『お父さん。お母さんの陣痛が始まりました。これから、病院へ行きます』
美幸からもらったメッセージで、慶太は直ぐに東京行きの新幹線に飛び乗った。
出産が予定日からズレるのは良くある事だと知ってはいたが、まさか1週間も早くなるとは……。
いざ事が起こると慌てしまうのは、仕方ないだろう。
それでも平静を装い、美幸へ返信メッセージを送る。
『今、新幹線に乗りました。お母さんの具合はどうですか?』
直ぐに美幸から返事が入った。
『今、病院です。まだ時間が掛かりそうだって、お医者さんが言っていました。お父さんが来るまで、赤ちゃんが出てくるの待っているのかも!?』
慶太は、思わずクスリと笑う。
「 待っててくれているのかな?」
出来れば出産に立ち会いたいが、この切羽詰まった状況になって願うのは、母子ともに無事でいてくれる事、ただそれだけだった。
昔に比べて、出産で命を落とす人は、少なくなったとはいえ、ゼロでは無い。
出産中に脳出血を起こしたり、胎盤剥離になったりと、予期せぬトラブルに見舞われる事もある。
それが母子の命を脅かす事態になりかねない。
出産は今もなお、命掛けの大仕事だ。
信頼のおける医師やスタッフが付いている。だから、大丈夫だとわかっているが、出来れば、そばに居て手を握り励ましたいと思った。
慶太はスマホの画面に視線を落とす。
スマホの待ち受け画面は、お腹の大きな沙羅と制服姿の美幸が笑顔を向けている写真だ。
「沙羅……」
東京駅からタクシーに乗り継ぎ、慶太は東山病院にたどり着く。
さっそく、受付カウンターで、名前を告げると面会用の受付カードを渡される。
以前、沙羅がこの病院入院した際、受付カードをもらえずにロビーで唖然として居た事を思い出した。
いざという時に、大切な人の一番近くにいるために、家族になる事の大切さを思い知った出来事だった。
7階の708号室のドアをノックした。
「はぁい、どうぞ」と美幸の声がする。
10畳程の個室、部屋の中央にはベッドが置かれ、部屋の角には、洗面化粧台とトイレ、シャワー室が付いている。
お目当ての沙羅と美幸は 、窓際にある小さなソファーセットで向かい合わせに座っていた。
沙羅の元気そうな様子に慶太はホッと息を吐く。
「遅くなって、ごめん。具合はどう?」
「いまは、落ち着いているの。陣痛の間隔が8分から縮まらなくて、思っていたより長丁場になりそう。これなら、もう少し家でのんびりしていればよかったわ」
病院の説明では、陣痛の間隔が10分を切ったら連絡をくださいと言われていた。そして、連絡をすると診察に来てくださいと指示があり、そのまま入院になったそうだ。
「東京駅でお弁当を買って来たんだけど、食べれる?」
慶太は、紙袋を持ち上げた。
「ふふっ、さっきから気になっていたの。何が入っているのかな?」
テーブルの上には、仙台牛の和風キンパやフルーツが入った4色サンドイッチ、天むすセットなど、色とりどりのお弁当が並ぶ。
どれも、ちょっと手軽につまめる物ばかり、沙羅が食べやすいように配慮したメニューだ。
「わあ、美味しそう。お母さんどれがいい?」
「うーん、食べたいけど、また痛くなってきた。美幸は先に食べていいわよ。あ、いたたた」
といって、沙羅は顔を歪めている。
こんな時、男は無力だなと慶太はつくづく思う。
「沙羅、大丈夫か? 腰、擦ろうか?」
「うん、……いたた」
沙羅は、ふうふうと、痛みを逃すように肩で大きく息をしている。
お産の進行期の呼吸は、短く吸って長く出すのが良いらしいが、実際に痛みが始まると呼吸法を意識する余裕など、まったくないのだ。
とにかく頭の中は、「痛い」という言葉で埋め尽くされていく。
「沙羅、額の汗を拭くよ」
本当は、慶太に”ありがとう”と言いたいのに、痛みのせいで歯を食いしばり、しゃべる事もままならず、コクコクとうなずくことしか出来ない。
