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気のせいだろうか。

パリスの様子が昨日までと違うような気がする。


何かを諦めたような表情。


快楽に身体を投げ出しながらも、意識がここに残っていない。


自分の運命に絶望しているのだろうか。

迫りくる死に翻弄されているのだろうか。


私はとっくに、彼を生かす方向で考え始めているというのに。


これからもパリスと生きていきたい。

もちろんこのまま、というのはいかないだろうが―――。


パリスが心から私を信頼し、私を愛せるようになったら。

手枷足枷から彼を解放し、そしてこの家で一緒に暮らしたい。


わけを話せば、きっとあの人もわかってくれるはずだ。



今度こそ、私は本当の愛を手に入れる。


彼と一緒に。


そのためには、どんな犠牲も厭わない。


「ーーー愛してるわ、パリス」


私は自室でモニターを見つめた。


そこには暗視カメラでとらえたパリスの姿が浮かび上がっている。


眠っているのだろうか。

目は閉じている。


左足が僅かに動く。


そろそろ足枷くらい取ってあげてもいいかもしれない。


少しずつ自由を与え、懐柔し、最後には洗脳する。


ーーーやって見せる。


時間ならいくらでもあるのだ。



そのとき突然、彼の大きな目が開いた。


暗視カメラでとらえているため、真っ白な瞳が光って見える。


「――――?」


口が動く。


寝ぼけているのだろうか。


いや、違う―――。


尚も口が動く。


沈黙。


眉間に皺を寄せながらまた口が開く。


沈黙。


また口が動く。今度は小さく首を捻りながら。



―――これって。


私はモニターに顔を寄せた。



―――誰かと会話をしている?



立ち上がった。


間違いない。

彼は誰かと会話をしている。


ドアを突き破るように開けて廊下に出ると、長い階段を駆け下りた。



誰?


誰!?


私のパリスに何をしてるの―――!?



地下室にいるパリスと会話ができるとしたら、外の換気扇以外にはない。


インナーガレージに駆け込みそれを掴むと、急いで玄関に回り、サンダルをつっかけて外に出る。


階段を駆け下りる。



パリスは―――


パリスは私のものよ……!!!



彼を奪おうとするなら、


誰であろうと、



殺してやるーーーー!




裏に回り込む。


そこには――――



彼女が立っていた。

パリスの審判 ~監禁する女神たち~

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