テラーノベル
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――金貨12枚。
それが俺たちの失った、ガチャの代償だった……。
「……残りの金、いくらある……?」
俺の弱々しい声に、全員がそれぞれ財布を開く。
冒険で得た報酬は毎回分配しているから、4つの財布にある金額が、俺たちの全財産となるのだ。
「俺は、銀貨7枚くらいだな……」
「私、金貨1枚と銀貨2枚ね」
「私は……金貨2枚、です」
「なるほど……。俺は、銀貨10枚だ……」
合計すれば、金貨3枚と銀貨19枚。
銅貨までを含めれば、金貨3枚と銀貨20枚程度か。
「……何しないと、一週間も滞在できないな……」
「4人でこれじゃ、ね……」
王都やクレントスへ戻るにしても、それはそれで金が掛かってしまう。
ただ、冒険の準備が整っていて、すぐにでも何かの依頼を受けられる状態になっているのは救いだった。
「……悩んでいても仕方ない。稼ぐ方法を見つけようぜ」
「そうだな……。今回のことは良い経験になった……と、思うよ」
……いや、そう思いたい。思い込みたい。
人生、無駄なことは無いはずなんだ。何か行動を起こせば、それはきっといつか役に立つはずなんだ。
だからあのガチャも、きっと無駄では無かったはずだ。うん、無駄では無かった。
「それにしても、全員がDランクのものしか当たらないだなんてね……。
Dランクが当たるのって、50%なんでしょう?」
「そうですよね。それが4連続ともなると……」
「えーっと……50%が4回続く確率は……?
『50%+50%+50%+50%』……か?」
「それだと、200%になっちゃうじゃないの……」
ナガラの計算に、マリモは眉をひそめて指摘した。
確率の計算は足すんじゃない、掛けるんだ。
つまり『50%×50%×50%×50%』、だな。
えぇっとそうすると、『2500%×50%×50%』で……。『12500%×50%』で……。
……ああ、ダメだ。頭の中じゃさすがに計算しきれないぞ。
んん? でもそうすると、100%を超えてしまうな。あれ……?
俺が難解な計算を解こうと努力をしていると、メンヒルがナガラに指を使って教えていた。
「ナガラさん、簡単に考えれば『2分の1』を4回掛ければ良いんですよ。
だから、『16分の1』ってことですね。パーセントで言えば、6から7の間になります」
「なるほど、掛けるのか……。
メンヒルは物知りだなぁ!」
「これくらいは常識でしょ? ねぇ、リーダー♪」
マリモはナガラを少し馬鹿にしながら、俺に同意を求めた。
そうだぞ、ナガラ。確率は掛け算で出すんだ。ひとつ、賢くなったな。
「とにかく……俺たちは、その16回に1回の確率を引いたということか……。
ある意味、運が良くないか?」
「前向きに考えれば、そうだけど……」
……ちょっと待てよ?
さらにもう1回……Dランクを5回連続で引くとなれば、確率的には……えっと、32分の1になるんだよな?
そう考えると、次にDランクが当たる確率は低いはず――
……いやいや、何を考えているんだ、俺は。
今は金が無いんだ。ギャンブルではなく、堅実に稼ぐ道を探さなければ。
「もう何日かは宿屋に泊まれますけど、はやく稼がないといけませんね。
私、街にいるのに野宿は嫌ですからっ」
「私もよ! さくっとお金稼ぎ、出来ないかなぁ」
「さくっと言ってもなぁ……。
ポエール商会で依頼を受けるか、ダンジョンに行くか……」
確実さを取るなら依頼だろうが、それにしてもダンジョンだって捨てがたい。
目的地がすぐそこだと言うのに、それを後回しにするだなんて……。
「なぁ、リーダー。今回はダンジョンに行かないか?
そもそもの目的はそっちなんだし、準備は万端だからな!」
ナガラの提案に、俺は強く後押しされた気がした。
それもそうだ。確実さばかりを取るなら、冒険者なんてやっていない。
それにまだ、焦る時間ではきっと無いはずだ。
「……よし、それじゃこのままダンジョンに潜るか。
ひとまず今日は1階の様子を見て帰ろう。本格的には明日の早朝から、ということで」
「了解! 今からだと、時間的にも中途半端だもんね」
全員の意思を確認してから、俺たちはこの街の近くのダンジョン――『水の迷宮』に向かうことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ガチャの殿堂』を離れて、そのまま街の北西へと向かう。
街門から出たすぐ側には、綺麗な水が流れる川があった。
「へー、綺麗な川だね。
この街の上水道って、ここから引いているんだよね?」
「そんな話だったよな。
本当に『水の迷宮』って、あつらえたような場所に出来たもんだよな……」
「もしかしたら、人魚の力かもしれませんね♪」
三人の話を聞きながら、俺は遥か彼方を注意深く眺めながら先を進んでいった。
比較的に平和な地域とはいえ、それでも魔物はいないわけではない。
無駄な怪我をしないように、最低限の注意は払っていかないとな。
「――それにしても、人がそれなりにいるものだな」
いかにも冒険者といった連中や、いかにも街の住人といった人たち。
少し歩いている間にも、俺たちは何組ともすれ違い、軽く挨拶をしていた。
「冒険者の間では、『水の迷宮』は大きな話題になっているからね。
ここに着いたのだって、私たちが早かったってわけでも無いし」
「街の中にも、冒険者風のやつらは結構いたからなぁ。
『ガチャの殿堂』ではあまり見掛けなかったけど、みんな真面目にダンジョンに行ってるのかな」
「えぇー、私たちだけが散財しただなんて、嫌ですよ~っ!
