テラーノベル
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薄暗い防音室の中、モニターの青白い光だけがふたりの顔を照らしていた。配信が終わり、静まり返った部屋に響くのは、PCファンの低い駆動音と、かすかなキーボードの打鍵音だけだ。
「……おつかれ、さき」
だるまが、伸びをしながら低く掠れた声で呟く。隣の席に座るありさかは、マウスから手を放すと、椅子の背もたれに深く体重を預けた。画面の端には「配信終了」の文字が冷たく点滅している。
距離の縮まらない夜
「疲れたー。マジで今日のランクきつかったって」
「俺も。お前のせいでマイナス引いたわ」
「え、俺のせいにする? 絶対だるまのカバー遅かったやん」
いつものような軽口。けれど、その言葉の裏にある熱を、お互いに隠しきれなくなっているのはもう何ヶ月も前からのことだった。ゲーム仲間として出会い、四六時中一緒にいすぎて、いつしか友情の輪郭は歪み、引き返せない執着へと変わっていた。
ありさかは立ち上がり、だるまの背後にまわると、その細い肩に両手を置いた。だるまはビクリと小さく体を揺らしたが、振り払いはしない。
「……なんだよ」
「なんとなく。触りたくなった」
ありさかの指先が、だるまの髪をすくい、首筋をなぞる。だるまは息を呑み、わずかに肩をすくめた。その反応に胸が締め付けられるような、甘くて苦い痛みが走る。このまますべてを壊してしまいたいという衝動と、この関係すら失う怖さが、ありさかのなかでぐちゃぐちゃに絡まり合っていた。
だるまがゆっくりと振り返り、見上げてくる。その赤い瞳には、拒絶ではなく、どこか諦めのような濁った熱が宿っていた。
「……ずるいって、そういうとこ」
「ずるくていいよ。だるまだし」
ありさかはだるまの顎を掴み、強引に唇を塞いだ。
熱と逃げ場
最初は拒むように固まっていただるまの体から、ふっと力が抜ける。荒い息が混ざり合い、部屋の空気が急速に熱を帯びていった。
「っ……、ん……」
小さく零れた声がありさかの理性を狂わせる。だるまの細い体を引き寄せ、椅子ごと抱え込むようにして唇を貪った。ゲームの切り替え画面の音が、やけに遠くで響いている。
衣服の隙間から滑り込ませた指が、だるまの熱を帯びた皮膚をなぞるたび、だるまは小さく身を震わせ、ありさかの背中に爪を立てた。その痛みが、ふたりが確かにつながっているという唯一の証拠だった。
「……ありさか、これ以上は……」
「やだ。もっと教えて、だるまがどうしようもなくなる顔、俺だけにさせてよ」
甘い快楽に溺れながらも、ありさかの心の底には冷たい澱のような不安が沈み込んでいた。こんな風に身体を重ねても、夜が明ければまた「ただの配信仲間」に戻る。お互いの人生の主役にはなれない。依存し合っているのに、未来だけがどこにも見当たらない。
感じやすい身体を揺らしながら、だるまはありさかの首筋に顔を埋め、掠れた声で呟いた。
「……俺ら、どうなっちゃうんだろな」
「……知らねえよ、そんなの」
答えのない問いをかき消すように、ありさかは再びだるまを強く抱きしめ、狂おしく口づけた。
数時間後、散らかった部屋のベッドの上。
月明かりだけが差し込む暗がりの中で、ありさかは目を覚ました。隣を見ると、だるまが小さく丸くなって眠っている。その寝顔は驚くほど幼く、無防備で、だからこそ胸が引き裂かれそうに痛んだ。
ありさかはそっと手を伸ばし、だるまの頬に触れた。だるまはうっすらと目を開け、かすかに微笑んだ。
「……起きてんの?」
「うん。……ねえ、だるま」
「ん?」
「明日も、いつも通り配信する?」
「……当たり前じゃん。他に何があるの」
その「当たり前」という言葉が、今のふたりにとってどれほど残酷か。誰もが羨むような絆で結ばれているように見えて、その実、お互い以外に居場所がないだけの共依存。明日になれば何食わぬ顔でApexを起動し、笑い合い、日常を演じる。この関係に名前をつけることも、壊すこともできないまま、ふたりは永遠にこの退廃的な夜のなかに閉じ込められている。
「……そうだな、いつも通りだな」
ありさかは苦い笑みを浮かべながら、再びだるまを強く引き寄せた。外の世界がどうなろうと知ったことか。ふたりだけの夜は、終わりを迎えないまま、ただ冷たく深くなっていった。
#だるさか
kataasi

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コメント
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読み終わりました……もう、甘くて苦しくて胸がぎゅっとなりました。だるまとありさかの、身体は重ねても「ただの配信仲間」のまま変わらないもどかしさが痛いほど伝わってきました。特にラストの「明日もいつも通り配信する?」と「他に何があるの」の掛け合いが、この関係の閉塞感を象徴していて切なかったです。設定も細かくて、防音室やPCファンの音、配信画面の描写に世界観のリアリティを感じました。続きが気になります……!