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キャプション必読です。
※R-16
うるさい。隣に人が引っ越してきてから、ここしばらく。ベランダに出れば歌が聞こえ、部屋に篭れば飯を作っただのなんだので凸ってくる。
ほら、噂をすればなんとやら。彼の歌が聞こえてきた。
「Вставай, проклятьем заклеймённый,
Весь мир голодных и рабов!」
…ベランダ越しに聞こえるのは、ソ連革命軍の歌。
「……やかましい、革命なら他所でやれ!!」
「あ、おはよう日帝」
この平和な世の中。世間からほっぽり出された旧国は、窮屈なアパートで暮らしていた。
「そもそもソ連が隣に引っ越してくるなんて聞いていなかったのだ」
「そりゃ旧国内の企業秘密だったからな」
「私も旧国だが?」
「お前は自衛隊に顔出してるじゃねぇか、万が一を考えて聞かされていなかったんだろ」
それならそうと、わざわざ隣人にはしないで欲しかった。そう目の前で溢すのは俺のお隣さんであり、毎朝怒声を飛ばしてくる日帝だ。
しばらくはロシアのところで匿ってもらっていたが、アパートに空きが出たためわざわざ引っ越してきたというのに、それがこいつは気に食わなかったらしい。全く、ロシアの家から追い出されたもの同義なのに寂しいものだ。理由を聞いたって、俺が迷惑な行為をしているから、と本人は言い張っているが自身にとっては日常。当たり前のことしかしてない。何が悪いんだよ、お前の感覚がおかしいんじゃねぇの。
「もう良いから、変な料理を持ってくるのはやめてくれ…流石の私でも、真っ青なカレイライスは受け付けない」
「あれ美味いんだよ、一回食ってみろよ」
「食欲が出る見た目にしてくれ、せめてだ」
思い出したのかうっぷと口を押さえて視線を泳がせている。失礼だろ俺に。
けど、そんなこいつの顔も悪くねぇ。国の化身として表舞台に立ってたころから随分と丸くなったお互いに苦笑しつつ、本日のメニューを提案する。
「今日はボルシチにしようと思うんだ。お前も食べに来るか?」
ボルシチ、と言った瞬間に眉を上げ、目をかっ開く食いしん坊は二つ返事でДаと言う。個人的にはロシア料理と日本料理を混ぜたオリジナルを作るのがブームだが、それはこいつに不評らしい。真っ赤なカレーだって、ボルシチを混ぜたと言うのに。同じ料理でもここまで反応が違ってくると、研究対象として確保したくなる。
「そうなれば必死でお前を殺すさ」
「あ、声に出てたのか? てか、逃げろよ。殺すな」
「私は撤退などしない」
「戦略的撤退だろこれは」
頭が硬ぇな、と一言言い返せば図星なのか、言葉を詰まらせる。ぐぬぬ…と後ろに錯覚かは知らんが日本語が見えて吹いてしまった。すると、手刀が飛んでくる。それを瞬でかわせば、あとは逃げるが勝ち。スタコラサッサ〜と笑いながら全力でドアを開けアパートの廊下を疾走すれば、同じ速度で着いてくる日帝。
しかし、今日はなんだか殺意が高めだ。流石にこのままでは命が危ないと思い、一周回ったところでナチスの部屋に突撃する。
「ナチっ!! 俺を助けろ!!!」
「死ね」
「ガッ」
ドアを開けた途端に腹へパンチがお見舞いされた。何故だ、何故こんな酷いことをする!としっかりナチスを見てみれば、裸のイタリア王国が後ろに見えた。あ…と声を漏らしたが最後、追いかけてきた日帝から頭をかち割られる。いや、実際にはタンコブ程度なのだろうが、脳みそがガンガン言っている為人間なら即死だろう。
「いってぇ…クソ、Uターンd」
「させるか」
次の行動を声に出すとかバカなのかと貶されながら首根っこを掴まれる。俺は犬か。
「離せ! クソチビ!!」
「はっ!?」
「あーあ…」
「良いから帰れよお前ら」
ナチが電話を片手に呆れている。…電話?
