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#snjn
yukino
803
キャプションをお読みの上、ご覧ください。
pnkr
死ネタ
某曲パロディです。イメソンは3曲。書きたいところだけを書いています。
俺は部屋のドアがノックされた音で目を覚ました。夜遅く、雨の音が窓を叩いている。開けると、びしょ濡れのぺいんとが立っていた。服が体に張り付いて、肩が小さく震えていて、目がいつもより暗い。
「どうしたの?…入って」
ぺいんとは部屋に入るなり、床に視線を落としたまま、ぽつりと言った。
「人を殺してしまったんです」
その言葉が耳に届いた瞬間、息が止まった気がした。殺した?…誰を?…どうして?いろんな問いが浮かんだけど、俺はそれを全部飲み込んだ。ぺいんとの顔を見ていると、そんなことを聞くのがなんだか酷に思えたから。濡れた体が震えていないか、俺はそっと目を凝らした。
「これからどうするの?」
俺は自然にそう訊ねていた。心配が先に立って、詳細なんか後回しになった。ぺいんとは少し間を置いて、静かに答える。
「どこか遠いところへ行って死にます」
その言葉が耳に残る。死ぬ、なんて簡単に言わないでほしいのに、ぺいんとは本気でそう考えているようだった。外の雨が強くなっている。俺は自然と口を開いていた。
「俺も一緒に行くよ」
ぺいんとは慌てたように首を振った。「クロノアさんまで……」って何か言いかけたけど、俺はもう鞄に手を伸ばしていた。着替えと、少しのお金と水筒。歩くなら、荷物は軽い方がいい。これくらいでいいかな。ぺいんとが心配そうに俺の様子を見ているのが分かるけど、お互い様だよね、と思う。俺だって、ひとりでなんて行かせられない。
ぺいんとを着替えさせてから外に出ると、雨の匂いが体を包んだ。ぬるい空気と雨の音がなんだか不思議と心地いい。ぺいんとはまだ迷っているみたいだったけど、傘を持って俺が先に歩き出すと、静かに並んできた。孤児院の裏門をくぐる時、俺は振り返らなかった。彼を一人にしないことが今は大事だから。
線路沿いを歩いていた。真夏の陽射しが容赦なく照りつけて、シャツがすぐに汗で張り付く。ぺいんとは隣で、時々息を整えながら足を進めている。俺は水筒を渡して、飲むよう促した。
「クロノアさん、ほらあそこ」
ぺいんとが指差す先には、誰もいない踏切があった。
「わるいこと、してみようよ、」
俺たちはそこから線路の上を歩いた。普段なら絶対にしないような、わるいこと。二人でやってみると妙に楽しかった。ぺいんとの笑顔が、久しぶりに本物に見えたから。
この笑顔を見ると胸の奥が温かくなる。世界に二人きりみたいな、そんな気がした。木の影に座って、陽射しが木漏れ日になって地面に落ちるのを見ながら、こんな時間が続けばいいのに、なんて。俺はそんなことを空想した。
夜になると、廃れた小屋みたいなところで休んだ。先に眠ったぺいんとに俺はそっと上着を掛けてやる。息づかいが近くて、体温が伝わってくる。部屋を抜け出してからずっと、ぺいんとのことを考えていた。疲れてないかな、怖くないかな。自分は大丈夫だ。俺は一人でも平気な方だから。
朝になるとまた歩き出す。汗が目に入って少し滲むけど、ぺいんとの横顔を見ると、なんだか力が湧いてくる。楽しい。二人きりの世界で、二人だけの道を作っているみたいで。
遠くからサイレンの音が聞こえ始めると、俺はぺいんとのてを握った。まだ大丈夫だよ。まだ、きっと。そう安心させてやりたいのに、ぺいんとは俺の目をじっと見る時間が多くなっていった。
追手が近づいているのが肌でわかる。人の気配が。俺はぺいんとの手を掴んで、足を動かした。息が上がる。汗と埃で喉が渇く。
いよいよ追い詰められたのは海の近くだった。足音が近づいてくる中で、ぺいんとは俺の前に立って、静かに言った。
「クロノアさんまで悪い子にならなくていいよ。俺だけでいい」
その声が穏やかすぎて、俺は一瞬意味を理解できなかった。俺は首を振った。でもぺいんとが微笑んで俺の手を離した。そして、持っていたナイフで自分の首を切った。
頭が真っ白になって、何も考えられなくなった。ぺいんとの体がゆっくり倒れていく。俺は咄嗟に抱き止めたけど、温かい血が俺の服に広がっていくのがわかるだけで、なにもできなかった。腕の中の温かさが急速に失われていく。雨の後の地面の匂いと、血の匂いと、ぺいんとの髪の匂いが混ざる。体が熱いのに、指先が冷たい。なんで、?…俺はただ、ぺいんとのことを守りたかっただけなのに。
その後、俺は警察にすぐに取り押さえられて、ぺいんとも奪われてしまった。事情を聞かれたけど、俺はなにも答えられなかった。その後受けることになったカウンセリングの部屋は白くて、椅子の感触が硬かった。俺は窓の外を見て、ただ言われたことに頷いたりした。
数日後、学校に戻った。教室の空気がいつもと変わらないのが不思議だった。みんなが普通に話している。俺も挨拶を返す。今までと変わらない景色。でもぺいんとはいない。ぺいんとのことを考えていると、他のものがぼやける。