骨盤が内側からミシミシと押し広げられて行く感じと、生理痛の100倍ぐらいのキツイお腹の張りと痛みの波が、同時にやって来るのだから、たまったもんじゃない。
世の中のお母さんが、みんなこの痛みに耐えたのかと思うと、リスペクトしてしまう。
「お母さん、陣痛の間隔が5分になっているよ。ゆっくり息を吐き出した方がリラックスして痛みが和らぐって書いているよ」
美幸は冷静にスマホで、「出産陣痛」を調べた知識を披露する。
思春期の美幸にとって、この体験がこの先の人生にプラスに働けばいいなっと、痛みの中で沙羅は思った。
その沙羅の腰を擦り続けている慶太は、心配が拭えない。
「あと、少しだな。沙羅、痛みはどう?」
「うん……ちょっと、治まったかも。慶太が買って来てくれたサンドイッチ食べてもいい?」
慶太はホッと安堵の表情を浮かべた。
「もちろん、飲み物は何がいい?」
あと少し、この痛みを乗り切れば、赤ちゃんを抱く事が出来る。
イチゴのサンドイッチは、イチゴの爽やかな甘さとホイップクリームのマッタリとした風味がマッチして、陣痛の痛みで疲労困憊の沙羅の身体に優しく染みる。
「美味しい」
「ん、良かった」
サンドイッチを半分食べたとこで、沙羅は胃のムカつきを感じた。
「ごめんなさい。ちょっとこれ以上食べれそうもないかも……。ごちそう様でした」
「無理しないで、食べれる時に食べればいいよ」
「うん……後で食べるね」
沙羅はそう言ったものの、胃のムカつきがきつくなってきている。
美幸を出産する時には、こんな症状は出なかった。
お産は毎回違うと聞いた事があるけれど、大丈夫なのだろうかと、不安が頭をもたげる。
「いまのうちにトイレに行っておくね」
と、沙羅が立ち上がると慶太も美幸も一斉に立ち上がる。
こんなにも心配してくれる人が傍に居ると思うと、沙羅は心強かった。
「お母さん、わたし支えてあげる」
部屋に付いているトイレに入るだけなのに、大げさだなと苦笑いを浮かべながら、美幸の好意に甘える事にした。
「ありがとう。美幸」
「うん、まかして!」
吐くかもと思ってトイレに来たのだが、胃のムカつきは治まった。けれど、下半身に違和感を感じる。
トイレットペーパーで拭くと、経血のかたまりよりも大きな物が出てきたのだ。
おかしい……。
おしるしは、すでにあって、薄い朱色だった。
こんなレバーみたいなの普通じゃない。
沙羅は、トイレに設置されているナースコールを押した。直ぐに応答があり来てくれるとの事。
そして、ドアを少し開け、部屋で心配しているふたりに声を掛けた。
「慶太、美幸、いまから看護師さんが来るけど、大丈夫だから」
程なくして、バタバタと看護師が部屋へ入って来た。
「高良さん、どうされました?」
部屋に居る慶太は、沙羅の様子がわからないまま説明する。
「食事を軽く取った後、トイレで具合が悪くなったようなんです」
「高良さん、ごめんなさいね、入りますよ」
コンコンと短いノックの後、看護師がトイレに入って来た。
沙羅は、説明をするために現物を見せた。
「すみません。いま、これが……」
それを見た瞬間、看護師の顔色がサッと変わり、ナースコールを押して通話状態する。
ナースセンターへ今の沙羅の状態を説明し終わると、沙羅へ顔を向けた。
「ちょっと、脈拍測りますね。この後ストレッチャーが来るからそれに乗って、直ぐに分娩室に入りましょうね。状況によっては帝王切開になるかもしれません」
「……はい」
順調にお産が進んでいたと思っていたのに、ただならぬ雰囲気に沙羅の不安は大きくなっていく。
部屋の中は、さっきまでのリラックスムードから緊迫した雰囲気に変わっていた。
数人の看護師さんによってストレッチャーが部屋に運び込まれ、沙羅はその上に横たわる。
すると心配そうに覗き込む慶太と美幸の顔が見えた。突然の出来事にふたりとも不安気だ。
