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それから数か月が経ち、藤本美咲は槙原健司と共に何度も手術を経験し、オクタヴァン・クリップの効力とそのリスクについてさらに理解を深めていた。槙原の技術は確かで、彼の手にかかればオクタヴァン・クリップのリスクも最小限に抑えられていたが、それでも術後のリスクを完全に取り除くことはできなかった。美咲はそのたびに「もし他の方法があるなら」と悩み、槙原に疑問をぶつけた。
「先生、この器具に頼らず、患者を救う道はないのでしょうか?」


槙原は美咲の真剣な瞳を見つめ、しばらく黙っていたが、やがて重い口を開いた。


「美咲、僕だってオクタヴァン・クリップに頼らないで済むなら、そうしたい。でも、君も見てきた通り、この病院には助けを求める重篤な患者が次々と運ばれてくる。彼らを救うためには、このクリップが必要なんだ。だが……」


槙原は一瞬言葉を切り、険しい表情で続けた。


「実は、クリップの開発者である柿沼教授が最近、大学の研究所から姿を消してしまった。彼のいない今、器具の改良や安全性の確認は難しい状態だ」


この衝撃的な事実に美咲は言葉を失った。クリップの開発者自身が姿を消し、さらなる改良が進められないという現状。それは、槙原も同じ不安を抱えていることを意味していた。


ある日、槙原と美咲は、オクタヴァン・クリップのリスクにより再手術を必要とする患者が出てしまい、苦境に立たされた。その患者は家族が遠方に住む高齢の女性で、再手術にはリスクが大きく、今度の手術で失敗すれば命の保証はない。槙原はその患者の家族に説明をしながら、自分の胸の内にある罪悪感と焦燥感を隠せなかった。


夜遅く、美咲は手術室を後にする槙原を追いかけ、ついに自分の意志をぶつけた。


「先生、私が柿沼教授を探し出して、オクタヴァン・クリップの改良を提案します。これ以上、患者にリスクを負わせたくありません」


槙原は驚きつつも、美咲の決意に満ちた表情を見て、少し微笑んだ。そして彼女に言った。


「君がそこまで言うなら、私も協力しよう。柿沼教授の行方は病院の上層部も探っているが、どうやら彼は独自に別の病院で研究を続けているらしい。二人で情報を集めよう」


こうして槙原と美咲は、オクタヴァン・クリップの安全性向上を求め、柿沼教授の行方を追うことになった。調査を進めるうちに、二人は大学病院の裏で行われている「臨床データ改ざん疑惑」にも直面する。オクタヴァン・クリップが臨床試験で本来許容されるリスク以上の副作用が確認されていたにもかかわらず、そのデータが意図的に隠蔽されていたのだ。


その発覚は二人にとって衝撃的だったが、同時に「医療の倫理とは何か」という問いを再認識させた。槙原もまた、技術に頼ることへの葛藤と罪悪感に悩んでいたが、今度こそ、自らの技術と責任を持って医療の真実を明かすと決意する。


やがて二人は柿沼教授を見つけ出し、教授の手によって改良された「ネオ・オクタヴァン・クリップ」を入手することができた。新しいクリップは副作用を抑え、患者の負担も軽減するものであり、二人の努力が実を結んだ瞬間だった。


最終章では、美咲は一人の外科医として、槙原から新しい器具と技術を託され、若手医師として成長していく。そして槙原もまた、長年にわたって抱え続けた技術者としての苦悩から解放され、病院内での役割を終え、新たな道を歩み始めるのだった。



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