「国際連盟に苦情の電話入れておいたから、もう二度と私の敷居を跨げると思うなよ」
「おい、それは私も対象なのか!?」
別に咎められたって普通に入る俺とは違い、約束事は守る日帝。友人の家に入れないのは酷だろう、そんなまさかありえないと一掃する。俺が。
「何故貴様が回答するんだ」
「ナチが日帝を追い出すとか考えられねぇだろうが」
「一度追い出してなかった? ほら、日帝がナチのクーヘン食べた時」
「あれは私に非があるわけじゃない」
「あるだろ」
「あるんね」
俺の料理は食ってくれない事の方が多いのに、ナチお手製のクーヘンは食べるのか。何が違うんだろう。一層訳が分からなくなったが、雑談で日帝の怒りは治ってきているらしく、手に力が集中していないのを見れば、もう臨戦体制は取らなくて良いだろう。自分もリラックスした途端、今度はチョップが首に来た。
「ガッ」
「油断した者から負けていく。基本だろうが」
体制を崩しちまった。ちとばかりイライラしながら上を見れば、したり顔の日帝が視界に入る。危うくグーパンで殴るところだった、流石に俺が自衛隊の化身に暴力沙汰を起こすと国際問題不可避だ。こういうのを分かってながら喧嘩してくるものだから、こいつはズルいなぁと思う。
「ひと段落着いたか? じゃあ帰れ」
「そんな殺生なこと言うなよナチスくん」
「気持ち悪いな」
「日帝も一緒にヤる? ioは別に構わないよ」
ヤらん。と呆れ顔をしながら俺を連れて日帝は部屋を出る。お互いに白濁まみれの二人にツッコミを入れなかったのは、見慣れたからだろうか。それで雑談を始めるナチとイタ王を一周回って尊敬する。嘘だ、頭おかしいんじゃねぇの。
廊下に二人並んで、トボトボと歩く。向かう先は日帝の部屋だ。
「…なぁ、誘いを断ったのは、俺がいたからか?」
「はァ?」
「お前、枢軸の奴らと普段は発散し合ってるんだろ。噂になってる」
「はぁ!?」
怪訝そうに顔を顰めていたのが、今度は訳が分からないとあっけら顔をしている。今日は珍しく表情がコロコロ変わるな。
「そんな訳無いだろう!? ヤり合ってるのはアイツらだけであって、私は一切関与していないわ!!」
それにしたって目が泳いでいる。絶対黒だろと思いながらも、それを言葉にすればまた殺されかねない。大人しくしておくほうが吉だろうか、だが俺にそんな大人びた精神力は備わっていない。
「ダウトだな」
「死ね」
今日は一日、追いかけっこで終わるかもしれねぇ。
「うまい! これは中々美味だぞ、ソ連!」
「そうか? 口に合ったなら何よりだ」
ルールその一。時間が合えば、夕飯は必ず一緒に取る。
「ソ連…水がもう無いぞ」
「マジ? 買ってくるわ」
「頼んだ」
ルールそのニ。お互いが消費する物は共有貯金から出す。
「…行ってくる」
「待て俺も混ぜろ」
「無理に決まってるだろうっ!? 私だけなら兎も角、ナチやイタ王だっているのに!」
「いけるっ! ナチ達なら許す!」
「戯けが!」
ルールその三。仲間外れは御法度。
これが、俺たちの決まり事だ。
「そもそも貴様が部屋を破壊しなければ、こんなにも面倒くさい事にはならなかったというのに」
「いやぁ、脆い構造にした国連が悪い」
「…」
1週間前。俺の部屋で枢軸と一緒にUNOをしていたら、負けが悔しくて壁に怒りをぶつけた。それだけであの弱い脆弱な部屋は最も容易く壊れたのだ。それからというもの、修復が完了するまでは日帝の部屋で居候させてもらっている。
「はぁ…この馬鹿力め…」
「人の事言えねぇだろお前」
「力加減は心得ているわ馬鹿者」
「いてっ」
頬にデコピンされた。痛い。どこが加減だよ、充分赤くなってるっつうの。
なんてボチボチ愚痴を目の前で溢していると、日帝が目線を上に向けた。別に所謂『気まずい』瞬間でも無いのにどうしたものかと同じところを見れば、冷房の電源が点滅していた。
「待て待て待てよ、おい待てよ」
「落ち着け。ただの点滅だ、だからこの暑さは気のせいで」
「そうだよ、思ってたんだよ、暑いんだよこの部屋! 何度あるんだ!?」
