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夜も遅くなったころ、アドルフさんが私のお屋敷を訪れた。
夕食はお互い済ませていたため、食堂でお茶を飲みながら話すことにした。
「――いや、夜分にすまないな。
行くところがたくさんあったのと、引っ越しの準備も忙しくて」
「クレントスにいる日数も少ないですからね……。
もしかして、今日はまだやることがあるんですか?」
「ああ、まとめるものがいくつかあって。
明日の朝一番には冒険者ギルドに提出するものがあるし……」
「うわぁ、思った以上に大変そう……。
――っていうか、明らかに職人組合の話だけじゃなくなってますよね!?」
「あ、バレた?」
「バレますって!!」
そもそもアドルフさんにお願いしたのは、私のお店のまわりに集まる職人たちの、あまり大きくない組合の話だけだった。
それがいつの間にか、冒険者ギルドまで巻き込んでしまう大きな話に――
「ポエールさんと話をしていたらさ、あの人は凄まじいほどのやる気を見せていたんだよ。
それに|中《あ》てられたっていうのかな……。まぁまぁ、街ができたら俺も鍛冶に戻るからさ。今のうちはちょっと、いろいろとやらせてくれないかな!」
「……いまさら止めても消化不良でしょうし……。
分かりました。でも、無理はしないでくださいね?」
「そうこなくっちゃ! さすがアイナさんだぜ!」
「もう、何とでも言ってください。
4日後にはクレントスを離れますけど、間に合いそうですか?」
「仕事の方は何とか……。心配なのは引っ越しの方なんだが、基本的にはミラエルツから引っ越してきたときのままだからな。
少し散らばった荷物と、あとは作ったものが少しあるのと……」
「荷物なら、私がアイテムボックスに入れていきますよ。
建築資材とかもまた運ぶ予定ですし、アドルフさんの荷物も全部お任せください」
「それはありがたいな! それじゃ、出発の前の日にでも手伝ってくれるか?
……となれば、それまでは仕事に集中できそうだ。よーしよし……」
「少しは寝てくださいよ!?」
「あはは、分かってるって。
ところでルイサさんの方はどうだった? 俺もできる限りのことはしたんだが」
「その件はですね……。条件付きで、っていう話にするのがやっとでした」
「条件? 条件って何だ?」
私はアドルフさんに、アイーシャさんとルイサさんにしてきた話を伝えた。
その流れで人魚のことや、『螺旋の迷宮』の話もすることにした。
アドルフさんは私に近い仲間の一人なのだから、ここら辺もしっかり話をしておかないと。
「――というわけでですね、ちょっと難易度の高い条件が付いてしまったんです」
「ちょっと、って……。
そんな伝説級の条件が、『ちょっと』かぁ……」
「確かにそうなんですけど、でも人魚さんに会うところまでは終わっていますから。
……あ、ポエールさんにはまだ言わないでくださいね? それを計算に入れて他のことを進められても、ちょっと困っちゃうので」
「かなりインパクトのある話だからなぁ……。
了解したが、目途が立ったらポエールさんにも早めに伝えた方が良いと思うぞ」
「分かりました。
私のお店とお屋敷ができるころに、もう一度人魚さんのところに行ってみる予定なんです。
そこでの結果を踏まえて、どうするか決めることにしますね」
「おう! しかしいろいろなことが起きるよなぁ。
まったく、アイナさんの街も面白くなりそうだ――
……って、そういえば街の名前は決まったのか?」
「いえ、まだ全然。
『アドルフランド』にしちゃいますか」
「俺は関係ないだろ!?
……いや、関係なくは無いけど、名前にするほどじゃ無いだろ!?」
「ふふっ、言ってみただけですよ。
私だってエミリアさんに、『アイナランド』を提案されたんですから」
「アイナさんは一番偉くなるんだから、それはまだ分かるだろう……。
その名前も微妙なネーミングだが……」
「アドルフさんの名前は、通りの名前にしたいですね。
初代・職人組合の功労者――とか言っちゃって」
「おお、それなら丁度良さそうだ!
俺もそれに恥じないように頑張らないとな!」
「いやいや、これ以上はあんまり頑張らないでくださいよ!?
……と、そろそろ雑談はおしまいにしますか。アドルフさんは仕事の話をしに来たんですよね」
「そういえばそうだった!
