ニキキル
✗✗✗
「…母さん…」
「、?キルちゃん?」
寝言をこぼしている。
その目には涙が伝っていた。
「たすけ…て…」
鼻をスンと鳴らし、辛そうに眉間に皺を寄せる。
「…大丈夫だよ…」
ただ、安心させるように声をかける他なかった。
✗✗✗
「キルってどういうAVみんの〜?w」
「ええ俺は〜w」
最近仲良くなった活動者と、discordで男子高校生のような会話を交わす。
お互いの性癖を語り合ったり、最近見たオカズを共有したり。
「え俺さ〜オススメのやつあんだけど!」
そのメッセージとともに相手が送ってきたリンク。
押してみると、至って普通のアダルトビデオだった。
何が面白いのかと、少し期待しながらしばらく画面に見入っていた。
『俺、女殴ってるやつとかクソ好きなんだよねw』
この通知が来た時には、もう遅かった。
「はっ、ぇ、」
PCの画面に大々的に映るのは、顔や腹を殴られ蹴られる女の姿だった。
女の荒い息と悲鳴が、耳を劈く。
ダメだ、思い出してしまう。
頬を殴られると頬よりも口内が切れて痛いこと。
口の中で広がる薄い血の味。
腹を蹴られた時の、胃の内容物が逆流してくる感覚。
腕と髪を掴まれて床に叩きつけられたこと。
「ぁ…あ、やめ、やめて…」
過去の記憶が鮮明に脳裏を駆ける。
痛みも恐怖も、今体験しているかと錯覚するほどハッキリしていた。
逃げなきゃ。
✗✗✗
「ただいま〜」
いつもならおかえりと返ってくるところが、家には静寂だけが残っていた。
「キルちゃん?いないの?」
ガタッ…
部屋の奥で物音がした。押し入れの中だ。
(なんでこんなところに…?)
ガラッ
「…キルちゃん?」
「はっ、はぁっ、ゃめ、来ないで…ヒュッ、」
「キルちゃ…っ?」
「ごめ、なさ…っ、もう、叩かないで…ごめんなさ、」
「キルちゃん、大丈夫、俺だよ、ニキ。」
「ぁ…にき、く、」
「うん、俺だよ。大丈夫、ゆっくり呼吸しようね。誰もキルちゃんを傷つけたりしないからね。」
「ぅ、あ…」
キルちゃんの頬を大粒の涙が伝う。
すごく辛い思いをしたのだろう。緊張の糸が解け、リミッターが外れたようにボロボロ泣き出した。
「大丈夫、大丈夫だよ。」
「にきく、怖かったあ…、」
「怖かったね。もう大丈夫だから。俺がいるでしょ。」
「うああ…ヒック…うっ…」
✗✗✗
「ニキくん…ごめん…」
「謝らないで。辛かったんだもんね。本当は俺が全部代わりに背負ってあげたい…。」
「ううん、ニキくんは居てくれるだけでいい…」
「…キルちゃん」
「ん…、」
チュッ
「…っ」
「これからは、俺が守るから。辛い思いさせたりしないから…、だから、」
ずっとそばに居てね
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