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あの日の私

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あの日の私

1 - 一話完結

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2022年04月28日

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深夜2時にようやく明日のプレゼン資料が完成した。

冷め切った野菜炒めは食べる気になれず、もういいやとそれを冷蔵庫にしまおうとしたとき、手が滑り皿が割れた。苛立ちを抑え込もうと深呼吸をし、落ちた皿の破片に触った時、チクリと痛みを感じる。見れば指先から血が流れていた。



こうした小さな絶望の積み重ねが、人を大人にしていくのだ。

感性を失った、大人に。

挫折、後悔を知らず、ただ無垢に笑っていた子供になりたいと思うことが大人になったことの証拠づけになってしまい、どうしようもない気持ちになる。

ずっと、写真たてから目を背けていた。

なぜなら、そこには眩しいほどの笑顔の小さな小さな私がいるから。

焼けた肌に両手でピース、目が潰れてしまうくらい笑っていて。


ああ、もうほんとに、なんて眩しいんだろう。


最後に笑ったのはいつ?もうずいぶん疲れた。趣味の本を読むこともそういえばしなくなった。山積みになった本は汚い部屋をますます見窄らしくしている。先ほど流し込んだアルコールのせいで頭が痛い。足の靴擦れが痛い。なんでこんあに辛いのか。

考えれば考えるほど鼻の奥の方がツンと痛くなってくる。



いつからこうなったのだろう。思い描いていた未来はいつから見えなくなったのだろう。

目指していた大学に落ちた時?何度も圧迫面接を受け、どうでも良くなって悪い噂もあるが採用されやすいと評価されていた今の会社に入社したとき?それとも、諦めぐせがついていたもっと前から?

ごめんね。

夢に向かって必死だった時の自分が羨ましく、また、申し訳ない。

こんな大人になってしまったよ。

ごめんね。

涙が溢れた。

もう二粒も流れれば、私は枯れるだろう。

空っぽになる前に。また笑いたい。

青空が綺麗だと思えるようになりたい。

生きたいと思えるようになりたい。



もう遅い?だめか。やり直すのには遅すぎるか。もう、全てを投げ出してしまおうか。



でも、やっぱりできない。小さな私が笑ってるから。


あの私のために、私が私でいられるように。

やり直したい。やり直そう。これは、できるかできないかの問題じゃなくて、やるかやらないかの問題。やるでしょ?今までも頑張ってきたんだもん。これも頑張れるよ。


気づけば、頼りない文字で、「退職届」と紙に記していた。

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