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祖父は夜になると何かの強迫観念にとり憑かれ、庭にあった鶏小屋を燃やしてしまった
この放火騒ぎは消防車が出動したりして、西日本で一番裕福な街、芦屋の超高級住宅街「六麓荘町ろくろくそうちょう」を震撼させた
そしてITOMOTOジュエリーの創設者伊藤政宗の乱心放火事件は、マスコミによって大々的に報道された
アリスも母も突然別人のようになってしまう認知症が進んだ祖父と、一緒に暮らすのに疲れ果て祖父を施設に入れた
施設に入居しても祖父は夜になると施設中を徘徊し、どこかに火をつけようとするのでベッドに手足をくくられて
部屋から出られないようにされて24時間体制で監視が付いている
アリスは首を振った
今は可哀想なお祖父様を思って悲観にくれている場合じゃない、アリスは手のひらの手紙を見つめた
そうよ・・・・この手紙の内容はあまりに現実離れしている。きっと偽りであり作り話なのだ
そう思おうとしたものの・・・・
以前から鬼龍院が自分を見る目に、どことなく抜け目なさを感じる時があることをアリスは思い出した
幼いころから祖父に連れられて、様々な宝石取引きや地金の即売所に足を運んでいた
その時の抜け目ない祖父の対人関係の処理法を、常に背中で見ていたアリスは
ちょっとした仕草などで、詐欺師を見抜ける目が備わっていた
ならば鬼龍院の自分の抱く印象の直感に従うと、この手紙をまったく無視してもいいのだろうか
鬼龍院は母の趣味の日本画の観賞会に参加した時に出会い、その日の内に仲良くなり、母と彼の車で送ってもらった
それから母の知り合いの芸術家の集いや展覧会へもよく付き添ってくれた
鬼龍院は芸術を愛する気持ちを持つ好青年で、忙しい仕事の息抜きに芸術を堪能すると言っていた
そしてアリスに二人はとても趣味が合い、結婚してからもお互いの趣味を楽しみたいと言った
夫婦の趣味が合うことは結婚生活にも良い影響を与えるはずだ
鬼龍院はアリスにも決して常に礼儀は欠かさず気遣いの男性だった、時々つまらないおしゃべりを気にしなければ、良い結婚相手だ
ああ・・・
せめてお祖父様が正気だったなら・・・自分は鬼龍院と結婚して幸せになれるか見定めてくださるのに・・・
成宮北斗の手紙には何て書いてあった?彼は梅毒という性感染症を罹っているって?
もし真実だったら?私はこれからどうなるの?
絞められすぎている帯がきつく呼吸が思うようにできなくて苦しい
目の前に黒い黒い点がチカチカしている・・・
これは本当にいよいよ危ないのかもしれない、アリスはつかまれる所を探して無意識に手を伸ばした
グラリと倒れそうになった所を、がっしりと両肘を誰かにつかまれた
「 気を付けて 」
耳もとに少し訛りのある・・・低く・・・バリトン調の声がした
冷や汗をかきながらアリスが支えてくれている人物の顔を見ようと上をむくと・・・・
心配そうにこちらを伺っている成宮北斗の顔があった
なぜかホッとしたアリスが全体重を彼に預けた。彼ならアリスを支えて倒れることはないだろう
彼はこう言った
「俺の席で休んだほうがいい 」