放課後、チャイムが鳴るその直前の時間が、いちばん好きだ。黒板を見てるふりをしながら、ちらっと視線を向けた先——
「……○○、今日さ、購買寄らん?」
「え? いいよ」
斜め後ろの席から声をかけてきたのは、後藤くん。
ちょっとおちゃらけてて、いつも笑ってて、でも不思議と、いつも私のことを見てる気がする人。
「ついでにパン、奢ったろか? 今日、家出る時に親に500円もらってん」
「う、ううん! 自分で買えるし!」
「え〜〜〜ええやん別に〜、女子に恥かかすほどケチちゃうで?」
にやにや笑って、少しだけ顔を近づけてくる後藤くんに、心臓が飛び出しそうになる。
こんなふうに冗談交じりでからかってくるのが、後藤くんの“いつも”で。
でも今日は——
「なあ、○○」
「……な、なに?」
「今日、帰りも一緒に帰ろか」
一瞬、空気が変わった気がした。
今までよりも、ちょっと真剣な声音。
いたずらっぽく笑っていた目が、ふっと優しくなる。
「最近さ、○○が誰かと話してんの見ると、ちょっとムカついてまうねんな」
「えっ」
「なんでやろな〜。俺、嫉妬とかするタイプちゃう思ててんけど」
そう言って笑うけど、どこか本気っぽいその言葉に、私の顔はどんどん熱くなっていく。
「ほな、俺のことも……ちょっとは気にしてくれや?」
耳元でそっと囁かれて、思わず息をのむ。
「冗談ちゃうで。……俺、○○のこと、ほんまに好きやねんで」
軽いようでいて、でも本気の眼差し。
顔を上げて目が合ったその瞬間、心が甘く、溶けていきそうになる。
「……わ、わたしも……」
そう言った途端、後藤くんはにかんだ笑顔で、ぽんっと私の頭に手をのせた。
「よっしゃ〜!今日から彼氏自称しても怒られへんな〜!」
「ちょ、ちょっと……!」
「ええやんええやん、○○のことは俺が毎日守ったる。勉強も教えるし、放課後も送ったるし」
「彼氏って……そういう意味?」
「そらそうやろ。あと、もう好きって言ったから、明日からチューも視野に入れていくわ」
「ちょ、はやい!」
「ほな予習しといてや、俺との恋愛、けっこう甘いで?」
その笑顔は、教室の蛍光灯よりまぶしくて。
次のチャイムが鳴るのが、ちょっと惜しいって思った。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!