ぺいんとが殺したはずの生徒は生きていた。階段から落ちて怪我をしただけだって、後で知った。ぺいんとは殺してなんかいなかった。でも、あいつは「突き落とされた」「あいつは異常者だった」って吹聴している。俺はそれを聞いても、何も言わなかった。視界に入れないようにした。ぺいんとだけを考えていたい。
ある日、あいつが俺に近づいてきて、
「なあ、ぺいんとはどんなふうに死んだんだ?」
と、にやにやしながら聞いた。すっと頭の奥が冷えて、俺はそいつの胸ぐらを掴んだ。教室の窓際まで押しやっていた。上半身が大きく仰け反って、落ちそうになるくらい。
「殺してやる」
静かに、そう言った。声が震えなかったのが、自分でも少し意外だった。教師が駆けつけて止めて、奴は厳重注意、俺は生徒指導室に呼ばれた。でも俺は謝らなかった。
「最初からこうしていればよかった」
そうだ。最初からこうしていればよかった。良い子でいたって、結局意味はなかったのだから。
全部終わってから気付くんだから救えない。
秋が来た。授業を受けて、俺はノートにペンを走らせていた。文字が少し歪む。友達が話しかけてくるから、俺は微笑んで返す。「うん、そうだね」って。普通に過ごせていると思う。でも、夜になるとどうしても外に出たくなる。
施設のおばあちゃん先生は、俺が衣替えもしないでいるのを見て、静かに二人分の上着とマフラーを渡してくれた。他の先生は止めるのに、あの人だけはいってらっしゃいとだけ言って、行かせてくれる。夜の道を歩きながら、俺はあの夏の線路を思い出す。ぺいんとの足音が、今も聞こえる気がした。
カウンセリングにもちゃんと行く。先生の声は優しい。俺は「大丈夫です」って答える。食事も睡眠も取れている。友達とも話しているし、授業も受けられている。ただ、ひとりになる夜には彼を探しに行く。もういないって事はわかってるんだけど、探すくらいさせてくれ、…と思う。
季節が冬に変わっても、俺はまだ薄着のままでいた。寒さは感じるのに寒くないから、つい忘れてしまう。先生に手渡されたコートを着て、ぺいんとの分も一緒に持って出かける。道を辿る。二人で笑った場所を、一つずつ。
そういえば、15歳の頃、時計塔の上でジンクスをやったっけ。「時計塔の上で愛を誓うと……」なんて、どこにでもあるジンクスを、興味本位で。ぺいんとは俺が忘れていると思ってたんだろうけど、ちゃんと覚えている。あの時のぺいんとの照れた顔が、懐かしい。
思い立って時計塔を訪れた日には、雪が降り始めた。町の景色が白く染まっていく。俺は息を吐くと、白い息がすぐに消えた。時計塔の階段を一段ずつ登る。足元が少し冷たい。手すりに触れると、金属の冷たさが掌に伝わってくる。
頂上に着くと、風が頰を撫でた。幼かったあの日にぺいんとと誓った場所。俺はゆっくりと周りを見回した。一人になった今、改めて誓うのも悪くないかもしれない。
俺はこれからもぺいんとのことを、ずっと考えて生きていく。ひとりでも、ぺいんとが嫌がったとしても。悲しませたかもしれないけど、それでも。
頭上の時計の針の音が、低く響いている。俺はぼんやりとそれを見上げていた。灰色が、静かに空を閉ざしている。
__ふと、ぺいんとの声が聞こえた気がした。
「……?」
俺は振り向いた。そのはずみで雪で濡れた床に足が滑って、体が傾く。視界が回ったけど、不思議と怖くなかった。一瞬、あの日からずっと探していたぺいんとに、会えたような気がして、それが、ただ幸せだった。
落ちる感覚が、体を包む。風の音と、冷たさ。地面につく前に、俺の意識はゆっくりと遠のいていった。
ぺいんとの声は、本当に聞こえたのかもしれない。幻聴だったのかもしれないけど、どっちでもいい。ぺいんとに会えた気がして、うれしい。
俺は目を閉じたまま、夏の日のことを思い返した。線路を歩いたこと、笑い合ったこと。ぺいんとの最後の言葉。全部、俺が覚えている。
あの夏の、二人だけの時間。あれだけは、俺の大事な思い出。もう、いいよね。
暑いのか寒いのか、痛いか苦しいかもなにもわからないのに、暖かい手に頭を撫でられたような、そんな気がした。
コメント
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人間ってすごいよね 誰かのためだったらどうなってもいいみたいに動けるんだもん でも最後は救えないままで終わるんだよなぁ なんでだろうね そんなのを表現してる作品をつくれるのすごいと思います…
うわ……これ、めっちゃ刺さったわ……。 「人を♡♡♡た」って告白から始まる逃避行、二人だけの時間が美しくて切なくて。線路歩くシーンの「わるいこと、してみようよ」ってぺいんとの言葉、あれ本物の笑顔だったんだろうな。最後の時計塔のシーンも、クロノアがずっとぺいんとを想い続けてたのが伝わってきて胸が苦しくなった。重いけど、読んでよかったって思える話だった。