「心頭滅却すれば火もまた涼しと言うんだ…落ち着け」
「根性論やめろ!!」
寒いのは得意だが、暑いのにはめっぽう弱い。まだ日帝の方が慣れているだろうが、そんな奴でさえ汗をダラダラと流しているのだ。俺が耐えられるはずも無いし、暑さを言葉にされてからは身体中の水分が急速に蒸発しているような気さえしてくる。あぁどうしようか、とりあえず涼みに近くの部屋に入ろうかと相談していると、管理人である国連がドアを蹴破ってきた。おい、日帝の部屋だぞ。
「ソ連、日帝! 無事でしたか!」
「おい国連…お前、俺らを殺す気かよ」
「何故冷房機が働かないんだ。お前の差金か?」
まさか、と顔を引き攣らせながら国連は申し訳なさそうに事の顛末を説明してきた。
「ふーん…つまり、だ。貴様の注意散漫が原因か」
「いや、そういうわけでは…」
「認めろよ、管理不足だって。ここで殺してやるから」
「怖い事言わないで下さい…」
冷房管理室と呼ばれる部屋があるのはここの入居者なら皆知っている。その部屋がここ数日の高温にやられてしまい、小さな爆発が起こったのだとか。そこにも冷風を当てておけば済んだ話だろうに、こいつはどれだけ金が無いんだ。世界中からお涙頂戴で貰っているだろうに。
「申し訳ないです…日帝、ソ連。部屋は僕が用意しますので、暫くは他の場所で暮らしていただきたく…」
「は?」
「ひぃ…」
今まで見た事ないような顔…日帝の家では般若と呼ぶはず。そんな仮面を貼り付けて国連の正座している足を踏み躙った。圧の暴力。
俺もそれに加勢し、首根っこを掴んで気道を狭めていく。ゆっくりと力を加えれば、国連がカヒュカヒュ言い出したためとりあえず解放してやる事にした。
「し…死ぬ………。はぁ、酷いですよお二人とも」
「そう簡単に機構など壊れん。もういい、さっさと涼しい別部屋を用意しろ」
「あ、しっかりと日帝とは同部屋なんだよな?」
「は?」
「それはもちろん」
「はァ?」
こめかみに手を当てながら、今度は大きな溜息を吐く。普段の日帝に戻った。
兎にも角にも、その部屋とやらを紹介してもらわなけらばならない。この高温の部屋に長時間居るのも気が滅入るし、さっさとしろと続きを国連に促す。
「そうですね。僕も正直、ここに長居したくはありませんし」
「貴様のせいだけどな」
「そう言ってやるなよ、半殺しで済ませようとしてるんだから」
「え?」
終わらない平行線の雑談。日帝が痺れを切らしかけてるのを横目に、国連は『こほん』と前置きを置いて話し出す。
「ソ連、日帝よ。私たち、機構が用意したホテルで三週間を共に過ごしなさい」
「「三週間!?」」
「待て待て、追いつかないぞ。何故そんなにも長いのだ。所詮、長くても五日程度だろう」
「俺は日帝といられるから良いが、それにしたって長い。流石に知らない土地で数週間過ごすのは骨が折れるぞ。…まぁ、日帝となら…?」
「私に絆されるな馬鹿者!」
間のない会話にストップ! と大きな声が部屋に響く。音源の国連は、にぱりとそれはもう可愛らしい、そして上品な笑顔を浮かべてこう言った。
「業者が混んでるんです、我慢なさい」
「「ふざけんな」」
彼奴がドジなのは、今に始まった事ではない。ケチなのも、案外情に浅いのも。それにしたって、こんなデカブツと三週間も共に過ごせと言うのは鬼畜野郎としか表しようがない。
「デカブツって、酷すぎやしねぇか」
「おや、すまん」
「思ってないくせに」
汗をダラダラ流しながら国連に渡された地図通り進む。にしても、八月も終わり九月に差し込むのに暑さは遠慮を知らないのか、まだまだ酷暑である。湿度も加わり、外に出れば簡易的なサウナかと言いたくなる。
「あ…着いた」
「…ここか」
デカデカと豪華な看板に「Hotel」と書かれている。地図から読み取っても、目的地…これから世話になる部屋とは、ここの事だろう。ソ連が入ってきたばかりなのだ、旧国アパートに空きなどあるはずもない。
外見は良し。嫌な感覚もしないためソ連と目合わせをした後、取り敢えずで入ってみる事にした。
