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3話
昼ごはんを食べた後、少し休憩してまた遊んで夜ご飯を食べた。ちなみに、掴み取りで獲った魚を調理して食べたのだけど、これがまた予想以上に美味しかった。取れたてで新鮮だったこともあるのだろう、脂が乗っていて最高だった。
両親はビールの缶を開けて談笑している。空舞は魚の骨で何かを作っている様子だった。1人遊びでもしているのだろうか。
たくさん食べて、体の疲れを感じて来た頃に奏舞に肩を叩かれた。
「何奏舞」
「ちょっと来て!」
「え、何…っ」
要件を聞く暇もなく奏舞に手首を掴まれた。
そういば、車の中で夜ご飯を食べた後に約束をしていた。すっかり忘れていて自分にびっくりした。
コテージのすぐ近くでやっと奏舞の脚は止まり、私の手首も解放される。
「そういえば約束してたね。何?話って」
心なしか、奏舞の顔は少し赤く見えた。
風邪でもあるのだろうか。少し心配になり額を触ろうとした瞬間、奏舞の大きな声に妨げられた。
「俺、相羅のことが好き!」
目を固く瞑って、耳まで赤くなっている奏舞。何を言いたいのか一瞬理解できなかった私は脳みそをフル回転させた。
告白されたわけではないはず。保育園児の好きって大体友達としてが多い。それは、まだ異性としてみていないか、恋愛感情が育ちきっていないかのどちらかが原因となる。
私はすぐに、奏舞は友達として好きを恋愛としての好きと勘違いしてし待っているんだと思い、ありがとうと言った。
「私も、奏舞好きだよ」
すると、奏舞は顔をぱっとさせ間違った言葉を続けようとした。それをいち早く察知して止める。
「それに、空舞も保育園の先生もみんなね」
また、偽善の言葉を吐く。
奏舞に勘違いさせないためという酷い言い訳をして。
「奏舞もそうでしょ?」
奏舞は私が何を言いたいのかわからない様子だったけど、すぐに「うんっ」と元気な返事をする。
「戻ろ。お風呂入って寝て、明日ちょっと遊んで帰るんだから」
私は、詐欺師に向いているのかもしれない。
「あら、2人ともどこ行ってたの?」
「トイレ。場所わかんないからってついてってた」
表向きの言い訳をスパッと言葉にする。
これは、奏舞と一緒に考えた。なんとなくこういう話をしていたなんて言うのは気が引けたからだ。
「片付けも終わったし、コテージに戻ってお風呂入ろうか」
父の一言で、みんなでコテージに戻る。
戻る途中、お風呂に入る順番を決めて、私とお母さんが先で、その後男組が入るらしい。
まるで本物の家族みたいだ。
「相羅、ちょっとだけ元気なかったね。なんかあった?」
湯船に浸かっていると、母からそんなことを言われて少し体が反応した。
親、と言う生き物は不思議だ。違う人間なのに何かあったのかと察することができてしまう。それが、どんなに微妙な違いでもだ。
「…お母さんたちが仕事の電話に行ってる時、犬が川に流されてて」
急にそんな話を出したからか、お母さんは少しびっくりした顔をした。
「奏舞と空舞は助けようとしたんだけどまぁ、なんもできなくて。私はなんか、女の人に絡まれてたからそっちを対処してたの」
「女の人に絡まれたって、何もされてない⁉︎大丈夫だった⁉︎」
まさか自分の娘が他人に絡まれているとは思わず、少し声を荒げた母。私はそんな母をなだめるように話を続けた。
「大丈夫だったよ。それで、空舞が、最初から助けれないからって諦めるのはよくないって怒ってさ」
大丈夫。何食わぬ顔で話せば何も気にすることはない。
「私、助けないといけないとか、困っている人がいたからとかそう言うのよくわかんない。だから、その場しのぎで嘘ついて、空舞を納得させて…」
だめ。出るな。私の感情。
「友達に嘘つくとか嫌なのに、薄情だからってそれを言い訳にして簡単に嘘ついた自分が…嫌になってっ」
話せば話すほど、私の視界はぼやけていく。
いや、きっとこれはお風呂の湯気だ。それで視界がぼやけているんだ。そう思っていた時、私の頭に何かが触れた。
「そっかそっか、そんなことがあったんだねぇ」
その何かは、母の手だった。
「私たちもね、相羅は感情に疎くて、そのせいで人を傷つけたり困惑させたりするんじゃないかった心配だったの。でも、それで傷ついたのは誰かじゃなくて、相羅自身だったんだね」
母の言葉を聞いて、さらにわからなくなる。
私は、私に傷ついたの?
困惑している私をみて、母はちょっとだけ目を細めて笑う。
「相羅は嘘をつくのが嫌いなのに、嘘をついてしまう自分が嫌で、そんな自分がいるんだってわかって傷ついちゃったんだよ。でもね、それはいいことなんだよ?」
「いいこと?」
理解ができなかった。
嫌な自分がいることに気がついたことに、何のメリットがあるのだろう。
「誰かを傷つける前に、自分で気がつけたでしょ?」
その一言で、私は気がついた。
私は自分が嫌いだったんだ。最初から諦める自分も、その場しのぎで嘘をつく自分も。なぜ、そんな簡単なことに気がつかなかったのだろう。
「これから知って、変えていけばいいんだよ。相羅が嫌だなと思う部分は、今の時期に変えれるの」
私の頭に乗っていた母の手は髪の毛をなぞるように、優しく、何度も行き来した。
次の日の朝。私の頭はスッキリしていた。
「空舞」
一生懸命奏舞を起こす空舞に声をかけた。
「ごめん、昨日空舞が言った、最初から諦めないでっていうの私まだ理解できない」
急に何を言い出すのかと思ったのか、空舞はいつもまん丸な目をもっと丸くしていた。
「だから、これから理解できるように頑張る」
「えっと…」
何を言えば正解なのかわからないみたいで、空舞は戸惑いつつも応援の言葉をかけてくれた。
その後、私と空舞は本当の仲直りをして、いつまでも寝続ける奏舞の上に飛び乗った。
「ぐぇっ」
「おっきろー奏舞」
ついでに二度寝しようとしたお父さんの上にも乗っといた。