「慶太、私、がんばるから……」
「ん、待ってるよ」
「お母さん、わたし神様にお願いしておくから、大丈夫だよ」
「うん、いっぱいお願いしておいてね。いってきます」
看護師さんの「動きます」という声がガラガラとストレッチャーが動き出す。
沙羅を見送ったふたりは、不安のまま取り残された。
「お父さん、お母さんと赤ちゃん大丈夫だよね」
「ああ、お母さんは、きっと元気な赤ちゃんと一緒に戻って来てくれるよ。分娩室の前に行こうか」
「うん」
◇ ◇
分娩室中では、慌ただしく人が行き来している。
お腹の上に付けた心拍計が、ドクドクと赤ちゃんの心音を伝えている。
「点滴入りました」
「血圧105/68」
「子宮口全開大です」
「胎児の心拍52です」
「低いです。帝王切開になりますか」
「準備して」
看護師さんや助産師さん、そして医師が分娩室に入るなり、現在の状況を確認し始めた。
美幸の出産で体験した時とまったく違う状況に沙羅は戸惑うばかりだ。
キツイ痛みの間隔が短くなり、肩でハァハァと息をしていた。
すると、助産師さんの指示が飛ぶ。
「高良さん、ゆっくり息してくださいね。ヒッヒッフー、ヒッヒッフーです」
沙羅は、助産師さんに習って、何度も深い呼吸をくり返した。
「胎児の心拍63になりました」
「このまま続けよう」
「はい」
「上手、上手、持ち直してきましたね。ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、そうそう、後一息ですよ」
ここまでくると、股の間に大きな物が挟まっている感覚がしてきて、いきみたい衝動に駆られる。
「はい、いきんでいいですよ。目は閉じないで、顎引いて、息吸って、はい、いきんで!」
「うー、ぅう」
沙羅は、無我夢中で唸り声をあげた。
「頭が見えてきましたよ。息吸って、ハイもう一度、いきんで!」
痛い、苦しい。でも、無事に産まれて来て!
「うー、うう」
ズルッと言う感覚が股の間を通り抜けていく。産まれたのだ。
でも泣き声が聞こえて来ない。
お願い、泣いて! 声を聞かせて!
◇ ◇
「|常位胎盤早期剥離《じょういたいばんそうきはくり》ですか?」
聞き慣れない病名、慶太は眉間に皺を寄せた。
看護師の説明によれば、|常位胎盤早期剥離《じょういたいばんそうきはくり》とは、妊娠中、胎児がお腹の中にいるのに胎盤が子宮壁から部分的または完全に剥がれてしまう状態で、胎盤が剥がれると子宮の壁から出血し、胎盤後血腫という血のかたまりが形成される。母子の命に関る重大な病気だ。
沙羅がトイレで見たのは、子宮に溜まった血のかたまりが出て来た物で、今は出血が多く危険な状態。おそらく、帝王切開になるだろうと言う説明だった。
その説明を聞いて、慶太は背中に悪寒が走り、ゾワッと粟肌が立つ。
万が一でも沙羅を失うような事は、遭ってはならないし、考えたくも無かった。
「妻と子供を助けてやってください。どうかお願い致します」
病院の医療チームにお願いする事しか出来ない自分を、慶太は歯がゆく思った。
ただ待つ事しか出来ない時間が続く。
慶太は左腕に巻かれたクロノグラフに視線を落とした。
時計を何度見ても時間は遅々として進まない。1分が10分いや1時間のように感じる。
すると、直ぐ横から声が聞こえて来る。
「神様、お母さんと赤ちゃんを助けてください」
必死に祈る美幸に、慶太も同じ気持ちだ。
信仰心の無い慶太は信じる神様を持ち合わせては居なかった。だが、この時だけは、ありとあらゆる神に祈らずには居られない。
どうか、沙羅とお腹の子、ふたりを無事に返してください。
慶太と美幸の祈りが届いたのか、分娩室から「ほぎゃあ、ほぎゃあ」と小さな声が、聞こえてくる。
「お父さん、赤ちゃんが泣いたよ。産まれたんだよね。そうだよね」
