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クラス会の会場である海鵬高校近くの居酒屋に恭介と智絵里が到着すると、既に大部屋に集まっていたクラスメートたちが二人の姿を見るなり騒ぎ出した。
女子たちはコソコソと何かを話し始め、男子たちは興奮気味に二人に近寄ってくる。
「おいおい! 篠田と畑山さんが同時に到着したぞ!」
「どういうことか説明しろよ〜!」
「まさか今も番犬続けてるのか⁈」
「どうなんだよ! 篠田〜!」
恭介は面倒くさそうに頭を掻くと、智絵里の腰に手を回す。
「俺たち付き合ってるから。お前ら智絵里のそばに絶対に寄るんじゃないぞ」
するとその場にいた全員が各々の声を上げる。智絵里を狙っていた男子からは落胆の声が。女子たちからは番犬がとうとう飼い主をおとしたと興奮の声が響く。
恭介の|惚気《のろけ》のようにも聞こえたが、男子が不用意に近付かないよう威嚇した言葉だと思うと、彼のさりげない気遣いが嬉しかった。
「ま、マジか〜!」
「とうとうそうなったのか〜! 良かった良かった!」
「めでたいから乾杯するぞー!」
「っていうか詳しく話を聞かせろよ〜」
今日のことは二人の間でいろいろ決めていた。智絵里は恭介以外の男性は拒否反応が出るため、なるべく離れないようにすること。早川とは後日話す場を設けるので、今日は要点のみ話す事。そして二人の関係性をクラスメートに明かすこと。
しかし決めていたにもかかわらず、恭介は呆気なく男子たちに連れて行かれてしまった。仕方なく智絵里はよくおしゃべりをした女子の元へ行く。
「智絵里ちゃんってば〜! 久しぶり! 元気してた?」
クラスで一番秀才だった|蒔田《まきた》|睦月《むつき》が嬉しそうに話しかけてきた。よく二人で勉強をしたことを智絵里は思い出す。睦月は国立狙いだったため、智絵里と同じく最後まで学校に来なかった。
睦月は小柄でショートカットのよく似合う女の子だったが、それは今も変わらない。
「むっちゃんこそ元気だった?」
「元気だよ〜。っていうか、篠田くんと付き合ってるの⁈ びっくりなんだけど」
「うん、実はねぇ」
「やっぱり篠田くんから告白した感じ?」
「……なんでそう思うの?」
「だってあの頃から独占欲の塊だったじゃない。智絵里ちゃんの隣は俺以外許さん! みたいな空気漂わせてたし」
「そうかなぁ。その辺のこと、あまりよく覚えてないんだよね」
「でも智絵里ちゃん、部活の時間って男子によく話しかけられなかった? あれってみんな篠田くんのいない時間を狙ってたんだよ。番犬のいない間にあわよくばってね」
「まぁ……でも確かに恭介がいる時って、煩わしいものから解放されてた気がする」
「煩わしいって、智絵里ちゃん毒舌」
そう言って睦月は笑い出す。
「ねぇねぇ、篠田くんって付き合ったらどんな感じ? あれだけ忠犬ぶりを発揮してたし、かなり智絵里ちゃんにメロメロなんじゃない?」
「う〜ん……その言い回しはわからないけど、すごく優しいよ。いろいろわがまま聞いてくれるし」
「きゃー! やっぱり忠犬は健在なのねぇ。なんか萌えるわ〜」
やけに興奮する睦月に、智絵里は苦笑いをする。高校の時の恭介って、こんなにいじられキャラだったっけ? それにしても、恭介が番犬なら私は飼い主ってこと? 考えても想像が追いつかなかった。
智絵里は恭介の方を見る。たくさんの男子に囲まれ、楽しそうに話している。恭介のこういう姿は高校の時は当たり前のように見ていた。二人でいる時の恭介も好きだけど、こうして楽しそうに騒ぐ姿も好きだった。