「ん、内装も綺麗じゃないか。しっかりとした所を取ったみたいだな」
「お前、国連のこと全然信用してねぇのな」
「ふん」
盗聴器や盗撮機、爆破物も特に無く、ひとまず安心して住める環境ではありそうだ。ひと段落した事だし、荷物を箪笥へしまう。と言ってもお互いに持ち物は少ないため、ほんの数分で一通りの作業は片付いた。
にしたって、アパートから新幹線で三時間。そこからバスで二時間、徒歩十五分。何故こんなにも遠い場所を取ったのかとゲンコツをお見舞いしてやりたい。まあ旧国を匿うくらいなのだから、見つかりづらいと言われればそれまでではあるが、やはり疲れは溜まる。しばらくはソ連以外の知人とも簡単に会える訳では無さそうなので、暇を持て余してしまうかもしれないな。
……。
「にってぇい。何だよ、むずむずし出して。ムラムラしたか? お?」
「死ね」
「相手するぜ?」
「間に合ってる」
「今はいねぇだろ」
和室がない。ただそれだけなのに、体がムズムズする。まるで、醤油のかかっていない冷奴を食べる気分だ。“これじゃない”感が否めない。
「はーん…畳だな? ちょっと待ってろ、通り道にホームセンターあっただろ確か」
「…よく分かったな」
「まぁな、これでも同居人だ」
「…それだけか。恋人とでも言え、独りよがりみたいで虚しいだろう」
は!? と目ん玉をひん剥くくらいの勢いでこちらを見てくるデカブツは、飲もうと口を付けていた茶を吹き出した。汚いぞ。
「おい、何吹き出しているのだ。ばっちいな」
「お前のせいだろうが」
全く、これだから唐突なデレは心臓に悪いんだよ…とブツブツ文句を垂れ流しながらも財布を手に取り、ホームセンターにソ連は向かうべく部屋のドアを開けた。カードキーも持たずして、私が外出でもしたらどうするつもりなのだろう。
「というか、茶を拭いてから行けよ…はぁ」
己の悪戯心が返ってきてしまい、拳に力が入った。
というのが一週間前の出来事である。己でも思うが、中々良い生活を送れている、はず。朝起きればソ連がコーヒーを淹れており、自身の分も一緒に作ってくれる。昼は仕事、夜は時に外食、時に自炊。前のアパートほど自由は効かないが、それでも楽しく過ごせているのは事実。国連の「僕に感謝しなさい!」とドヤ顔している様が脳裏に浮かび、それを殴って消滅させた。
「ん~…今日はこれで終わりだな。夕飯作ってくる」
「ありがとう、助かる」
「お前はまだ仕事残ってるのかよ。昨日も夜遅くまでモニター付けてたし、体ぶっ壊すぞ」
「今更だな」
横の変態はむっと顔をしたかと思えば、私を俵担ぎをし、無理やり台所の椅子にくくりつけた。動けない。もちろん台所までの廊下で暴れたわけだが、体格差あってか上手く潜り抜けられない。糞、腹が立つ。当てつけか?
「おい、今すぐこの拘束を解け。私にはまだ仕事がn」
「煩い。お前が自分の体を大切にしないからだろうが、いくら国といっても倒れるし病気にはなる。そんなの常識だろ」
知っている。バカにするなと言ってやりたいが、今それを言ってやったって此奴は聞きもしないだろう。
「大丈夫だ、それほど無理はしていない」
「とりあえず飯を食え、それからだ」
「……ん」
頭をポン、と撫でられてしまえば此方が折れるしか無かろうに。こういう仕草にも腹が立つ。いちいち突っかかるようで悪いが、妙に様になっているのも苛立ちを加速させる材料にしかなり得ない。あぁ、もう。
それでも美味そうな匂いが漂ってくれば、忘れていた空腹が感覚を取り戻してくる。目線が無意識に鍋へと向き、大きなソ連の背中が視界に入れば安心する。幼い頃に父が夜食を作ってくれた日を思い出してしまい、懐かしさを覚えた。ホワホワ…と心が変に温まっていくのを感じながら、永遠とも思える一瞬の時間が過ぎ去ったようだった。
コトン。
目の前に初見の料理が置かれる。
「これは…?」
「Холодецだ。あーと…日本ではホロデッツと言うんだっけか? まぁ、疲れに効くやつ」
「ほう…」
一見すると、「茶色」としか言い表しようの無い料理。
