テラーノベル
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「ねぇ…馨さん」
もうろくに動かない手を愛する人に向かって伸ばす。
愛する人は目に涙を一杯に浮かべて優しく四季の手を握り、己の頬へ持っていく。
「四季君、嫌だよ」
鬼神の子は、長くは生きられない。
分かっていたことだ。やり残したこともない。
鬼と桃の戦争も終わりを告げ、何人も、何人も彼女を見舞いに病室へ来た。
嬉しかった。楽しかった。
だが、最期は二人が良かった。
四季は笑みを作ろうとしたが失敗し、代わりに情けなく、頼りない声が出た。
「しにたく、ないなぁ…」
その言葉を言うと止めどなく涙が溢れ出し、嗚咽がひどくなっていく。
「かお、る、さん」
一度出てしまった言葉は感情の奔流となって四季を襲い、言葉を口から押し流していく。
「しに、たく…ないよぉ」
馨は四季を抱き締め、安心させるように背中を撫でる。
その優しさにさらに涙が溢れ、弱々しく馨に腕を回した。
「大丈夫、四季君」
子守唄を歌うように安心する声音で馨は言った。
「一緒に逝くから。一人にしないから」
自分も泣いているというのに四季の涙をぬぐい、笑っている。
四季は安心して力が抜けたのか「そっかぁ」と笑い、馨の涙を腕を震わせながら弱々しく拭った。
「おれ、一人じゃ…ないんだね」
「…うん」
馨はポケットから小さな箱を取り出すと、その中にある指輪を四季の薬指へ通す。
馨も同じ指輪を薬指へ通し、四季の手の甲に口づけをした。
「ずっと、一緒だよ。四季君」
四季はへらりと笑うと静かに目を閉じ、すぅ、と息を止め、彼女自身の時を止めた。
馨はおもむろに四季の隣へ寝っ転がり、首に銃を突きつけ、言った。
「一生愛してる」
病室に、乾いた音が鳴り響いた。
コメント
5件

良いかおしきです… 置いていきたくない四季くんと、置いていかれたくない馨さん。バラバラは嫌だから一緒に逝くという合理的なんだけれども、胸が苦しくなるような選択。 綺麗な終わり方で、メリーバットエンドって言った方が良いのでしょうか… ありがとうございます 自分の拙いものをここまで良い作品にしていただいて感激の限りです