街を出たレビン達。二人は依頼を達成する為に依頼の薬草が生えている場所を目指していた。
「ククリソウっていう薬草なんだけど、生えている場所が僻地なんだよね」
「そうなの?でも特徴は抑えたからククリソウ探しは任せて」
「ありがとう。その僻地に行く時に通る村があるんだけど、今日はそこを目指すよ」
「わかったわ。頑張りましょうね」
依頼、目的地、ルートはレビン任せだったが、実務である薬草探しは私の出番よと息を吐き、ミルキィはレビンに自信を持って応えてみせた。
出立から暫くの時が経ち、ミラードの街から山を一つ越えた所にある山間の村付近に、二人の姿はあった。
「見えた!あれがダド村だよ!」
二人の視線の先には、3メートル程の高さで揃えられている木の柵に囲まれた小さな村があった。
柵の外側には空堀が掘られていて、魔物対策がされていた。
夕刻前、まだ開いている門に向かい、二人は歩き出した。
門の前に人がいたので、これ幸いと声を掛けることに。
村人は帯剣している二人を視界に捉えたが、二人の見た目が幼い所為か、そこまで警戒はしていないように窺える。
「こんにちは。僕らはミラードの冒険者ギルドの依頼を受けて、この村の近くにある薬草を探しに来たのですけど、明日の朝まで柵の中で過ごさせてもらえないでしょうか?」
「若いのにこんなところまで二人旅とは大変だな。タグを見せてくれるか?」
ここは小さな村でギルドの出張所などないが、冒険者の制度は知っているようで、二人は男の言葉に従いタグを見せることに。
「15歳で銀ランクとは凄いな!もちろん入って良いぞ。その代わり魔物が現れたら頼むな!後、あそこが村長の家だから挨拶だけはしといてくれ」
男は冗談混じりに二人にお願いをした。
もちろん、二人が銀ランクだということには冗談なく驚いていた様だが、二人もそれが世間話の延長のおべっかだということは理解して、笑顔で返事をして門を潜った。
「良い人だったね!」
「そうね。あんな人ばかりなら、この職業も頑張り甲斐があるわね」
二人は善人だが、聖人ではない。
嫌な人は嫌なのだ。人助けはしたいが、出来たら心から助けたいと思った人を助けてあげたい。そう思う程度には、二人はちゃんと人であった。
「すみませーん」コンコン
二人は男に言われた家に着き、木の扉をノックしながら声をかけた。
村長宅は決して立派な家ではない。
しかし、家の壁に穴が空いているとかはなく、標準的な木造二階建ての家だ。
村が柵に囲まれているという事は、魔物が近くにいるということである。もちろん人が住める程度である為、危機的な状況ではない。
柵に囲まれているので村の面積が決まっており、そういった村では家は必然的に二階建て以上となる。
二人の故郷のナキ村は獣避けの簡易的な柵はあるが、簡易的故に簡単に拡張することが出来る。
その為、ナキ村では平家も多く存在する。
「はーい。どちらさまでぇ?」
ガチャ
少し訛った返事とともに開いた扉から出てきたのは、一人の老人であった。
「僕たちはミラードの冒険者ギルドの依頼で、この近くにある薬草を採取に来た者です。そこでこのダド村の柵の中で泊まっていいのか門の人にお伺いしたところ、村に入れてもらえたので村長さんに挨拶に来ました」
「ありゃまぁ!可愛らしい冒険者さんだこと。中って何処に泊まるつもりなんだぇ?」
「えっと…門の近くの邪魔にならない辺りに寝袋で……」
恐らく村長夫人と思われる人物に話をすると、村長に中々取り次いでもらえなくて、若干戸惑い始めるレビン。
「それはいけねぇだ!」
「えっ…いけませんでしたか?では村の外で…」
「家に泊まっていきなされ。年寄りの一人暮らしだから部屋はあるでのう!さあ、遠慮せず上がりなされ」
レビンは断られたと思い、村の外で野営しようと考えたが、どうやら思い違いであったようだ。
「えっ?…一人暮らし?」
「そうさね。旦那様を亡くしてからはずっと一人だでのぅ」
どうやらこの老婆が村長だった様だ。
「良いのですか?」
「そったらこと、子供が気にせんでええ!さっ。はよお上がり」
レビンとミルキィは一応成人しているが、老婆から見れば子供である。
ほぼすべての人が……
「お、お邪魔します」「お邪魔します」
レビンが泊まると決めたのなら、ミルキィに否は無い。
二人が通された2階の部屋はベッドが一つしかないが、元々野営のつもりだった為、寝床があるだけで有難いと思った。
荷物を下ろした後、呼ばれていた為、一階のリビングに向かう。リビングに着くと、そこには先程の老婆の姿があった。
「すまんのぉ。息子がいた部屋じゃからベッドが一つしかないでのぉ」
「いえいえ!屋根があるだけで有難いですよ!」
「お婆ちゃん有難うございます」
初めて自分と目を合わせて言葉を発したミルキィを見て、村長が固まる。
「な、な、なんと美人な…」
自身の容姿を褒められて頬を染めるミルキィ。
普段から褒められてはいるが、同性から誉められる事は少ない上に、老婆の驚愕具合にさらに照れてしまった。
