カーテンの隙間から差し込む柔らかな光で目が覚める。
ああもう朝か、と寝返りを打った瞬間、温かいものに触れて俺は反射的に目を開けた。
──そこには、穏やかに目を閉じたキースの顔がある。
「──っ……!」
声を上げそうになり、慌てて手で口を塞ぐ。胸が高鳴る音がやけに大きく感じられた。
そうだ、俺……キースと……。
昨夜のことが一気に頭に蘇り、耳まで熱くなるのを感じる。
キースの唇、指……触れるたびに熱を帯びる自分の身体。戸惑いながらも、その感覚が決して嫌ではなかったことを思い出してしまう。
こうして一緒のベッドに寝るのは初めてじゃない。
子供の頃、嵐の夜にはキースが俺のベッドに来てくれたり、逆に俺が彼のベッドに潜り込んだりしていた。でも、あの頃とは……全く違う。
──これは、兄弟としての接触じゃない。
静かに眠るキースの横顔を見つめながら、俺は小さく息を吐いた。
その寝顔は、変わらない。昔も今も、俺の心を不思議なほど穏やかにさせてくれる。
「……男とか、無理だと思ってたんだけどなぁ……」
ぽつりと呟いてみる。でも、今は──。
見つめるたびに湧き上がる感情は昨日とも違っていて……。
心の中でそっと確かめる。キースへの親愛と、それに重なる情愛の違い。
──蓋を開けてみれば、結局性別なんて些末なもので、心の問題だったな……。
そう思うと、何かがふっと楽になった気がした。
なんとなはなしに、キースの髪にそっと触れたときに、控えめなノック音が聞こえて俺は扉の方に目を向ける。
控えめに顔をのぞかせたのはアンだ。俺と目が合うと、彼女はて唇を無音で「リアム様」と動かす。アンの様子から、どうやら俺だけに用があるらしい。
俺はベッドからキースを起こさないよう慎重に抜け出し、アンのもとへ向かった。
「すみません、リアム様……ちょっと火急にお渡ししたいものが……」
アンは潜めた声で言いながら、薄いクリーム色の封筒を差し出す。
「誰から……?」
「レジナルド王太子殿下です」
レジナルドから──その名前に、甘い想いが一気に緊張に掻き消された。
……ディマスのことだろうか?
封蝋には王家の紋章が刻まれており、表書きには俺の名前が記されている。慎重に封を切ると、中には簡潔な文面が並んでいた。
『今夜、他の誰にも知らせず王城の東の塔へ来てほしい。君と二人で話したい。迎えの馬車はこちらで用意する』
その一文が目に飛び込む。
なぜこんな秘密裏に?理由を考えるが、恐らくディマスの件だとは思うが、文面から明確な答えは浮かばない。
ただ、わざわざこのような形で手紙を送ってきたからには、ただ事ではないのだろう。
「……何か……」
「リアム様?どうされましたか」
俺の小さな呟きに、アンが心配そうな視線を向けてくる。
手紙には『他の誰にも知らせず』とある。レジナルドの意図は分からないが、王家の紋章が封蝋に刻まれている以上、少なくとも詐欺や策略の可能性は低い。王家を騙る行為はこの国では重大な犯罪だ。
「……今度またお茶会をするから来てほしいって」
俺は努めて笑顔を作りながらそう伝えた。アンは「あら」と驚き、少し安堵したような表情を浮かべて仕事に戻っていった。
部屋に戻ると、ベッドの上で眠るキースが目に入る。
彼にこのことを知らせるべきだろうか……。
だが、何もかもキースに頼ってばかりでは、俺はただのお荷物だ。
「……少しでも、力になりたい……」
自分に言い聞かせるように呟く。そして結局、俺は招待状の指示通り、誰にも言わず王城に向かうことを──選んだ。
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