャイムが鳴る。
思わず飛び起きて、直ぐに玄関に向かう。インターホンのモニターを確認せずにドアを開けたものだから、俺は訪ねてきた人の正体に驚く他なかった。
「こんばんは、りうらくん」
「…」
なんで。
「………なんで来たの」
「えっ、今日家庭教師の日やろ!?違った?」
この人はなんで、こうも普通に来れるんだ。確かに、今日は家庭教師の日だけど。別に来たことが間違いな訳ではないけど。あんなことされて、何で何事もなかったかのように振る舞えるんだ。いっそのこと突き放してくれた方が楽なのに。
「はぁ………」
「なに、どした」
「この前のあれ、覚えてないの…?」
「…この前のって、そりゃ覚えてるけど」
「じゃあなんで普通に来れんの!?もう一回されるかもとか考えない訳!?」
「いや〜一週間もあったし流石に頭も冷えてるかなって」
「…はぁ…?」
この人はバカなのか。下手したら俺よりバカかもしれない。
「…もういいや、中入って」
「はーい、ありがとう」
まさか、こんな展開は考えていなかった。ずっと彼のことで悩んでいたとはいえ、今日いきなり会うと頭が真っ白になってしまう。動揺しながら部屋に入ると、先生はいつもの椅子に座った。
「本当に授業する気なの…?」
「え?そりゃ、する…けど」
「…」
先生の隣の椅子に座り、青い目を見つめる。
「気持ち悪いと思わないの?」
「ん?何が」
「俺が」
「なんで、何も思わんけど」
「……俺のこと嫌いじゃないの?」
「はー?嫌いになる訳ないやろ、こんなかわいい生徒を」
「……」
先生の瞳は、最初の頃、
『俺はりうらくんを信じとるからな』
そう言った時と同じ眼差しだった。そして、同じ笑顔だった。
俺は椅子から降りて、床に正座をした。
「先生、この前は本当にすみませんでした」
そう言って、床に頭をつけて土下座をした。俺はどうしても、先生の顔を見ることができなかった。
「自分の感情のコントロール出来なくて、欲望のまま動いてしまって、先生を傷つけた。先生が俺のこと気持ち悪いとか思わなくても、俺は自分が気持ち悪いと思う。先生は優しいから、気を使ってくれたのもわかってるし。」
そして、大きく息を吸って、ずっと言いたかった言葉を口に出す。
「先生、俺の家庭教師辞めてほしいです。」
そこでようやく先生の顔を見上げると、いつもは穏やかな瞳が丸く見開かれていた。
「きっと、その方が、お互いにとっていい。俺はこれ以上、先生を傷つけたくないから。上からになってしまうけど、お願いだから、やめてほしい、です。」
ようやく、言えた。これでもう、俺の恋は終わりだ。やっと、ちゃんと諦められる。
そう思っていたのに、返ってきた答えは以外なものだった。
「嫌や!やめへん!」
先生が子供のように、駄々をこねる。俺は思わず、へ、と間抜けな声が出てしまった。
「…な、なんで、」
「だって、りうらくんが勉強するようになったのは俺のおかげなんやろ?もし俺が家庭教師辞めたら、またりうらくん勉強嫌いになっちゃうやん!」
「…え」
「やから辞めへん!りうらくんの先生は、俺だけやもん!」
かつて、偉人は言った。
『自分に打ち勝つことが、最も偉大な勝利である。』と。
だが、俺の場合は、
『最も偉大な勝利には、自分が打ち負けてしまう。』
要するに、我慢が出来ない。
俺は先生の言葉を聞いて、自分の理性と闘ったが、打ち負けてしまった。そのせいで、無意識に先生を抱き締めていた。
「うおっ、どした?」
「…すき、好きです、先生」
「…ぇ、あ、っ…」
「いちばん、だいすき、」
また、先生を困らせている。さっき謝ったばかりなのに。でもそれ以上に、先生に気持ちを伝えられたことが嬉しかった。
「先生に教えられてる時が、俺の人生で一番楽しくて、幸せなんです。ほんとは、やめて欲しくなかった。でも、先生からそんなこと言われたら、俺、期待しちゃう、」
「き、期待って…?」
「俺の先生は、先生だけなんでしょ?つまり、俺は先生のものってこと?」
「ち、ちがうっ!そこまで言ってない…」
先生の頬を撫でながら揶揄うと、先生の耳が赤くなる。
「…先生は、俺のことが好き?」
「……すき、って…」
「俺は先生が大好きだけど、先生も俺と同じ気持ち?」
「……た、たぶん、ちが、う…」
口をもごもごさせながら、下を向いて先生が呟く。あー、本当に、可愛くてたまらない。
「ふーん、じゃあ、いつか同じになってくれるように、俺頑張るね」
「はぁ?頑張るって…」
「アピールするってこと」
「んん……意味わかんない」
きっと、本当に先生は俺に恋愛感情は抱いていない。だが、俺を特別には思ってくれている。それだけで、俺は幸せだった。他の人より、先生が俺に強い感情を向けてくれていると思うと、思わず笑みがこぼれる。勢いでキスしそうだったが、それこそ先生が家庭教師を辞めてしまうと思ったので何とか耐えることができた。
「せんせい、俺次のテスト頑張るからさ、なんかご褒美ちょうだい」
「えーご褒美か…じゃあ、学年10位以内だったら、りうらくんの言うこと一つ聞いてあげる」
「えっ、まじで!?」
「常識の範囲内でね!」
「キスとかは?」
「だめっ!!」
「ははっ、」
好きだ。
あまりに愛おしいこの人が、他の人の目に入って欲しくないと、自分勝手な独占欲が湧いた。
それから数週間、俺は過去一番勉強をした。学校で勉強をし、家に帰ってきて勉強をし、朝勉強をし、まるで受験生の気分だった。特に英語だ。英語だけは、どうしても高得点をとりたかった。理由は、もう言わなくても分かるだろう。
そして、結果が返ってきた時。俺は自分の目を疑った。英語の点数が、有り得ないほど高かったのだ。今までも頑張ってはいたけども、それまでの比にならないくらいだった。それに伴って、順位ももちろん上がるわけで。
「先生、俺の言うこと一つ聞いてくれるんだよね」
「……りうらくん、凄すぎるやろ……学年3位って……」
「でしょ、本気出せば俺だってできるんだから」
「これは」