「すまんのぉ。こげな田舎にはお嬢ちゃんみてぇな別嬪さんはおらんでなぁ。
息子が結婚してねかったら、嫁にほしかっただなぁ」
「息子さんはどちらに?」
「息子は村におるでのぉ。嫁さんと子供二人で暮らしとる」
どうやら自宅へと二人を泊める事にしたのは、レビン達を不憫に思っただけではなさそうだ。
村長宅で晩御飯まで頂いた二人は、就寝前に話をしていた。
「寂しかったのかしら?」
「そうだね。何十年も連れ添った旦那さんが亡くなってずっと一人だと、いくら息子夫婦と孫が同じ村に住んでいたとしても寂しいのかも」
寂しかったのかは置いておくとしても、レビン達が助かったのは事実。二人はこの小さな村の村長に感謝しながら、何故だか懐かしい気持ちを抱えて眠りについた。
ちなみにベッドはミルキィが使い、レビンは床に寝袋を敷いて寝た。
それにミルキィは少し不満だったが、諦めて休む事にした。
「はい。終わったら戻ってきます」
翌朝、日の出と共に村の門から出発しようとしているレビン達に、村長が声を掛けてきた。
「んだ。そうしてくれねぇと、この年寄りはいつまでも待ってしまうでなぁ」
依頼の品を手に入れたら顔を見せに戻ってくる事を約束して、二人は村を出た。
老婆は二人の姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。
「まさかあの門にいた人が息子さんだったなんてね」
「そうね。最初に言ってくれればよかったわ」
あの門の男は村長の息子だった。小さな村だからこそこういう事もあるよねと、二人はお喋りしながら目的の場所へと向かって進む。
山間の村を出発して少し、目的地の森を前にした二人は、依頼の薬草を探す事にした。
「確か赤い茎に白い葉で根っこは黒色だったよね?」
レビンが確認の為にメモを探しながらミルキィに問いかけたが、そのミルキィから返事がない。
(めちゃくちゃ集中して探してるぅぅう!?)
有難いのでレビンは放っておく事にした。
1時間ほど探すと、漸く目的のモノを見つける事が出来た。
「一つも見つからないと思ったら、群生する物だったのね…」
「そうだね。でもこれで依頼は完了だね!」
一つ見つけられると、もれなく複数手に入れられる様だ。
依頼者の規定本数分を採取した二人は、他に用事もないので村へと戻る事にした。
村までの帰り道、レビンは何かの気配を感じた。
「何かいる」
人差し指を口元に持っていき、隣を歩くミルキィへと小声で話しかけた。
「あれは…フォレストボアだ…」
気配の主は、全長4mはある巨大な猪の魔物だった。
無言で腕を斬りつけたレビンを見て、躊躇なくミルキィは血を吸った。
別段、吸血衝動には駆られていないが、レビンの血はミルキィにとって、抗い難いものなのだ。
「ミルキィは隙があれば攻撃して。正面には絶対に立たないでね」
ミルキィが頷いたのを確認し、レビンは足元に荷物を降ろし、フォレストボアの元へと向かっていく。
ミルキィは猪の後方へ回ったレビンを確認した。
レビンは猪に向かい忍足で近づく。猪まで後5mの距離になると、レビンは腰を落とし脚に力を溜める。そして、それを爆発的に解放した。
「うぉぉお!!」
ザシュッ
気合い一閃。一瞬で猪までの距離を縮めたレビンは、気合と共に愛剣を全力で振るった。
『プギィッ!?』
レビンの剣は、猪の腹部を深々と切り裂いた。
傷の深さは相当なもの。臓物がこぼれ落ちるが魔物はそれに気付くことはなく、レビンへと向かう。
ミルキィは自分が死角に入ったのを確認し、魔物へと向かい飛び出した。
ザンッ
バタァッン
森に大きな音が響き渡った。
魔物はレビンからトドメの一撃を貰い、力無くその巨体を大地に沈めた。
「もうっ!折角援護に行ったのに倒しちゃうんだから!」
「ごめんごめん!向かってきたから全力で剣を振り下ろしたら倒しちゃった!」
どうやらミルキィの薬草探しは不完全燃焼に終わったようで、この戦闘で鬱憤を晴らすつもりだったようだ。
しかしこの戦闘では何の活躍も出来ず、不必要な苛立ちが久しぶりに顔を出してしまった。
「それで?レベルはどうなのよ?」
「うん!しっかり上がってるよ!」
レビンの手に握られた銀色のタグには『レベル7』と刻まれていた。
「銅ランク以上推奨の魔物だったからレベルももっと上がるかと思ったけど、もしかしたらレベルは1ずつしか上がらないのかもね」
「そうね。ドレインも一度に一つだからそれでもいいわ。一度に吸血し過ぎると、レビンが貧血になってしまうわ」
フォレストボアの解体を済ませた二人は、村長に良いお土産が出来たと、気分良く村へと帰っていく。
村の方角から昇る、明らかに異常な大きさのの煙を確認するまでは。
レベル
レビン:7→6→7(41)
ミルキィ:33→34
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