「これは、に、肉か?」
「ビンゴ。豚足を使ってる。コラーゲンがたっぷりで食いごたえもあるぞ、野菜も入れたから食べられるだろ」
「あ、あぁどうも…」
勇気が出ない。ゼリーのような、これは寒天か? そもそも手まで拘束されているのだから物理的に食べられない。さっさと外せ。
「お、悪い。あーんしてやるよ」
「気持ち悪いことを言うな。拘束を解けば良い話だろうが気持ち悪い」
「重複させんな」
ガヤガヤ文句を連ねていると言うのに、それに耳を塞ぎながら器用にナイフとフォークでホロデッツを切り分けていく。一口の大きさまで切られれば、フォークに突き刺し、私の口元まで運んだ。おい、自分で食べられるわ。赤ん坊では無いのだから、好きにさせて頂きたい。
「ほら、お口開けて〜」
「黙れ歳下」
「ん、おいちいでちゅよ」
ケタケタと笑い、目を狐にしながら無理やり突っ込んでくる。
もう口の中に入ってきたものは仕方がないので、目の前の最低クズ野郎を睨みつけながら咀嚼した。
目の前のずっと歳上なお子ちゃまは、俺の料理を口にした途端、それはもう人を殺す勢いで目線を厳しくした。おぉ、怖。
よくよく見ればクマも濃い。昨日に無理をさせすぎたかとも思ったが、あれくらいでへこたれる様な奴では無いし、恐らく俺の知らないところで残業だの夜更かしをしていたのだろう。
それでも咀嚼を繰り返すうちに纏う雰囲気は丸くなり、目がキラキラと輝き出した。もう俺が食べさせた事などどうでも良い様で。
知ってる、俺だからこそ。これは『最高に美味い』という合図だ。
「どうだ? お口に合ったか?」
言わなくても分かるだろう、さっさと次の一口をくれと目線で訴えかけてくる。はいはい、仰せのままにとまた一口サイズに切り、次はパクチーを少量乗っけてみる。
これもまた好評らしく、食いしん坊な姫は はにかみながら無邪気な笑みを浮かべてこう言う。
「ありがとう。とても美味しいよ」
「…ん」
ちょびっとだけ、今までの過去が許されたような気がした。
「にって〜! 寂しかったよ〜!」
「おかえり。二人だけのセックスは味気なくてな、フェラ出来ないし。やはりお前が必要だ」
「最低かお前」
「俺も混ぜて?」
無事三週間を過ごし、改修完了の連絡も入った。また長い移動を得て、無事このアパートに生還出来たのは誇らしい。より、恋人との距離も深められて。
「結局どうだったの? 二人っきりだったんでしょ」
「セックスしたのか?」
「した」
「馬鹿正直に答えるなよ馬鹿者が」
イタ王とナチの素朴な疑問に真っ白けで答えると、日帝からドツキが返ってきた。しかもまた重複してるし。納得がいかないぞ。
いつも通りの日常が、ほんのばかし甘くなっていたような感覚もする。本当に誤差なのかもしれないし、もしかすると気のせいかもしれない。
まぁ、どちらだって良いんだ。ただ楽しくて、平和で、バカやって笑える程に今を謳歌しているのだから。
変なしがらみも無くこうやって恋人や友人らと話せるのも、いつまで続くのか分からない。下手すると、もう日帝とは二人っきりで外泊なんてする事は無いのかもしれない。
国連に感謝だけはしておこうか…と考えていると、日帝に今度はマフラーを絞められた。
「うぉッ、どうした!? 苦しい!!」
「私たちが目の前にいるというのに、考え事とは失礼だな。それまでの存在か?」
日帝の後ろを見れば、ナチとイタ王も不満そうな顔を露わにしていた。そうだな、お前達は己が優先されないと許せないもんなと一掃してやれば、また口達者な言葉が転がってくる。
あぁ、確かに馬鹿馬鹿しい。未来なんて考えなくても、きっと、このアパートに居る限りは離れたりなんかしない。勘だけど。
「あ、でもソ連の部屋の修復は終わってないみたいなんよ。しばらくはまだ日帝の部屋に居候だね」
「…………」
「お、マジか。やったぜ! まだ日帝と同居だな!」
「……うち、来るか? 日帝」
「…………行く」
「俺も行く」
「じゃあ僕も住む」
「来んな」
明日から、またよろしくと。そう伝えて部屋を去った。