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夜が明けようとしていた。
古びた部屋に、薄い朝の光が差し込む。
アルの腕の中で、アーサーは静かに目を開けた。
昨夜、すべてを許して、受け入れて、
そして抱かれたことが、夢のように遠く思えた。
アルはまだ眠っている。
無防備な寝顔を見つめながら、アーサーは静かに起き上がった。
涙はもう、出なかった。
「……ほんと、バカみてぇに愛しすぎなんだよ、お前は」
呟くように言いながら、薄暗い部屋を歩く。
カーテンを少しだけ開けると、山の向こうから朝日が昇り始めていた。
その光に照らされて、アーサーは準備していた手紙を取り出した。
前の日、ひとりになった隙に書いたものだった。
アルへ
お前は、俺を愛した。
歪んだ方法で、苦しませながら、でも全力で。
それが嘘だったなんて、一度も思ったことない。
だからこそ、俺はもう、このままじゃいられないんだ。
お前が俺を失ったとき、どうなるかなんて考えたら、怖くて仕方ない。
でもそれでも、お前がこれ以上壊れる前に、
俺が終わらせることを、どうか許してくれ。
お前の愛が、本当に俺を幸せにしてくれたこと。
最期の瞬間まで、絶対に忘れない。
俺の全部は、お前に預けていく。
書き終えた紙をそっと枕元に置き、
アーサーは棚の奥から小さな薬瓶を取り出した。
ほんの少し迷った手が、それをしっかりと握る。
「もう、いいだろ……これで」
最後にもう一度、アルの寝顔を見た。
その顔はどこまでも穏やかで、あたたかくて、
アーサーの記憶の中にある「大好きだったアル」と、まったく変わっていなかった。
「……俺がいなくなっても、お前の中で生きてるなら、それでいいや」
薬を口に含むと、苦くて少し甘い味がした。
床に背を預け、ゆっくりと倒れ込む。
鼓動が遠のき、視界がぼやけていく。
その最期の瞬間、
アーサーの唇は、ほとんど音にならない声で呟いた。
「愛してたよ、アル……
だから、俺は……ここで終わる……」
光が、彼を包むように差し込んできた。
そして――
彼は、静かに息を引き取った。
◆静寂
朝。
アルが目を覚ましたとき、隣にはもう、返事のない身体が横たわっていた。
どんな叫びも、どんな後悔も、
もう彼には届かない。
でもそこには、間違いなく“アーサーの選んだ愛の形”があった。