美幸の問いかけにうなずく慶太だったが、分娩室のドアを見つめ続けていた。
◇ ◇
「ほぎゃあ、ほぎゃあ」
それは、産み出された命の始まりの声。
泣く事によって、胎児の時にはつぶれていた肺が広がり、空気が送り込まれる。心臓から肺へと血液が流れ、肺で酸素を含み、やがて全身に回る。
命が輝く瞬間だ。
沙羅は、小さな命の始まりの声を感謝で受け止めた。
「……ありがとうございます。私の赤ちゃん大丈夫ですよね」
「高良さん、おめでとうございます。2420グラムの可愛らしい男の子ですよ。よくがんばりましたね。|常位胎盤早期剥離《じょういたいばんそうきはくり》と言って、赤ちゃんが居るのに胎盤が剥がれてしまって、少し危険な状態だったんですが、高良さんが落ち着いていて行動してくれたので、無事に産まれましたよ」
助産師さんは、へその緒の処理を終え、綺麗に沐浴させた赤ちゃんを沙羅の胸の上に乗せてくれた。
産まれたての小さな命は、手をギュッと握り、探索反射や捕捉反射でおっぱいを探すような仕草をしている。
体温を感じ、その温かさにホッとして涙がこぼれた。
「お互いがんばりました。産まれて来てくれてありがとう。これからよろしくね」
◇ ◇
「高良さん、赤ちゃん無事に産まれましたよ。2420グラムの可愛らしい男の子です。おめでとうございます」
看護師さんの声に慶太と美幸は反射的に立ちあがった。
美幸は、嬉しそうに顔をほころばせ、キョロキョロと落ち着ない様子で、新生児室のガラス窓を見ていた。
慶太は、看護師へと向き直る。
「ありがとうございます。妻は無事でしょうか?」
「奥様も、ご無事ですよ。普通分娩で頑張ってくださいました。赤ちゃんは少し小さかったので、いまは保育器に入っています。あの右端の子ですよ」
看護師の指し示す方へ自然と顔が向いてしまった。
分娩室の横にある新生児室、ガラス窓向こうに3つ並んだ保育器が見える。すると、右端にある透明の箱の中で、小さな手を動かしていた。
沙羅と産まれてきた子供の無事を知って、慶太はやっと肩の力が抜ける。
「ありがとうございます。スタッフの皆様のおかげです」
「いえ、お母さんと赤ちゃんが頑張ったのをお手伝いをさせて頂いただけです」
そう言って、看護師は、持ち場へ戻って行った。
「わー、小さい! 動いてる〜! 私の弟くん、お姉さんですよー」
新生児室のガラス窓に美幸は、かぶりつきで、呼びかけている。
「ねえ、お父さん。赤ちゃん、すごい小さいけど、さっきまでお母さんのお腹に入っていたかと思うと不思議だよね」
「ああ、すごいな……」
新しい命は小さくて、頼りない。
これから、父親として、この子を守り育てていかなければならない。
けれど、小さない命は、この先、自分に力を与えてくれるだろう。
心の支えになってくれるだろう。
◇ ◇
出産して次の日から沙羅の病室にはベビーベッドが運び込まれ、親子同室になった。
赤ちゃんの泣き声は、まるで子猫のようだ。
「ほぎゃぁ、ほぎゃぁ」
「はい、はい、先にオムツ交換しましょうね」
沙羅は、2回目の子育てと言っても、前回からかなり間が空いている。
なにせ、美幸は現在中学2年生の14歳なのだ。
久しぶりの子育てに沙羅は、おぼつかない手つきで、オムツを交換する。
最近のオムツは、随分薄くなったなぁっと関心したり、授乳用のクッションもなかなか便利で、子育ての情報も上書きが必要だった。
オムツを外したところで、沙羅はちょっと、にやついてしまう。
「足も小っちゃいくて、可愛い。ふふっ、男の子」
無事にオムツを替え、手を洗いと消毒をして、おっぱいをあげ始めた。
この時期、母乳は濃度が高く栄養たっぷりで、赤ちゃんの免疫力を高める働きがある。
赤ちゃんは、小さな口でやっと吸いついている。まだ、上手に吸えずに、必死の様子だ。その姿に母性本能を刺激される。
