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「お前と言うやつは…..何度期待を裏切れば気が済むんだ…..。」「ごめんなさいお父さん。これでも僕頑張ったんだ…..。」「頑張ったからなんだ!?結果がともわなくちゃ意味ねぇだろ!!」父子家庭の翔長家は今日も荒れていた。彼の名前は翔長郁人。中学生だ。母親は郁人が小学生の時に病気で亡くなった。幼少期から野球選手になる事を強いられ、ひたすら練習に明け暮れるが成果はいまひとつで父に呆れられ、その事を誤魔化すように勉強に勤しんだが、毎回中間テストや期末テストではせいぜい50点か60点代。それでもって更に呆れられた。友達も少なければ、彼女なんかいるはずもない。郁人は、「もう、僕にはなんの才能も無いんだ。」と人生を棒に振ってる始末だった。そんなある日、郁人は不思議な夢を見た。頭の顬と天頂に三本の羽が生えていて、顎が長く眉と鼻のラインに「T」という字が刻み込まれている不思議な人間が、「君に頼み事がある。私たち組織の裏切り者を君に撃退して欲しい。」と言って、静かに姿を消す夢だった。郁人はその後ハッと目を覚まし、目を何度もパチパチさせた。「なんだったんだ…..?今の夢は…..。」
それから数週間が経った頃だった。翔長家の庭にものすごいスピードで一本の大根が生えていた。郁人は「なんだなんだ?」と思い、その大根に近づいた。大根は目で確認できる程の速度でどんどん成長していった。よく見ると大根には顔が大きくくっきり見えていて、根が手足になっており体操座りの体勢で生えてきているのが分かった。郁人はその様子をまじまじと見ていた。すると、大根は2本の根で立ち上がり、その奇妙な顔で郁人を見た。そして、2本の根で出来た腕でなんと郁人の顔を殴り喋り始めた。「なんだこの負け組臭いガキは。」郁人は驚きその場で倒れた。「うわぁ!!大根が喋った!!!」「大根が喋ると悪いことでもあるのか?俺はここで謝るべきなのか??」「えぇ…..あぁ…..えぇと…..」大根はまた郁人の顔を殴った。「また負け組の顔をしたな。俺はそこら辺で散っていく負け組が大嫌いなんだ。」「あぁ…..うん…..酷いな。」郁人は酷いことをする大根だけど何故か悪い大根では無いと感じた。「すごく不思議なことが目の前で起きたから驚きすぎててなんとも言えなかったよ。僕は郁人。翔長郁人。君の名前は??」「俺はキーポン・ウーだ。忘れてしまったら「Keep on you」で思い出してくれ。」「なんて呼べばいい?ウーって呼ぼうか??」キーポン・ウーと名乗る大根はまたまた郁人を殴った。「俺は中途半端な呼び名がかなり嫌いなんだ。ポン・ウーと呼べ。」「えぇ…..すごい中途半端じゃん…..。」「さて、この家を紹介してもらうか。郁人だっけ?案内してくれ。」「無視するんだ…..。」郁人はポン・ウーを家の中に連れ込んだ。「待て。」すると、ポン・ウーは壁に隠れるように身を隠しながら台所へ向かった。「どうしたんだよ。ここは君には関係の無い場所だよ。」「いや、微かだがな。仲間の意識を感じてな。」「仲間?」「行くぞ、郁人!!」ポン・ウーはそう言うと台所に侵入して、冷蔵庫を開けた。「こ…..これは…..!!」冷蔵庫の中には切り刻まれた大根が入っていた。「嘘だーーー!!!!」ポン・ウーはそう絶叫した。「誰が…..誰がやったんだ…..。一体誰が!!!」「僕の父さんがやったんだよ。」フッと振り返り郁人を見つめるポン・ウー。「お前の父がやったのか…..??お前は何故それをわかってて止めなかった??」「えぇ…..だって食材じゃん…..。」「食材…..か…..。お前らは俺たちの仲間を食べて生きながらえていると聞いたことがある…..。仕方がないのかもな…..。」郁人は食べるということは命を頂く行為なのだということを改めて実感した。ポン・ウーは何とか心を改めようとした。「そうだな。この事は水に流そう。そうだそうだ。水に流そう。」ポン・ウーは暫く黙って俯いていた。郁人は何とか声をかけないとと思ったが、何と言えばいいのか分からなかった。その時、「嘘だよーーーん!!!全部演技演技!!」「え?」郁人はあまりの展開に頭が追いつかなかった。「嘘嘘嘘嘘全部嘘!!