一応これからやろうとしていることを伝えるのと、あとはそれに関する意見を聞かせて欲しくてな!」
そう言うと、アドルフさんは鞄の中から紙の束を取り出した。
それぞれ、何かしらがびっしりと書かれているようだ。
「……え?
これ、全部ですか?」
「いや、5分の4くらいかな?」
「ほとんどじゃないですか!?」
……私は判断をするだけだから、こんな資料を作るよりもよっぽど楽ではあるんだけど。
「全部見ていくと時間が掛かるからな。
ざーっと飛ばしながら行くか!」
「お手柔らかに……」
夜は遅いが、アドルフさんはまだまだ元気そうだ。
私も疲れてはいるけど、今日くらいは何とか頑張って付き合うことにしよう。
……でもやっぱり疲れが取れないし、明日は休日にしちゃおうかな?
うん、それが良い。そうしよう――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
話し始めてしまえば、自然と熱が入ってしまうもので。
結局その夜は、深夜の3時まで話し込んでしまった。
……そして朝はいつもの時間には起きられず、昼まで寝かせて頂くことにした。
ちなみにアドルフさんにもベッドを用意して休んでもらったのだが、私が起きたころにはすでに出ていってしまっていた。
何でも朝の7時には出て行ってしまったらしい。……本当に休めているのかなぁ。
昼食時、少し早めに食堂に座っていると、エミリアさんが明るく登場した。
「アイナさん! ゆっくりお休みになられましたか?」
「はい、おかげ様で。
寝ようと思えばいくらでも寝れる感じなんですけどね」
「あはは、最近は忙しかったですもんね。
クレントスにいるときくらい、のんびりしても良いと思いますよ!」
「そうですね、ゆっくりベッドで休むことにしましょう。
ところでリリーがいないんですけど、エミリアさんは知っていますか?」
「今日はルークさんと一緒ですね」
「へぇ? ちょっと珍しいかも」
そのペアはなかなか珍しい。
リリーは基本的に誰かと一緒にいることが多いけど、ある程度一緒にいる人には傾向があるのだ。
「リリーちゃんとは、グリゼルダ様が一番仲が良いですからね」
「ちなみに、そのグリゼルダは?」
「朝から買い物に行っているみたいですよ。
朝食が終わったら、いつの間にか出掛けてしまっていたようで」
「また買い物かなぁ……」
「はい、そうみたいです。
アイナさんに渡すものがあるから、それを買いに行くんだーって言ってました」
「え? 私に?
……うーん? さすがにプレゼントじゃないですよね。またお酒関係かなぁ……」
「あはは。グリゼルダ様って、何だかもうそんなイメージですよね!」
「――ただいま戻ったぞ!」
私とエミリアさんの会話が一瞬途切れたところで、グリゼルダがちょうどよく帰ってきた。
ちょうどよくも何も、昼食時だから、そっちが目的なのかもしれないけど。
「「おかえりなさい」」
「屋敷の庭に、リリーとルークがおったぞ。
声を掛けてきたから、じきに来るじゃろう」
「わざわざすいません。
でもルークが時間に遅れるなんて、何だか珍しいですね」
「何か知らんが、庭の虫を箸で掴もうとしておったのう……」
「……それ、何がしたいんですかね?」
「多分、リリーちゃんにせがまれたんじゃないですか?
ほら、以前の修行の話でもしちゃったとか」
「ほう、そんな修行もあるんじゃなぁ……。
しかしルークのやつも、早朝やら朝食後やら、暇さえあれば何かやっておるのう」
「努力型の人ですからね。私もちょっとご無沙汰だけど、少し走って体力を付けないと。
……ところでグリゼルダは買い物に行っていたんですよね? 何を買ってきたんですか?」
「おお、それそれ!
以前、妾のとっておきレシピをまた教えると言ったであろう?
それの材料を買ってきたんじゃよ!」
「おー! それって一体、何のレシピなんですか?」
「甘味の一種で、なかなか美味いもんじゃぞ!
アイナが作るなら格別な味になるんじゃろうなぁ……。よし、今日のおやつには、全員で食すとしよう!」
「はーい!」
グリゼルダの言葉に、元気よく反応したのはエミリアさんだった。
私も甘いものは好きだから、楽しみにしておこう。……まぁ、作るのは私なんだけど。