「一つ聞きてぇ」
「オマエはなんでオレについてくる?」
「さぁ?」
「オマエが死んだら教えてやるよ」
「なんだそりゃ?」
「ひゃは♡」
「約束だ」
稀咲が死んでから、2年経った。
きっと、今まで経験した中で1番長かった2年だった。
ピンチな稀咲をバイクで後ろに乗せて。
このまま何処までも逃げていこうと思ってた。
でも、ハンドルをとられちまった。
雪で派手にスリップしてさ。
オレは稀咲を逃がさなきゃいけねぇから、
無理な立ち回りだってしたよ。
…でも、無理だった
オマエは交差点で引かれて、真っ赤に染まってた。
俺が行った時にはもう体は冷たくなってて、
オレも柄にもなく涙流してさ。
それからオレはずっと逃げた。
オマエの代わりにオレが最後までやらねーと、と思ったんだよ。
そんで、この2年。
逃亡生活にもやっと慣れて来た頃だった。
そんな中、オレはある噂を耳にした。
稀咲鉄太はまだ生きている___。
最初は誰かの陰謀だと思ったよ。
でも、オレはそれを真実と思わないと気が狂いそうだったから。
必死に、必死に稀咲を探したよ。
そしたら、とある病院に辿り着いた。
夜中にこっそり忍び込んで、部屋番を探す。
「……あった……」
稀咲鉄太、という見覚えのある字を見つけた。
これが同姓同名の違ぇ奴だったら、
とか思いながら階段を上がる。
キー、ガチャッ。
恐る恐るドアを開いた。
「ぁぁっ……」
オレが探していた稀咲鉄太、そのものがベッドに横たわっていた。
オレは咄嗟に駆け寄った。
「稀咲ぃっ……稀咲ぃっ……!」
壊れたカセットみたいに何度も名前を呼んだ。
触れたその体は冷たくなくて、
浅くても呼吸をしているのが分かる。
「ん……」
「……半間、か、?」
「……うぅぅっ……稀咲ぃっ…会いたかった……」
久しぶりに聞いたその声に情けなく嗚咽をもらして泣いた。
「はっ、ん、ま、」
オレの名前を呼ぶ稀咲の声が詰まっていた。
涙こそ流していないが、稀咲は涙目だった。
「なァ、稀咲ぃっ、」
「……帰れ」
突然の出来事に言葉が詰まる。
「……ぇ…」
「……帰れって…」
「なんで、嫌だよ稀咲っ……」
「帰れって言ってんだろ!!」
「…っ!」
「お願いだから、帰ってくれ……」
寂しそうにそう呟くと、稀咲は俺から目線を外した。
「じゃぁ、な…」
そう言って部屋を後にする。
それからオレは来る日も来る日も病院に行った。
会う度に稀咲は帰れって言うけど、
表情は柔らかくなっていってるの気づいてるから。
「帰れ」
いつものように稀咲が言う。
そして、意を決して稀咲に聞いたんだ。
「なァ、なんで帰れって言うン、?」
「オレが居たらダメなン、?なァ、教えてくれよ…」
「……っ……」
「オレ、稀咲のことなら全部受け入れるから、」
「だから、オレに全部教えて…見せてくれよ」
「……これを見ても、か?」
そう言って稀咲は体に掛けていた敷布団を取る。
「オレの…四肢が……無いんだ」
稀咲を何処か遠くを見るような目で呟く。
「なぁ半間、オレはもう独りじゃ何も出来ない。 」
「オマエを……楽しませることなんか…出来ないっ…」
涙を零しながら稀咲はそう語る。
「…だから稀咲から離れろ、って…?」
「そうだ。オマエもその方が幸せだろ、?」
「稀咲、オレがそんなことで離れると本気で思ってンの?」
「オレを楽しませられないとか、ンなことどーでもいいよ…ッ」
「……半間……っ」
「オレは…オマエと居れたらそれで十分なんだよ、」
「…うっ、うぁっ、うぁぁぁぁあっ………」
涙のダムが崩壊したみたいに稀咲は泣きじゃくった。
涙が収まった後、稀咲が事の経緯を話し出した。
「…全員に、捨てられたと思った、」
「東卍を追い出されて、マイキーにも見放されてっ、イザナは、イザナはオレが殺した、っ…。なのに、計画も、上手くいかなくなって、っほぼ全員がオレから離れたっ、なのにオマエは、オマエだけは…ずっとそばに居て、っ…最後も、オマエはオレを逃がそうとして…っ、でもオレが全て、全て無駄にした…。だから、オマエにも見放されると思った、っ、でも、オマエに…見放されたくなくて、ずっと…傍に居て欲しかったから…っ……。」
「嫌われるくらいなら、っ、会わない方が良いと思ったんだ、」
「稀咲、、、」
「なぁっ、半間っ、…」
「お前、俺のこと好きか、?」
「…当たり前じゃん、っ……めっちゃ好き、っ…」
「 …好きだ、好きだ半間っ……好きだ、っ 」
「稀咲、オレ稀咲のこと大好きだから、っ」
「だから、もう会わないなんて言わないでくれよォ…」
「言わねぇっ、二度と言わねぇよ……」
「退院したら、っ…色んなとこ行くんだ。」
「会えなかった2年分の色を…オマエと見るんだ。」
「半間っ……!」
「ガキみてぇにはしゃいで、沢山写真を撮るんだ。 」
「相変わらず、オマエは不機嫌そうだけど、たまに笑うオマエの顔を…オレが撮るんだ」
「きっとオマエにオレは怒られて、ヘラヘラ笑いながら謝るんだ。」
「半間ぁっ…!」
「でも、その写真はオレの……オレ達の宝物になるんだ。」
「……うぅっ……っ」
「…だから稀咲、ずっと、待ってるぜ。」
「一つ聞きてぇ」
「オマエはなんでオレについてくる?」
「さぁ?」
「オマエが死んだら教えてやるよ」
「なんだそりゃ?」
「ひゃは♡」
「約束だ」
死ぬ前に教えちまったかも。
あーぁ、約束破っちまった。
また、稀咲に怒られっかなァ。
END.
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