俺たちのあいだにある心の壁をぶっ壊そうとしてやってみただけ!!!」「で…..でも…..同じ大根じゃん。」「俺はその気になれば何の植物にでも発生できるんだよ。ほら、これでもう安心したろ??」「確かに。安心したな。」郁人はポン・ウーに抱いていた怪しいイメージが打ち壊された。これだけファンタジスタな見た目をしているのにポン・ウーは本当に世渡りが上手いんだなと郁人は感じた。「それよりほら、お前の部屋に案内してくれ。」「あ…..あぁ。分かったよ。」郁人の部屋に入ったポン・ウー。何を感じたのかポン・ウーは、部屋の中で暴れ始めた。「ちょっと!!どうしたんだよ!!」「いや、この部屋がな?ある程度動き回っても問題ないか確かめてんだよ。」「動き回る??一体何を始めようっていうの??」ポン・ウーはそう聞かれるといきなり静かになった。「お前は先日奇妙な夢を見ただろ。」郁人はどの夢のことかよく分からなかった。それどころか夢をあまり覚えているタイプではなかった。「ほら、不思議な人に裏切り者を倒してくれと言われた夢を見ただろ!」「あぁ!!」郁人は思い出した。「俺はその裏切り者を倒すための役割を今担っている者だ。」「まさか、その裏切り者を倒す戦いに僕も参加しなきゃいけないの!?」「参加しなきゃいけないんじゃない。参加出来るんだ。」「僕なんか足でまといだ!!何もできやしないよ!!」「だから今から鍛えるんだ。」「鍛える??」ポン・ウーはため息をついた。「俺はTHXっていう組織の一員なんだ。THXっていうのはざっくり言えば地球を維持するために地震を起こしたり、台風を起こしたり…..つまり自然災害を起こして地球を守る組織だ。長はエレメンターTという方でね。あの方を中心として活動をしているんだ。お前の夢に出てきたのも、その方だ。」「自然災害を起こして地球を守る??」郁人はそこら辺が納得いかなかった。「まぁ聞いただけじゃ納得いかないだろうな。だが、地球を守るには荒いこともせにゃならんのだ。」「へぇー…..そうなんだ…..。」郁人は何とかそこら辺を納得することにした。「それよりだ。その自然災害を無理やり起こして金儲けをする奴がうちの組織の中から見つかったんだ。名前はアルファード。そいつが今回の裏切り者だ。」「なるほど。それは酷いや。」「だろう?ここ最近地震や大雨が続いたのはそれが原因ってわけだ。」「でもどうやってその裏切り者を倒すの?何か策でもあるの??」郁人がそう聞くと、ポン・ウーは身体の中から棒を取り出した。その棒は眩い光を放っていて、今にもしびれそうなくらいの電流を纏っていた。「な、なんだよそれ!!」郁人は驚いてひっくりこけた。「この棒はただの棒だ。このただの棒に多大なパワーを送ることによって1つの武器にしてる。これを人呼んでTHXパワーというんだ。」「すごい…..。でも僕こんなこと出来ないよ。」「俺の指導通りに鍛錬を積めば不可能じゃない!!さぁ、家にある長い棒を持ってこい。今すぐトライだ!!」「分かった…..持ってくるよ。傘でもいいかな?「ああ。傘は使い勝手がいいからな。オススメだ。」郁人は急いで傘を持ってこようとした。しかしその反面、郁人には「どうせ自分には無理なんだ。」という思いが蔓延っていた。「野球も勉強も何もかも出来損ないなのに」と郁人は自分に気づかないところで言い聞かせていた。それから傘を持ってきた郁人はポン・ウーに基礎を習い始めた。「いいか?THXの基本はまず脇を閉めることだ。脇を閉めて、脳ミソにパワーを集中させてそのパワーを腕を伝って発射させるイメージだ。」「脳ミソにパワーを集中させる??」「そうだ。もっとわかりやすく言うと自分の思いをおもいっきり溜めて解放するってことだ。」「自分の思い…..。」「なんでもいいんだ。昨日や今日ストレスに感じたことをぶつけるイメージでやってみろ。」郁人は自分がストレスに感じたことを思い出そうとした。だが、自信をすっかりなくしてしまっていた郁人にはストレスに感じることなどとうになかった。「ダメだ。何も思い当たらない。」「何も思い当たらない!?おいコイツったらとんだ幸せ者だよ!!ストレスを感じない体質なのか!?」「僕なんかもう人生棒に振ってるようなやつだから…..色んな人の期待を裏切ってきたからね。」