テラーノベル
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「――マナ? 大丈夫か?」
ハッと息を飲んで、マナは目を覚ました。
眩しい太陽の光。見慣れたヒーロー一本部の待機室。
パイプ椅子に座ったまま深く眠っていたらしい。目の前には、心配そうに自分を覗き込む同僚の姿があった。
「……あ……俺……」
「うとうとしてたぞ。あの事件以来、ずっと顔色悪かったしな……俺たちもお前に無理させたたって気に病んでるんだ」
「……夢、か……」
マナは胸を撫で下ろした。
あんなに恐ろしい夢はなかった。
みんなの制止を無視して、自分が責任を取るためにライを殺して、冷たくなっていく彼を抱きしめて――。
「……良かった。あんなん、全部夢やん……」
マナは安堵の笑みを浮かべようとした。
ライは今もどこかで呑気に作業をしているはずだ。後で『酷い夢見たわ』って笑い飛ばしてやろう。
そう思って、自分の手元を見た。
そこには。
指の関節の隙、爪の間に入りついて取れない、暗赤色の乾いた血痕があった。
「…………え?」
視線が下に落ちる。
胸のポケットから覗く、使い古されたライのメカニック用工具。
あの日、あのみんなの制止を振り切って向かった現場で、息絶えたライの手から自分が「相棒の遺品」として引き抜いてきたものだ。
「あ……」
声にならなかった。
夢ではなかった。
幻覚でもなかった。
自分は確かに、仲間たちの温かい手すら振り払い、己の正義と責任のために、あの手で相棒の命を奪ったのだ。
『俺の手で殺す。それが俺の責任や』
自分が決めたことだった。
ライを悪党として晒しものにせず、相棒の手で終わらせること。
そのために、自分を心配してくれた仲間たちの言葉すら裏切ったのだ。
「……マナ? どうした? 救助要請だ、出動するぞ」
「……うん。すぐ行く」
マナはゆっくりと立ち上がった。
血のついた手袋をはめ、みんなを心配させないための完璧な笑みを顔に貼り付ける。
伊波ライを自分の手で殺しても。
仲間たちの制止を振り切って自らの心を破滅させようとも。
すべてを背負うと決めた「ヒーロー緋八マナ」の人生は、何事もなかったかのように続いていく。
「行こうか」
澄み渡る青空を見上げながら、マナは胸の奥で小さく呟いた。
(なぁ、ライ。やっぱりこれ、全部夢やったら良かったのにな)
ありがとうございました。
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