「ホント、何をしていても可愛いわね」
コンコンとノックをして、美幸が顔を出した。その後に慶太も続く。
「お母さん、プリン買って来たよ。あっ、赤ちゃんがいる」
「沙羅、会いに来たよ」
「ふたりとも、ありがとう。でも、まずは、手洗いうがいをお願いします」
「はぁい」と美幸はさっそく洗面台で、手洗いうがいを始めた。
子供を抱き母乳を与えている沙羅の姿が尊く見えて、慶太は思わず見とれてしまう。
「沙羅、ありがとう。そして、おつかれさまでした」
「うん、心配かけてごめんね」
「いや、沙羅こそ大変だったね。ふたりとも無事で良かった」
お腹がいっぱいになったのか、おっぱいから口を離し、ムニャムニャとおとなしくなった。
沙羅は赤ちゃんを縦抱っこにして、背中をポンポンと擦り、ゲップをさせる。
「慶太パパも抱っこしてみる?」
「そうだな。抱かせてもらおうかな」
「わ〜、いいな。次は、わたしも抱っこする」
慶太はベッドに腰掛け、おっかなびっくりで赤ちゃん待ちの体制だ。
「上手く抱けるかな?」
広げた手の中に、沙羅がそっと赤ちゃんを受け渡す。
「大丈夫よ、頑張って新米パパさん。まだ、首が座っていないから、首の後ろを肘で支えるように、そうそう、で、右手をおしりに、うん。上手よ」
初めて抱く我が子は、小さくて、フニャフニャで、温かい。まだ、目は良く見えていないはずなのに、好奇心旺盛に瞳を動かしている。
「可愛いな」
「うん、世界で一番可愛いでしょう」
沙羅はエッヘンと胸を張る。
親バカになって良いのだ。子供に無限の愛情を注げるのは、親の特権なのだから。
「沙羅に似ている」
「あら、私は慶太に似ていると思う。赤ちゃんのわりに目鼻立ちがはっきりして、将来モテモテになるわね」
神様は器用なもので、慶太と沙羅、ふたりのいろんな部分を赤ちゃんに組み込んでいた。
「ねえ、赤ちゃんをなんて呼んであげたら良いの? 名前は? 」
美幸が、慶太に抱かれた赤ちゃんを覗き込みながら、首を傾げた。
「名前はね。慶太と相談していた名前の候補がいくつかあったでしょう」
「ああ、どの名前にしたんだ?」
「さんずいに奏でるの|湊《みなと》に、慶太から太の文字を一字もらって、『|湊太《そうた》』が、良いかなって。湊には人が集まるって意味もあるんですって、この子にはたくさんの人に囲まれて、楽しく暮らしてもらえたらと思っているの」
「うん、俺は、その名前良いと思う。湊太、パパだよ」
「湊太。そうちゃんかー。そうちゃん、お姉ちゃんだよー」
美幸の声掛けで反応したように、湊太が顔を向けた。
「いま呼んだら、わたしの事見てくれた!あっ、紀美子さんに赤ちゃん産まれたって言ったら、すごい喜んでいたよ。名前が決まったのも教えてあげようっと」
美幸は、パシャッと湊太の写真を撮って、さっそくメッセージを送る。
すると、直ぐに返信があった。
「紀美子さん、出産直後は疲れているだろうから、退院の時にお迎えに来てくれるって、おめでとう湊太君に会えるの楽しみにしてます。だって」
「萌咲も赤ちゃん見たいから、沙羅の体調が戻る頃に連絡入れるって言っていたのを伝えておくよ」
「みんなに祝福されて、幸せだわ」
ふわりと沙羅が微笑む。
慶太も湊太を抱き、目を細めながら笑う。
「ああ、幸せだな。新しい家族をみんなが祝福してくれている」
「うん」とうなずいていると横で美幸がスマホを持って張り切っている。
「4人で記念写真撮ろうよ。タイマー10秒でセットするね」
「えー、私すっぴんなのに……」
「いいじゃん!ほら、タイマー進んでる。ハナ、トゥル、セッ、はーと」
パシャッと笑顔が写真におさまった。
この幸せを笑顔をいつまでも忘れずに居よう。
私たちは信頼で結ばれた家族だ。
【終わり】
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!