ポン・ウーは少し可哀想に感じた。「な…..なんならストレスをぶつけようとしなくていい。自分の思いをぶつけてみろ。そしたら出来るはずだ!」「思い?」「そうだ!どこかに溜まっている思いをぶつければパワーも出てくるはずだ。」「そんな大層な思いなんて…..僕には無いよ。」だんだんイライラしてきたポン・ウー。とうとう郁人に感じている事を口に出した。「やってみる前に出来ないやらやれないやら!!どこの誰かの期待を裏切ったのか知らねぇけどな!!てめぇみたいな根性してる奴が俺は1番腹が立つんだよ!!やる前からはなから諦めやがって!THXはてめぇみたいな奴欲しちゃいねぇ!!というかお前みたいなやつは何やっても上手くいくはずがねぇんだ!!」その言葉をかけられた瞬間郁人の中でブツっと何かがきれた。「何だと…..?何も知らないくせに上からものを言いやがって!!俺が今までどれだけ努力してどれほど傷ついてきたのか知らないくせに!!!野球も勉強もそうだ!どうやったって全く上手くいかなくて絶対に認められない!!こんな俺になぜ期待なんかするんだ!!」郁人は無意識のうちに自分の本心を叫んでいた。そして、静寂が部屋中をかけめぐった。「認められたいから努力するのか…..。分かった。俺一人で何とかするからお前はもう出てこなくていい。」ポン・ウーはボソッと言った。「あぁ、そうさせてもらうよ。」郁人もそう言うとポン・ウーは部屋から出ていった。扉がガチャンと言った。一人になってしまった郁人。壁によりかかって深いため息を吐いた。「俺の人生…..これでいいのかよ…..。」郁人はやはり、人生このままでは本当に棒に振ってしまうのでは無いかと思い始めた。でも、頑張れば頑張るほど虚しい結果だけが生まれ、それが叩かれる。そんな現実が待っていると思うと、恐怖でしかないのであった。「クソっ!!神っているのかよ!!」そう言って壁を思いっきり叩いたその時だった。1冊の本が郁人の頭の上に落ちてきたのだ。「痛っ…..!なんだよ!!」それは、亡き母が作った郁人のアルバムだった。最初のページには、郁人が生まれた時の写真が貼っており、ページをめくればめくるほどその成長過程が写真になって貼り付けられていた。その内容は、初めてハイハイが出来た時や、小学生の時のマラソンで最下位になった時のものだったりした。郁人はその写真達を見つめながら気づいたらフフっと笑っていた。そして、最後のページにたどり着いた時、一通の手紙が入っているのを見つけた。なんと書いてあるか見てみた。「負けたっていいじゃない。大事なのは諦めない心よ。郁人にはその心があるもの。誰かに認められるために頑張るんじゃないのよ。みんな、今ある自分を変えるために頑張るの。だから結果なんてどうでもいいわ。あなたはあなたの道を進んで。私は空からあなたを見守っているから。
母より」郁人は読んだ瞬間に涙がこぼれた。「みんな…..今ある自分を変えるために頑張る…..か…..。」自分はその事を知ってたはず。だがしかし、いつの間にかその当たり前の事を忘れてしまっていた。残酷な現実が矢のごとく降り注いで来て、それを忘れさせられていた。郁人は涙を拭いた。そして、ハートが光始めた。忘れ去られてきた熱い思いが、今、取り戻されたのであった。「ポン・ウーを探そう。」郁人は傘を持ってポン・ウーを探しに行った。一方、ポン・ウーは…..「この組織は俺にかかってるんだ!!お前なんかにそうやすやすと操らせてたまるか!!アルファード!!」何と裏切り者のアルファードと遭遇し、今まさに対峙していた。「残念だったな。もう手遅れだ。この地球の原動力の核は俺が手にした。今すぐにでもこの地球を地震や台風や竜巻で荒れ果てさせることも出来る…..。」「そうはさせない!俺がここでお前を倒す!!」ポン・ウーは棒を身体から取り出し、THXパワーを流した。「いくぞアルファード!!」アルファードも棒を取り出し、パワーを流した。「かかってこい。キーポン・ウー!」ポン・ウーとアルファードは思いっきりぶつかり合った。「こうしてお前と戦うのはこれが初めてだなぁ!! お前、かなりつよいんだろう!?楽しんで戦ってやるぜ!!」アルファードはポン・ウーに話しかけながら戦っていた。「お前よりは強いに決まっているだろう?