テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
C_chan @小説コン開催中
#じゃぱぱ
ら む ね _ @暇人
2,974
ちあ”
36
アイドルは、希望を与える存在だ。
そう教えてくれたのは、私の相方で、大事なパートナーで、かけがえのない存在である、naという1人のアイドルだった。
「et彡っ!アイドルなんですから、いつでも笑顔、ですよっ!」
na彡はいつもみんなの太陽だった。
その場にいるだけで雰囲気を明るくして、初めましてでも自然と仲良くなれる。入社したばかりの職員は、はじめに『deux《ドゥー》』の現場に回される、と言われるほど。
それに比べて、私は感情をうまく表に出せず、無愛想だと嫌われてばかりだった。
アイドルになってからはクールビューティーで通せたけれど、それ以前の自分のことなんて思い出したくもない。
「あ!et彡っ!一緒にご飯行きましょ!」
だから、無条件で私を慕って後ろをついて回るna彡には、はじめは不信感を抱いていた。
それでも、いつも笑顔を絶やさず「アイドル」でいる彼女は、とても眩しかった。そんな彼女を好ましく思ったから、ユニット結成を受け入れた。
「ほんとに!?et彡と、アイドルが出来るんですか!?」
ユニットが決定したとき、na彡は大袈裟なほど飛び跳ねて喜んでいた。彼女は私の手を握って、大きく振りながら、誓いをした。
「ぜーったい!『deux』を、世界一のアイドルユニットにしましょうね!」
そのときの笑顔が美しすぎたせいだろうか。私は、自然と頷いていた。
「そう、だね」
彼女とのアイドル活動は楽しかったし、驚くほど順調だった。『deux』という名前をもらった私たちは、爆発的に人気が出た。夢だったドーム公演も決まって、幸せの絶頂にいる、そんなとき。
彼女が、na彡が、死んだ。
突然の訃報だった。交通事故だった。
相手の不注意で歩道にいたna彡に突っ込んで、na彡は即死だった、らしい。
棺に入れられたna彡を見ても現実味が湧かなくて。 na彡の唇に引かれた真っ赤な口紅を見て「na彡には、赤よりオレンジの方が似合う」なんて考えていた。
「et……その、明日からの仕事は…」
マネージャーが気まずそうに聞いてくる。きっと、na彡のことだろう。でも、立ち止まっていられない。ドーム公演だってあるんだから。
「出るよ。na彡の分も、夢を叶えなきゃ」
「そっか、じゃあ予定はこのままにしておくね。……休みたくなったら、いつでも言って」
どうしてかはわからない。na彡の死を受け入れられなかったのかもしれない。私は、何かから逃げるように仕事に没頭した。
歌番組、バラエティ、なんでも出た。na彡がいた頃と変わらないように、みんなが応援してくれた『deux』でいられるように。
そんな私を襲ったのは、ファンからのとあるコメントだった。
公式チャンネルにあがった、歌番組の歌唱シーンをまとめた動画。その動画には、ふたりの『deux』もひとりになってしまった『deux』もどちらの姿もあった。
『naちゃんが死んだのに、et彡って変わんないよね』
何気ないコメントだったんだと思う。ふと思ったから、言葉に残しただけ。だが、そのコメントをきっかけに、『deux』は、私は、一気に炎上した。
長年のパートナーが死んでも心を動かさない、冷徹な女。 憧れた、ふたりの『deux』を返せ、とどんどん炎は広がっていく。
na彡の死は、私が人気を独り占めしたくて招いたんじゃないか、なんて陰謀論すら飛び交った。
「et、本当に大丈夫?」
心配そうなマネージャーに、気丈に笑ってみせる。事務所がいくら動いてくれても一向に収まらない炎は、少しずつ私の心を蝕んでいた。
「大丈夫だよ、マネージャー。私なら、大丈夫。」
どこか自分に言い聞かせるように、そう言った。『deux』のドーム公演まで後少し。弱音なんて吐いていられない。
そうして立った歌番組のステージの上。
声が、出なかった。
いくら歌おうとしても、喉を引き裂くような、か細い音が鳴るだけ。会場のファンたちからの視線が刺さる。
あれ、ステージって、こんなに怖い場所だった?
気づけば私は、意識を手放していた。
次に目を覚ましたとき、私は病院のベッドの上だった。
「et。向こう2週間は休みをもらった。お願いだから、ゆっくり休んで」
泣きそうな声でマネージャーが言う。添えられた手を振り払って叫ぶ。
「駄目だよ、休んでられない!ドーム公演だってあるのに…ッ!」
マネージャーは今度は力強く、私の手を握った。撫でるように、諭すように。優しい声色で、絶望を告げた。
「ドーム公演は、取りやめになった。今のあなたじゃ、ファンは喜ばない」
心が、折れる音がした。
そこから何があったのかはあまり覚えていない。マネージャーが帰って、お医者さんが来て。私を診て、次の日には退院して家にいた。
ずっと仕事ばかりだったから、家に帰って来たのは約一ヶ月ぶりだった。
壁には『deux』の、na彡と私のポスターが飾ってある。気を紛らわせようと、テレビをつける。ビデオデッキに入ったままだった、『deux』のライブ映像が流れた。
あぁ、私は。na彡に、『deux』に。支えてもらって生きていたんだ、と実感した。
「……帰ってきてよぉ、na彡っ…」
声をあげて、情けなく泣く。返事なんてあるはずがないのに。
ふと視線をあげた私の目に、引っ越しのときに使ったロープが映った。
あぁ、そっか。ひとりきりになった『deux』を望む人は1人もいない。na彡のいない世界に、望まれない私にはなんの価値もない。
ロープに手を伸ばす。椅子を置く。梁にロープを括り付ける。ゆっくり、でも確かに人生を終える準備をした。
「あは、こんな部屋で死ぬのもさ…私らしいって、言ってくれる?」
そうして足を離そうとした、その瞬間。
なにかに、そっと抱きしめられた。
目には見えない。けど、匂いが、空気が、 雰囲気が。体で感じる全てが、確かにそこにna彡がいると、訴えかけていた。
耳元で、優しいあの声がする。
「……なんでよ、なんで今さら…。遅いよ、na彡…っ!」
視界が歪んだ。また、声をあげて泣く。今度は、背中にあたたかい気配があった。
「na彡、これからも、そばにいてよね。ふたりで『deux』、ふたりで世界一のアイドルユニットになるんでしょ?」
それから、数年後。私は控え室で、ゆっくり深呼吸をした。
「緊張してる?って…してるに決まってるじゃん、夢のドーム公演だよ?」
鏡の前のna彡に、オレンジ色のリップを塗る。にこ、と笑ったna彡に、私も笑いかける。
ステージはもう怖くない。
「やっぱりna彡には、オレンジが似合うよ」
コメント
3件
え〜と…とにかく悲しい(´;ω;`) めっちゃ切ない…(´;ω;`) 私はバカだから分からないけど…えとさんがna彡になりきってる?…
どうなるの…
うわああああ、第1話からエモすぎて泣いた😭💕 na彡の太陽みたいな存在感と、et彡の孤独な強がり、そしてオレンジリップの伏線が最後に刺さる…! 「ふたりで『deux』」って言葉がもう尊すぎて、胸がぎゅってなったよ。続きが気になりすぎる、推し確定です🌸✨