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その日、最後の打ち合わせを済ませたティナは異星人対策室の面々と穏やかに過ごしながら夜を過ごした。
そして翌朝、運命の国際会議当日。用意された部屋でゆっくりと休んだティナは、手早く身支度を済ませた。
「あー、なんだか緊張してきた」
『地球の首長達が集まる会議の場なのです。多少の緊張は理解しますが、恐れる必要はありません。地球が団結したとしても、アードには遠く及ばない文明なのですから』
「だからって、見下したりはしないよ。誠意をもって……先ずはセンチネルについて共有しないと。アリア、同時通訳で大変だとは思うけど」
『問題ありません。会議に参加する地球人の言語は全て把握しています。同時翻訳を行いますので、ティナは普通通りに喋ってください』
「ありがとう。英語だと間違って伝わる可能性があるから」
今回の会議に通訳は同席しない。アリアのサポートで参加者それぞれの母国語に同時翻訳されることになっている。
つまり、ティナはアードの公用語を喋っているが日本国には日本語、アメリカ人には英語で聞こえる。センチネルに関する情報を極力漏らさないようにとの配慮だ。
「フェルは?」
『マスターフェルはまだお休み中です』
「ありゃ、珍しいね。フェルには頑張ってくるって連絡しといて」
『畏まりました』
同時にドアがノックされ、メリルが声をかけた。
「ティナちゃん、時間よ。準備は出来ているかしら?」
「はーい、今行きます!行くよ、アリア」
『畏まりました、ティナ』
ニューヨークにある国連本部の大会議室。ここは国際連合の中心地であり、アメリカが主催する各国首脳を招いた国際会議が開催される。
参加国の首脳陣は既に現地入りしており、会議に先立つ最終調整や各国への根回しを行っていた。
そして。
「先ずは急な決定にも関わらず参加してくださった皆様に感謝の意を表明します」
会議が始まり、ハリソン大統領が壇上に上がって首脳達を見渡す。今回は100ヶ国以上が参加しており、中華やロシアなどアメリカと友好的ではないとされる国々も会議に参加していた。
「地球の未来が掛かった重要な会議と言われたからには参加しないわけには参りますまい。まあ、急なことでしたので些か調整に手間取りましたがね?」
賛意を示しつつもチクリと刺してきたのは、イギリス首相である。
「無論、我が国が無理を言ったのです。相応の誠意は示させていただきますよ」
「それを聞けて安心しました。手ぶらで帰っては官僚達に恨まれてしまいますからな」
「それで、此度の会議はどの様な案件で?安保理で図るのではなく、わざわざ首脳を集めたのだ。余程な案件であると推測するが」
本題を切り出してきたのは大国ロシアの大統領である。数十年前にヨーロッパで引き起こした戦争で発言力を著しく低下させているが、今も尚大国として地球に君臨している。
「そうですな、皆さんご多忙の中集まっていただいたのです。前置きはこの辺りにして早速本題に入りましょう。先ずは、ゲストをお招きしよう!」
ハリソン大統領が大袈裟な身振りで振り向く。誰も居ない壇上に突如幾何学的な模様の魔方陣が現れ、ティナが現れる。
これには事前に知らされていたイギリス、日本以外の首脳達も驚きを隠せずに居た。
「初めまして、地球の皆さん。アードからやって来ました、ティナです!」
ティナはそんな彼らに笑顔で挨拶を行う。同時にアリアが瞬時に翻訳を行い、各国首長の耳には母国語が聞こえ、その事も彼らを驚かせた。
「皆さん静粛に、今回の議題は先月より交流が始まったアードに関する案件です。別の惑星との交流ですから、国家単位ではなく地球単位での対応が必要不可欠となります。皆様にはこの場で正式に協力を要請します」
「アメリカが対応を独占している現状で協力要請とはナンセンスですな」
予想通り噛みついてきたのはロシアの首相。だが、中華の黄卓満国家首席は不気味な沈黙を護っていた。
「もちろん現状が不公平であるとのご意見は重く受け止めております。我が国が仲裁する形でティナ嬢の各国訪問や会談などを調整しておりますので、しばしお待ちください。何より優先すべきは彼女の意思ですからな」
「私も地球のあちこちを旅して回りたいと思っています。今はまだ無理でも、いずれは地球にアード人を連れていきたいんです」
「それは素晴らしい、その時は是非我が国に。花の都パリを案内しましょう」
早速とばかりに甘いマスクのフランス大統領が早速自国をアピールした。
「ならば我が国も!」
「是非我が国に!」
「いいや!我が国を!」
これを皮切りに一斉にアピール合戦が開始された。
「皆様静粛に!アピールについては別途時間を作りますし、ティナ嬢も困惑してしまいます。落ち着かれてください」
「いやー、凄いなぁ」
ハリソンがなんとか場を納めたが、皆の熱意にティナも苦笑いを浮かべた。しかし世界が関心を寄せてくれていることがよく分かったので、今後の交流活動に前向きな気持ちになれた。
同時にティナ本人としては特別な扱いなどを期待していない、むしろ控え目な扱いを望んでいるがこの反応では国賓待遇が変わることもないと確信でき、内心ため息をついた。彼女はどこまでも庶民的な感性の持ち主なのだ。
「ティナ嬢、つまり異星人関係の議題であることは理解できた。アメリカが独占している現状を変えるつもりがあるならば、反対するつもりはありません。それで、具体的な内容は?ただ訪問についての連絡のために招集した訳ではありますまい?」
「仰有る通りです。今回通訳はもちろん秘書すら同行をお断りしたのは、皆様とある事案についての情報を共有するためであり、これはティナ嬢からの要請でもあるのです」
「ほう、ミス・ティナの要請ですか。興味が湧きますな」
「ただ、内容は極めてショッキングなものであり公表は控えて頂きたいのです。世界に無用な混乱を引き起こすことになるでしょう」
「それ程までの案件なのですか」
ハリソンの言葉に皆に緊張が走る。だが、誰もが表向きは穏やかなものだ。国を率いる重責を日頃から担っている首脳達の胆力は生半可なものではない。
「では、ティナ嬢」
「分かりました」
ハリソンに促されて再度壇上に立つティナ。彼女は一度大きく深呼吸をして、静かに語り始めた。
「皆さんにお伝えしたいこと、それは全宇宙の脅威、センチネルについてです」
センチネルの存在が初めて地球の首脳達に明かされた瞬間である。