なんてったってエレメンターT直々にお前を倒すよう頼まれたからよ!」「エレメンターTだ??あいつは無能だろぉ!!なんてったって簡単に俺から地動天動の権を渡すんだからよぉ!管理が甘いんだよ管理がぁ!!」ポン・ウーとアルファードはものすごい速さで棒と棒を叩きあっていた。パワーではポン・ウーが勝っているが、体力ではアルファードの方が勝っていた。この戦いは完全に体力勝負になっていたため、ポン・ウーが不利になっていた。「うっ…..!クソッ…..!!」アルファードに致命的な一打を中々繰り出せずに体力だけが消耗しているポン・ウー。郁人はポン・ウーと初めて出会った庭や台所付近、家の付近の外を探し回った。「ポン・ウー!!ポン・ウー!!もう怒ってないから出てきてくれー!!」しかし、郁人はポン・ウーを見つけきらずにいた。郁人はもう諦めるかと考えたが、諦めずに探し続けた。すると、背の高い男と横たわった大根を見つけた。「ま…..まさか…..この大根って…..」キーポン・ウーだった。「ポン・ウー!!ポン・ウー!!!」郁人はポン・ウーめがけて走った。「ポン・ウー!しっかりしてポン・ウー!!」アルファードはある程度の状況を把握した。「ほぉ~。お前がキーポン・ウーの弟子になった翔長郁人か。腑抜けた面をしてやがる。どの程度鍛えられているか期待できるな。どれ、かかってこい。」アルファードに煽られた郁人。そして傘を持ち、アルファードに突進していった。「ポン・ウーをなめるな!!」しかし、傘は全くもって光を放つことはなかった。郁人は何度も傘をアルファードにぶつけた。しかし、傘に異変は起こらなかった。「ちきしょうなんで!」「おいおい、まじかよ!!こいつTHXを全く操れてねぇじゃねぇか!!キーポン・ウー!!お前マジで無能なやつを弟子にしたな!!」ポン・ウーは郁人の目からさっきとは違う輝きがあることに気がついた。そして叫んだ。「郁人!!!」郁人はポン・ウーの方向を振り返った。「脇を閉めろ」郁人はそう言われるととっさに脇をしめた。その瞬間、郁人の持ってる傘に稲妻のような光が包み込んだ。「これが!!THXパワー!?」郁人はかなり驚いていた。ポン・ウーは鼻を擦りながら「やるじゃねぇか」と言った。「馬鹿が!!THXパワーが出せたからなんだ!!それで俺と同じ土俵に立ったつもりか。笑わせるな!!!!」アルファードは調子に乗るなと言わんばかりに郁人を言葉でたたいた。「いいや、これで僕は君に並んだんだ!!THXを裏切ったこと、後悔させてやる!!」郁人は恐れていたものを全て払拭していた。もう何も怖くない。その感情が郁人を更なる高みへ連れていったのだ。「いくぞ!!」郁人はTHXパワーに包まれた傘を持ち、アルファードに襲いかかった。「へっ!軽いな!!」しかし、アルファードにはかすり傷1つつける程度しかダメージを与えられなかった。「ならこっちもいくぞ!!」今度はアルファードが郁人に攻撃をしてきた「うっ!!強い!!」郁人はアルファードの攻撃におされた。その上アルファードは郁人の倒れかかった身体に蹴りを入れ、郁人は倒れてしまった。「情けないなぁ!!師弟同士が地面に倒れ込んで。情けないな本当に!!」郁人は呼吸ができないくらい強く蹴りを入れられていた。ポン・ウーはまた立ち上がろうとしているが足が震えていて、奇跡的に立ててもまた倒れるという行為を繰り返していた。もうダメなのか…..郁人はそう思った。しかし、郁人の中で何かが立ち上がれと声をかけていた。郁人はその声の言う通りスっと立ち上がろうとした。千鳥足の状態で何が出来るのか。そんな事は考えていなかった。「おぉ。おぉおぉおぉ!立ち上がったぞ。次はどこを潰して欲しい?」アルファードは自分が勝ったも同然だと確信していた。「何がおかしい…..。全力でぶつかっていく姿の何がおかしい…..。」郁人は無意識のうちにアルファードに問いかけていた。「何がおかしいって、無駄な足掻きをする馬鹿は滑稽だろ?力の差をまるで分かっていない馬鹿は面白おかしいもんだ。そうだろ。」郁人は立ち上がった。「何においても無駄なことなんて何一つ無いんだ…..。」「ん?なんだって??」「お前がボロボロにしたポン・ウーだってそうだ。ポン・ウーの意思はやがて誰かに届く。