世界を紡ぐ者
プロローグ:願いの代償
白い空間に、一人の少年が佇んでいた。
「あなたが私の声を聞いたということは、死を迎えたということ」
どこからともなく響く声に、高校生の篠原カズマは首を傾げた。
「死んだ…?ああ、そうか。トラックに轢かれそうな女の子を助けようとして…」
「その通り。あなたの勇気ある行動は称賛に値します。その報酬として、特別な力を授けましょう」
声は続けた。
「異世界で、人々は魔王の脅威に怯えています。その世界を救ってくれませんか?」
「異世界…ですか」
カズマは考え込んだ。英雄になれるチャンス。しかし、彼の心に浮かんだのは―
「家族が心配してるはずです。できれば、早く帰りたいんですが…」
「なるほど。では、この力はいかがでしょう?」
光の中に、一つの単語が浮かび上がる。
『世界転移』
「この力があれば、世界と世界の間を渡ることができます」
「これなら家に帰れる!」
カズマは即答した。
声は静かに続けた。
「では、約束してください。魔王を倒し、世界を救うと」
「はい。約束します」
光が強くなり、カズマの意識が遠のいていく。
「目覚めた時、あなたは異世界にいることでしょう。そして…」
最後の言葉は闇の中に消えていった。
第一章:感情を失った世界
1-1:予期せぬ到着
目を開けると、そこは未来都市だった。
「ここは…異世界?」
整然と並ぶ超高層ビル。空を行き交う浮遊車。街中に踊るホログラム広告。
しかし、何かが違和感を覚える。行き交う人々の表情が、あまりにも虚ろだった。
「警告。感情反応を検知。美術館地区にて違法な感情活動を確認。排除を開始します」
機械的な声が街中に響き渡る。
「感情活動?違法?」
疑問を抱きながら、カズマは警報の方向に足を向けた。
[続く…]