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#ダンジョン
#学園
「莉子! なんか出た! 壁から出て来た! これ、希少なヤツ!?」
「エビルフォックスだぁ! 確か、毛皮はイドクロアに認定されていたような気がするよ! じゃあ、わたし、頑張ってやつけるね!!」
「下がっているんだ。ここは僕が引き受けよう」
「お金になると分かった途端に弟子の成長の機会を奪わないでよぉ……」
六駆の中で、メタルゲルを『大竜砲』で焼き尽くした事実は、もはや拭い難いトラウマであり、年を取ってやらかしたミスほど傷は深くなるが人の心の構造。
もう、1円たりとも失いたくない彼は、莉子の未熟な『太刀風』で目の前のデカいキツネがバラバラにされるのを良しとしなかった。
「それで!? こいつの特性は!? 火がヤバいとか、水がマズいとか、教えて! 早く、逃げちゃうから!!」
「もぉ。すごい食い気味でくるの、ちょっとウザいなぁ。エビルフォックスはどこのダンジョンにもいるモンスターで、特記事項はないよ。って言うか、待ってね。あ、やっぱり。エビルフォックスの毛皮、10キロで1500円が相場だって」
「莉子。君のスキルを見せてみなさい」
「人って年を取ると、こうも露骨にお金に汚くなるの? やだなぁ、わたし」
目の前にいるデカいキツネは、デカいと言っても馬くらいのサイズである。
そこから頑張って毛皮を剥いで、果たして何キロあるだろうか。
5キロあれば上出来だろう。10キロで1500円ならば、その半分で。
六駆のやる気をへし折るには充分な情報だった。
「……たぁぁぁっ!! わっ、また避けられたぁ! なんでぇー!?」
「頑張れ、頑張れー! ほら、キツネが襲ってくるよ! 避けながら撃って!」
「うぇぇっ!? そ、そんなの、無理ぃ! わっ、わっ!! きゃっ!?」
「仕方ないなぁ。ちょっとだけ手助けを。『空盾』、展開!」
『空盾』は空間に防御壁を生み出すスキル。
防御力は大したことないが、その分遠隔地にも張る事ができる、対象を囲むようなシェルターが作れる等、利便性に優れている。
「た、助かったぁ。もぉ! 師匠ならもっと適切な指示をちょうだいよぉ!」
「ええ……。だから今、シェルターに避難させてあげたじゃない」
「それはありがとうだけど! ひゃあっ! え、エビルフォックスがすごい勢いで突進してくるんだけど!?」
「そりゃあ、まあ。鋭利な刃物で斬られそうになったら、キツネじゃなくても反撃するよ。僕だってそうする!」
「ひゃああっ!? 怖い、怖い、怖い! 六駆くん! なんかアドバイス! 早く!!」
「莉子の剣幕の方が怖いなぁ。まずね、集中力が途切れるのがまずい。スキルの制御なんて、基本メンタル勝負だからね。気持ちが落ち着いていないと、煌気のコントロールもできないよ。だから、自分の攻撃が外れた時にも安全な状態を作っておく。これが大事かな。そうしたら、気持ちも落ち着くでしょ?」
六駆が珍しく師匠っぽい事を言った。
莉子は根がマジメなため、相手の言う事は全て聞く。
それが判断の遅れになっているのだが、スキルの基礎を学ぶ際には、素早い判断よりも知識の吸収に重きを置くべきである。
「落ち着いて、集中して。……うん。今ならできそう」
「それなら、『空盾』の内側から撃ってみなよ。それ、内側からのスキルは全部通すからさ」
「えっ、そうなの!? 無敵じゃん! すごい!!」
「1回撃ったら割れるけどね! あっはっは!!」
一転していつもの適当さを取り戻した六駆のふわっとしたアドバイスにイラっとしながらも、いい感じの脱力に成功した莉子。
真っ直ぐに目標を定めて、両手をエビルフォックスに向けた。
「……せぇぇぇいっ!!」
「ギルゥアァァァァァァッ」
「おおー! お見事! この程度のモンスターなら、当てさえすれば莉子の煌気でも一発KOだから、とにかく大事なのは集中力だよ」
「はぁぁー。そうは言うけどさ。緊張するよぉ。わたし、今日初めてスキル使えるようになったんだよ?」
「僕は今日初めてダンジョンに潜ったよ」
「わたしもだよぉ!」
「そして、1キロ30万の高級イドクロアを景気よく山ほど爆発させたよ……」
「あ。げ、元気出して! 次があるよ! うん!」
その後、グルグルと御滝ダンジョンの第1層を回った2人だが、低級モンスターに2度遭遇しただけで、その日の探索を終えた。
「いちいち戻るのがダルい」と駄々をこねる六駆が脱出スキル『直帰』を使って、地上へと瞬間移動する。
そういうズルいスキルを早々に使われると緊張感がなくなるので、本当にヤメて欲しい。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おかえりなさいませぇー! チーム莉子のお二方!!」
「うっ。そうだった。パーティーの名前、わたしの名前なんだった」
「良いじゃない。若いんだから、どんどん自己主張して行こう!」
2人を出迎えたのは、本田林。
彼はいつの間にか、チーム莉子の専属係員のようになっている。
人手不足なのに、何と言う忖度だろうか。
そういうのも良くないと思う。
「それで、成果の方はいかがでしたか? あらぁ! すごい! むちゃくちゃモンスターを討伐されているじゃないですかぁ! 御見それしましたぁ!」
「なんでそんな事が分かるのかね」と首を傾げる六駆。
莉子が小声で説明する。
「この装備についてるイドクロア加工石。これ、【記憶石】って言って、倒したモンスターの記録とデータを勝手に収集してくれるんだよ」
「へぇー。便利なもんだねぇ」
「なんと! メタルゲルを大量に倒していらっしゃる! これは、外皮もかなりゲットできたんじゃありませんかぁ?」
「『大竜砲』……」
「やめなさいよぉ! 地上に出てるのにスキル使おうとしないの!」
本田林に強力なスキルを使うなとは言わない莉子さん。
どうやら、心が清らかな彼女でも、深層心理のレベルで人を嫌う事があるらしい。
「それでは、こちらが本日の討伐報酬になりますぅ! お納めください!!」
「ええっ!? そんなの貰えるんですか!?」
「あ、はい。電子マネーで即時振り込まれますよ? どなたの端末に送りましょうか?」
「……はっ! はっ! はっ!!」
「散歩行くって言われた犬みたい……。いいよ。六駆くんに譲る」
「莉子はすごいなぁ! 良い人だなぁ!! ありがとう、愛してる!!」
「はいはい。それはどうも、ありがとう。それで、いくらになったの!?」
「えっとね! 待ってよ! ええと……。8200円……」
「げ、元気出して! ブルーシートで屋根の穴が覆えるじゃん!」
六駆は往生際悪く、本田林に詰め寄る。
納得できない事があったのだ。
「め、メタルゲルは!? あんなに外皮が高いのに!」
「メタルゲルを倒されますと、一匹200円ほどの報酬になります。なにせ、おっしゃる通り外皮が高価ですから! それを敢えて採取しないなんて! いやぁ、傾奇者ですねぇ!!」
「『大竜砲』……」
「もぉ! ヤメなさいってばぁ!!」
こうして、六駆と莉子の濃密なダンジョンの初攻略は、なんだかしょっぱい後味を残して終わるのだった。