その誰かは他の誰でもない。この僕だ。」そう言うと郁人は傘を構えた。「強い志しを持て。脇を閉めろ。それがTHXパワーを最大限に引き出す条件だ。覚悟はいいな?アルファード!!」アルファードは唾をとばした。「無駄な足掻きがどれだけ虚しいものかを教えてやる。かかってこい。馬鹿ガキ。」そして、郁人とアルファードは思いっきりぶつかりにいった。「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」アルファードは棒を郁人の首に向かって振り下ろそうとした。しかし、それより早く郁人がアルファードの右腹を傘で突き刺した。「なぁぁぁぁにぃぃぃぃ!!!???」アルファードは振り下ろそうとした棒を落としてしまった。「貴様!!俺を討伐するのに何故首を狙わなかった!?なぜ右腹を!!!」驚きと怒りを混ぜたような感情でそう言い放ったアルファード。「夢を思い出したんだ。エレメンターTさんとやらは討伐して欲しいんじゃなくて撃退して欲しいと言ったんだ。」血のついた傘を静かに振り下ろしながら郁人は言った。「ま、まずい!!この出血量で何もしないのは自殺行為同然!!早く…..何とかしなくては…..。」アルファードはその場からすぐさま逃げようとした。「郁人!!追いかけるんだ!!捕まえるのは今がチャンスだ!!」ポン・ウーは体力を振り絞って郁人にそう言った。「わ…..わかった!!」郁人はアルファードを追いかけようとした。その時だった。「追いかける必要は無い。」その一言がその場全体を包み込んだ。「あなたは…..!!夢に出てきた!!」そこにはエレメンターTがいた。「エレメンターTさん!!お疲れ様です!!」アルファードの顔は真っ青だった。「何やら騒ぎがあったらしいもんだから聞きつけてやってきたのだ。さぁ。アルファード。覚悟は出来ているね?」アルファードは右腹の痛みを忘れてガクガク震えながら「あの…..えぇと…..これから何をなさるのですか…..??」と尋ねた。「地獄へ連れて行ってやろう。」エレメンターTは顎を触りながらそう言った。「はぇ…..?地獄…..??」アルファードがそう言うとエレメンターTは指で全身サイズの大きな円を書いた。その円からは、どす黒い空間にものすごい熱気と奇妙な笑い声が感じられた。「さぁ、行こうか。」エレメンターTはアルファードの手を引っ張り、共に闇の中へ足を進めた。「助けてくれ…..!!もう変なことはしないから!!助けてくれ!!!」アルファードはそう言いながら闇の中へ吸い込まれて行った。そして闇の円は次第に小さくなり、消えていった。ポン・ウーと郁人は顔を合わせた。「僕達…..勝ったの?」郁人はポカンとした様子でポン・ウーに尋ねた。「あぁ…..。勝ったんだ!!俺たちは勝ったんだ!!!」郁人とポン・ウーはハイタッチをした。「凄いや!!僕がやったんだ!!!僕がアルファードを!!」「それにしても一体何があったんだ??目の色変えてここに来たからびっくりしたぜ!最後に会った時は喧嘩したからな!」「色々あったんだよあれから…..。」郁人は空を仰いだ。そして、天にいる母に「ありがとう」とひとこと残した。……………………………………………………………………..それからポン・ウーは、ミッションを終わらせたため、THXの本部に戻ることにしたのだった。郁人は会ってそんなに時間は経ってないのに寂しくなると言ったので、ポン・ウーは自分についていた葉の部分の一部を郁人に渡した。ポン・ウー曰く、「寂しくなったらこれを土に埋めろ。そしたらまた俺が生えてくるから。」ということらしいので、また会いたい時に会えるという安心感があった。そして、とうとう別れの時が来た。郁人とポン・ウーは目を合わせた。「それじゃぁまたな。風邪ひくんじゃねぇぞ。」「君だって、組織のミッションで死んだりしないでね。」「おいおい。俺がそんなに簡単に死ぬと思うか?いつだってしぶとく生きるぜ。じゃぁな。」窓の外から光がさした。「待って!ポン・ウー!!」郁人はポン・ウーを呼び止めようとした。ポン・ウーはただの大根になっていた。郁人はその大根を抱いて言った。「ありがとう」人生を諦めかけていた郁人が人生を取り戻すきっかけになったポン・ウーに最後にお礼を言ったのだった。