……でも、『ガチャの殿堂』はダンジョンへの道の途中にありましたよね……。本当に、私たちだけ……だったのかな……」
メンヒルが弱々しく呟いた。
ガチャはギャンブルだ。
あの散財スピードは、普通の金銭感覚を持つ人間であれば、なかなか手は出せないだろう。
……そう考えると、また憂鬱な気分になってしまうが……。
「そ、それよりも!
そういえばあの街って、まだまだ作ってる最中なんだよな。
朝、宿屋の部屋の窓から遠くを眺めたんだ。ちょっと離れたところでは、たくさん建築中でさ」
「外に出ると、どこからかトンカチの音が聞こえてきましたもんね。
今でも良い街なのに、これからどうなっていくんでしょう?」
「王都よりも居心地が良いから、こっちに根を張っても良いかもしれないよな……」
俺の口から、ついそんな言葉が出てきた。
まぁ、そのためには生活の金をどうにかしないといけないわけなんだが――
……新しい街、ということは、冒険者が生きていけるという実績がまだ無い……ということでもある。
果たして俺たちは、この街で根を張って生きていけるのだろうか……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらく歩いていくと、次第に大きな湖が見えてきた。
俺たちが辿ってきた川は、この湖から流れているようだった。
「こんなところに湖が……。
でも、見通しは良いわね」
「確かにもう少し、樹とかが生えていても良さそうですよね」
「ここだって、最近できたばかりなんだろう?
何年かすれば、緑で豊かな場所になりそうだよな」
街はこれから。ダンジョンもこれから。
何だか良いな、こういうの。
発展中の場所だからこそ、自分の行動が大きく響いていきそうな、そんな期待感――
「あ リーダー! あそこを見てみろよ。
人だかりが出来てるぜ?」
「本当だ。それに、ちょっとした店なんかもあるみたいだな」
「ダンジョンのまわりには、やっぱりああいうのが出来ちゃいますよね♪」
例えば王都近くの『循環の迷宮』だって、そこを中心にして小さな街みたいなのが出来上がっているからな。
商人たちの商魂たくましさには尊敬すら覚えてしまう。
実際、冒険者の役に立っているわけだし。
俺たちが人だかりに近付くと、そこには食べ物屋や雑貨屋などの露店が集まっていた。
中には買い取りを専門を行うような業者もいて、屈強そうな用心棒が周りを護っている。
「ちょっと腹ごなしでもしていく?」
「そうだなぁ……」
マリモの提案に、俺は少し考えてしまった。
いつもであれば、ここは是非何かを食べていきたいところだ。
商人と話をして、思わぬ情報を聞けたりする場合もあるからな。
……しかし今は、何といっても金が無いからなぁ……。
「今はその……あれだから、俺は寄らないでも大丈夫だぞ!」
俺の少しの間を察して、ナガラがそんなことを言った。
我儘も言うが、気配りもできる男。それがナガラなのだ。
「そ、そうだな……。今日は止めておこう、うん」
「へー。二人とも、珍しいわね」
マリモは残念ながら、微妙な空気を読むことができなかった。
ま、今日の夜にでもメンヒルから何か言われるだろう、きっと。
「……あれ?
ダンジョンの入口……。何だか女の子が立っていますね」
周囲をきょろきょろと眺めていたメンヒルの呟きに、全員がダンジョンの入口に目を移した。
小さくて気付かなかったが、黒い服を着た小さな子供が立っている。
髪の毛も黒色、少し遠くて分からないが、瞳も黒色……か。
「真っ黒な女の子だねぇ……。
さすがに迷子じゃないとは思うけど、私、ちょっと先に行くね!」
そう言うと、マリモはその女の子の方へと走って行ってしまった。
それに続いて、メンヒルも走っていく。
「よし、俺も――」
「いやいや! お前みたいな大男が走っていったら、あの子供が怖がるだろ?」
「そ、それもそうか……。
ははは、さすが気配りの出来る男、リーダーだぜ!!」
……いやいや。
気配りっていうか……、それは少し、違うんじゃないかな……。
コメント
1件
今回も面白かったです!ガチャで散財して落ち込む4人が、それでも前向きにダンジョンへ向かう姿が好き。確率計算でナガラが足し算しちゃうところ、ほっこりしました(笑)。リーダーの「気配りっていうか…」って内心のツッコミもツボです。最後に出てきた黒い女の子、すごく気になりますね。続き楽しみにしてます!
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杯雪乃
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